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第1回

第1章 カーニバルの日

1937年の春、パリの新聞に、小さなカコミ記事が出ていた。それは、ことしの夏に海辺をにぎわすであろう新作水着の記事であった。〃大胆な美の表現、ツーピース型水着〃タイトルはこんな調子のものだが、記事の内容はかなり皮肉な文体だった。1930年代にはいってから急激に、フランスのファッション界は、女らしさというテーマで、すべてのファッションの発表をしてきたのだが、ロング・スカートも七、八年つづくと、ようやくあきが来て、この年あたりからボツボツ、ショート・スカートを発表するところも出てきていた。そしてそれは、40年代の、大戦の時までつづいていたのだが、今はまだ戦争の気配すら感じられず、市民たちの生活は陽気で明るく、女たちはおしゃれに気をとられ、男たちは子供のようなゲームに夢中になっていた。全体に退廃的なムードの中で、上流階級の人々まで、その渦の中に巻きこまれていった。いや、むしろ、ほんとうの中心は、彼らだったのかもしれない。冒険、社交、らんちき騒ぎ、そんな中で、ある者は成功して巨万の富を得、あるものは没落していった。そして、ごくわずかな人々が、そんな風潮に眉をひそめていた。

[若い娘はミニ好き]

「ルイーズ、ルイーズ」

かん高い声が屋敷じゅうに広がる。呼ばれた女中のルイーズが足早に階段を上って来る。黒のワンピースに黒のソックス、まっ白なエプロンとヘヤ・バンド、そんな地味な洋服でも、この若い娘のはつらつとした明るさをつつみきれはしなかった。

「はい、奥様」

「ああ、ルイーズ、娘のフランソワを呼んで来てちょうだい」

「かしこまりました、奥様」

「おや、おまえの洋服、ずいぶんスカートが短いようだけど、どうしたの?」

「はい、奥様…」

「おまえ、自分で短くしたのかえ」

「いいえ、奥様、あたしの背がのびたんだと思いますけど」

「そう それじゃ、また新しいのを作ってやらなければね」

「はい、奥様。それでは、お嬢様を呼んでまいります」

ドアを締めながらルイーズは、クスッと笑った。毎日1センチぐらいずつ縮めたから、もう5センチぐらいは短くなったはずよ、ふふ……それにしても、あんな大きな声であたしを呼ぶなら、最初からお嬢様を呼べばいいのに、あの声なら、屋根裏にいたって聞こえるわ。

「お嬢様、お母様がお呼びです」

「わかったわ、ルイーズ。ママはまた、頭が痛いって騒いでいるんでしょ。このごろ毎日なんだから」

「お嬢様、きょうはお出かけの日でしたね。おしたくしておきます」

「ああ、もう一週間たったの。でもきょうはカーニバルだし、あたし行きたくないわ。お母様にそう言っておくから、きょうは行かないわ」

「はい、お嬢様、それではそういたします」

「ところでルイ-ズ、きょうは、おまえもカーニバルに行くんでしょ」

「はい、タ方からおひまをいただいてありますから」

「いいわね。おまえたちは、ひとりで自由に遊べるんだから」

「さあ、お嬢様、お母様がお待ちですよ」

「はい、はい」

[待ち含わせ]

「お母様、ご用は何?」

「ああ、フランソワ、わたしは、気が狂いそうよ。おとう様は、この間ライオン狩りから帰ったと思ったら、すぐにまた行ってしまうし、なんでもこんどは象狩りですってさ。まさか、象の首は持ってこないでしょうね。それに、むすこはむすこで、飛行機乗りになるんだなんて行ってしまったきり家にはちっとも帰ってこないし、わたしはね、おまえだけがたよりなんだよ。これ以上、バカな人はこの家から出したくないもの、ほんとうにわたしは気が違ってしまうよ」

「お母様、そんなことないわ。おとう様もおにい様も、とてもすばらしいことをしているんですもの」

「何がすばらしいものかね。わたしだけ毎日、心配で心配で頭を痛めているというのに」

「お家にばかりいらっしゃるからよ。たまには音楽会へでもいらっしゃればいいのに」

「ひとりでかえ。冗談じゃありませんよ。そうそう、そういえばきょうは伯父さんのところに行く日だっけね。おそくなるといけないから、もういいのよ。早く行ってらっしゃい。帰って来たら、あなたにひいてもらうわ。だいぶうまくなったでしよう。バイオリン」

「ママ、そのことなんだけど、あたしきょう、お休みしてはいけないかしら。きょうはカーニバルだし、見物に行きたいわ」

「そうね。でも、ママはいっしょにいけないし、それに、伯父様の家は広場の近くだから、練習がうまくできたら、伯父様にごほうびにカーニバルにつれて行ってもらいなさい」

「ママはそのほうがいいと思う?」

「そうね。お休みするのはよくないわ。それに、伯父様といっしょなら安心だし」

「ママがそう言うのなら、そうするわ」

「さあ、早く行きなさい。ママが伯父様にお手紙を書いてあげるから、それを持って行きなさい。そうすれば、きっと連れていってもらえるわ」

「はい、お母様、そうします」

フランソワは、洋服を着替えると、バイオリンのケースを持って階下に降りて行った。母親に書いてもらった手紙をたいせつそうに手さげの中にしまい込んで、玄関のほうに歩いてゆくと、女中のルイーズが出て来て、

「お嬢様、やっぱりお出かけになるんですか」

「ええ、カーニバルには、伯父様と行くことにしたの」

「そうですか、では、ちょっとお待ちください。馬車を呼んできますから」

やがて馬車が入り口のところまで来ると、フランソワは中に乗り込みながら、

「ルイーズ、おまえも行くんでしょ。むこうで会えると楽しいんだけど。伯父様とふたりじゃつまらないわ」

「そうですね、お嬢様。ほんとにお会いできるといいんですけど」

「ねえ、ルイーズ、あたしのお稽古はたぶん六時ごろ終わるから、それからお食事して、七時半ごろには広場に行かれると思うわ。どこか待ち合わせる所はないかしら」

「そうですね。それじゃ、人形芝居のところでお待ちしてますわ。でも、お嬢様、お待ちするのは三十分だけですよ」

「いいわ、必ず行くわ。じゃあ、ね」

「はい、お嬢様。行ってらっしゃいませ」

[からだで覚えろ]

やがて広場の近くの伯父の家に着くと、そのあたりはもう昼間からお祭り気分で浮き浮きとしていた。そして伯父の家からはバイオリンの音が聞こえていた。

〃誰かしら?あたしと同じ練習曲だわ。でも、あたしよりうまいみたい〃

しばらく聞き耳をたてていたが、ソランソワは、そっとドアをノックした。同時に、音がやんで伯父がドアをあけてくれた。

「伯父様、今日は。お稽古お願いします」

「フランソワ、きょうはおそかったね。しばらく待っていたんだが、次の娘さんが来たんで、先にはじめてしまったんだよ。もうすぐに終わるから、となり部屋で待っていらっしゃい」

いったん部屋の中にはいってから、となりの小部屋にはいろうとした時、ピアノのかげにちらっと見えたのは、自分より二つか三つ若い少女だった。

「あと10分ぐらいだからね」

そう言うと伯父は、ドアを締めて行った。

フランソワが耳を澄ませていると、伯父の声がきこえてきた。

「さあ、マリアンヌ、あと一回、あと一回だよ。きょう注意されたところをとくに気をつけて。さあ、おひき」

さっきと同じ練習曲が流れてきた。まったくみごとなひき方である。あの少女が、あの曲を。フランソワは、信じられなかった。しばらくはうっとりと聞いていたフランソワが、ちょっと首をかしげて、今のはたしか半拍早かったようだけど……そう思ったのと同時に、伯父の声が聞こえてきた。

「また、また、また。またまちがえたね。マリアンヌ。どうしてなおらないんだ、そこのところは。タタタッタッタと区ぎりながらひくんだ。きみのは、タタターッタになってるんだよ。きょう、同じことを三回も注意されたじゃないか。そんなふうじゃ、家に帰って練習する時も忘れてしまいそうだね。きょうはこれで終わりにするんだから、そのかわり、家に帰っても忘れないようにしてあげようね、マリアンヌ。さあ、楽器をそこに置いて、こっちに来るんだ」

「先生、もう一度、もう一度やらせてください。こんどはまちがえませんから」

「いや、それはできないよ。先生は、これで最後だと言ったはずだ。さあ、こっちにおいで。おまえは、きっと、家でなまけていたんだろ。そんななまけ者は、先生がたっぷりと懲らしめてやる。さあ、来るんだ、マリアンヌ」

「はい、先生」

となりの部屋で聞ていたフランソワは、どうなることかと胸をドキドキさせながら聞き耳をたてていた。すると、

「ビシッ、ビシッ」というするどい音が聞えてきた。

「ああ、あの娘は、伯父様にたたかれているんだわ。かわいそうに」

 同時に、娘の悲鳴も聞こえてきた。

「あ-っ、あ-っ、痛いわ、痛い! 先生、許して。もうまちがえませんから。先生、いっしょうけんめい練習しますから。あーっ、もうぶたないで……」

 十ぐらいたたいてから伯父様は、

「さあ懲らしめはこれくらいでいいだろう。次は、今のところを忘れないようにしてやる」

そう言うと、口で、タタタッタッタと言いながら、それに合わせてまたたたきはじめました。

「いいか、タタタッタッタた。わかったか!」

「はい先生。もう、よくわかりました。もうじゅうぶんです」

「いいか、もう一度やってやるから、よくおぼえるんだ」

ピシッ、ピシッ、ピシッ。ピシッ。ピシッ!

「あ-ん、もうわかりました。もうたたかないでください。まちがえません、あ-ん」

「よし、それじゃ、したくしてお帰り。いいね、この次に来る時までに、よく練習しておくんだよ、マリアンヌ」

「はい、先生、わかりました」

[何時間でも練習]

「フランソワ、おはいり」

突然、自分の名まえを呼ばれて、びくっとしたフランソワは、バイオリンのケースを持つと、そっとドアをあけました。そこには、まださっきの少女がバイオリンをケースの中にしまっていました。そして右手でお尻をさすっていましたが、フランソワがはいって行くと、顔を赤らめて恥ずかしそうに部屋を出て行きました。

「伯父様、今の女の子をたたいたでしょ」

「ああ、たたいたよ。家に来る子は、みんな、ああやって教えるのさ。たたかないのはおまえだけだよ」

「なぜ?」

「おまえのお母さんが、たたかないでくれって言うからさ」

「そう。でもたたくなんてかわいそうだわ」

「とんでもない。わたしはむしろ、おまえのほうがかわいそうなくらいだよ。昔から、音楽を教わる時は、みんなたたかれるものなんだよ。今の娘だって、そうだろ、同じところを三回も言われてできないような時は、今のようにたっぷりとお尻を懲らしめてやるのさ。そうすれば、この次からは、ちゃんとできるんだから。おまえは、そうしてもらえないから、いまだに練習曲しかひけないんだよ。それも、今の娘よりへたくそなひき方しかできないじゃないか」

「でも、あたしはいやよ」

「さあさあ、はじめたはじめた」

「伯父様、その前にお手紙を読んでほしいの。お母様からよ」

「どれ、見せてごらん」

手紙を読んでいる伯父の顔がだんだんけわしい顔になって来た。そして途中まで読むと、

「なんだと! カーニバルへ連れて行け、だと! ああ、いったい、おまえのママは、わたしをなんだと思ってるんだ。おまえの教育をなんだと思ってるんだ。それにフランソワ、おまえもだ。そんな気持ちでいるから、いつまでたってもじょうずになれんのだぞ。いいか、きょうは、伯父さんがよしというまでは、何時間でもやらせるからな、いいな」

 あまりはげしい伯父のけんまくにおどろいて、ついフランソワも、はいと言ってしまった。

[花火の音に逃走]

伯父のことばどおり、もう二時間半もぶっ通しでひかされていた。二回だけ休憩したほかは、ほとんど立ちどおしでひかされたフランソワは、今にも泣きそうな顔をしていた。ルイーズと約束した時間はだんだん近づいてくるし、タ方になるとあちこちから花火の音などが聞こえて来て、それがよけいフランソワの手を狂わせた。

「ああ、おまえはどうして、そんなひき方をするんだ。とてもつきあってはいられないぞ。となりの部屋で聞いているから、つづけてひいていなさい」

そう言うと伯父は、となりの部屋に行ってしまった。

しばらくはひいていたフランソワも、急に悲しくなって、バイオリンを床にたたきつけるようにして外に飛びだしていった。後ろから伯父の声が聞こえたが、もういちもくさんに広場に向かって走っていた。そして、ようやくルイーズを見つけると、フランソワはルイーズに抱きついて泣いた。

「まあ、お食事もなさらずにですか。まぁ! そんなひどいことを。かわいそうにね。さあ、これをお食べなさい」

そういって、ルイーズの出してくれたものは、今までにフランソワが見たこともないようなものばかりだった。そして、おなかがいっぱいになると、悲しいことなど吹っ飛んでしまって、フランソワは、ルイーズと遊び歩いた。

しかし、そのころ、フランソワの家では、

「どうしょう、このままもう帰って来ないのじゃないかしら。あなたがいけないのよ。どうしてくれるの。ああ、気が狂いそうだわ」

「わたしの手にはおえんよ、あの娘は。飛び出していってしまったんだから、わたしもあとを迫いかけたんだが、きょうは人が大ぜい出ていて、すぐに見失ってしまったんだ。でも、だいじょうぶ、きっと帰って来るよ。しかし、帰って来たら、あの娘の教育方針を変えたほうがいいと思うがな」

「そんなことはどうでもいいわ、帰って来てからにしてちょうだい」

[修業のために修道院で]

その日フランソワが帰って来たのは、10時を少々回ったころだった。

「お母様ただいま、楽しかったわ」

そう言いながら部屋にはいって来て、そこに伯父の姿を見つけると、フランソワは急に、きょうの自分のしたことを思い出した。

「フランソワ、よく帰って来たね。どうしておまえは、お母さんに心配をかけるの。でも、よかったわ」

「ごめんなさい、ママ。あたし……ちょっと」

「そう、ちょっと悪い娘だったようね。そのことで伯父様とお話があります。だから、自分の部屋に行ってらっしゃい。それから、伯父様におわびを言いなさい」

「伯父様、ごめんなさい、もうしません」

「どうも、おまえにはあきれたよ。わたしの娘なら、ただではすまさんのだが、これからおまえのことで相談をするから、自分の部屋で待っていなさい」

「はい」

フランソワは自分の部屋に戻って行った。

「どうです、今の態度は、まるで自分のしていることの意味がわかっとらん。あんなふうでは、どこからも嫁のもらいてがなくなってしまいますよ」

「そうねえ。あたしもちょっと心配になってきたわ。でも、どうすればいいの」

「あなたは自分でできますか? どうやら、わたしのみたところ、あなたは教育者には向かんようだ」

「そうね、あたしは自信がないわ」

「それではしかたがない、パンテモンの寄宿舎に入れなさい。一年でいい」

「パンテモン? 修道院へ?」

「そうです。修道院といっても、あそこは2つのコースがあって、尼になる人たちとは別に、一般の女子を教育してもいるんですよ」

「それで、どんなふうなの」

「わたしにも詳しいことはわからないが、だいぶ厳しいらしいですな。しかし、上流階級の、手におえない娘は、あそこに一年も入れられると、まるでおとなしい、がまん強い子になって出て来るそうですよ」

「でも、あの子はひとりで何もできないのよ。だから、そんな所へやるのはかわいそうだわ」

「それだからこそやるんです」

「それじや、誰かを付けてやるわけにはいかないかしら。その……女中のルイーズなんかを」

「それはムリですね……でも、もしお金を出すんなら、ルイーズも生徒として行かせたらどうですか。そうすれば、めんどうをみてもらえるかもしれませんよ。もちろん、修道院のほうには内緒にしといてね」

「それはいい考えだわ。それじゃ、そうしようかしら。それでいつ……」

「早いほうがいい。あしたにでもわたしがつれて行きましょう」

「そうですか。それじゃ今、娘とルイーズを呼んで話をしましょう」

[朝六時に迎えにくる]

やがてふたりの顔がそろうと、伯父さんが「そういうわけで、おまえたちふたりは、あした、パンテモンの修道院へ行くんだ。一年たったら出してやる。その間いっしょうけんめい勉強するんだよ」

修道院の内情をあまりよく知らないフランソワは、さほどおどろきもせずに黙ってうなずいていた。しかし、ルイーズは、悲しそうな顔をして、

「だんな様、どうしてもあたくしもいっしょに行かなくちゃあいけないのですか」

「そうだよ、いやなのかい」

「いやです……行きたくありません」

「まあ、ルイーズ、どうしてなの。あたしといっしょにお勉強したり、歌を教わったりするのがいや」

「お勉強? お歌? お嬢様はなんにも知らないから、そんなのんきなことを言って」

「それじや、おまえは知っているというの」

「知ってます。あたくしの家の近くにも修道院があって、あたくしも子供のころはたいへんイタズラ娘だったんで、十二の時に、母はたまりかねてあたくしをその修道院にたたき込んだのです。まずい食事、堅いふとん、それに畑仕事や水くみ、むずかしい勉強、朝早くから起こされて、そして夕方には必ずお仕置きされるんですから。仕事をなまけたからといってはたたき、食事に不平を言ったからといってはたたき、勉強ができないといってはたたき、あたくしだって、子供の時から父や母にはたたかれて育ったんですからたいていのことでは音をあげないけど、あそこのだけは別。だって、お嬢様、むき出しのお尻をシラカバの枝でたたかれるんですよ。タ方のお仕置きの時間には、皮ムチですよ」

フランソワはすっかり青ざめた顔で、

「でも、それはおまえが子供だったからでしょ。十六歳はもうおとなよ、まさか裸にはしないわ」

「とんでもない、お嬢様。十八だろうが、二十だろうが、みんな同じですよ。とくに夕方のお仕置きの時間は、ひとりずつ名まえを呼ばれて、副院長が読み上げる数を、院長先生がたたくんですからね。名まえを呼ばれた者はひとりずつ台に上がって、みんなの前に自分の恥ずかしいところを丸出しにしてしまわなければならないんですからね」

「まあ! そんな恐ろしいことを。お母様、あたしどうしても、そこにはいるの。ねえ伯父様、ルイーズの言ったことほんとなの。だったら、あたしいやよ。お願い、この次からいっしょうけんめいにお稽古しますから、あたしをそんな所に入れないで」

「そんなに心配しなくてもいいよ。ルイーズの言ったのは、パンテモンとは別の所だし、それにルイーズのは無料で行ったんだろ」

「ええ、無料でした。でも、そんなに変わらないと思いますけど」

「そんなことはないよ。パンテモンには毎月高い月謝を払うんだから。食事だってだいぶぜいたくなものだし、部屋もふたり一組の個室になっているそうだし、ベッドも……」

「伯父様、あたし、お食事やお部屋のことなんかどうでもいいの。ただ、その……つまり」

「つまり、おまえは罰のことを知りたいんだろ。今の生活から考えれば、多少は覚悟しなければならないよ。あそこへは、そのために入れるんだから。しかし、パンテモンでは、労働なんてさせはしないし、だから、おまえたちは、いっしょうけんめい勉強さえすれば、そんなに罰を受けることはないのだよ。いいね、あしたはふたりとも、わたしといっしょにパンテモンに行くんだ」

「はい……」

「それからルイーズ、おまえは、あしたパンテモンに行ったらフランソワのことをお嬢様と呼んではいけないよ。おまえは、わたしの知り合いの娘ということにしておくからね」

「はい、だんな様」

「だんな様もいけないな。わたしのことは伯父様と呼びなさい」

「はい……伯父様」

「そうそう、その調子でな。そして、フランソワのことはよろしく頼んだよ」

「はい」

「それではふたりとも、部屋に行きなさい。別に何も用意はしなくてもいいからね。よく眠っておくんだよ。あしたは六時に迎えに来るからね」

[鞭跡をご覧になって]

廊下に出るとふたりは悲しそうな顔を見つめあった。

「ルイーズ、どうしましょう……」

「ほんとにねえ……とんだカーニバルでしたわねえ」

「ルイーズ、あたしのお部屋に来ない。ちょっとお話ししましょうよ」

「はい、お嬢様……いえフランソワ」

「おまえはもうすっかりその気になっているのね。えらいわ。あたしなんか……もう、死んでしまいたいくらいなのに……」

「お……フランソワ、そんなことおっしやってはいけませんわ、さあお話をしましょう。少しは気がまぎれるかもしれませんわ」

「ねえルイーズ、もっと詳しく話してちょうだい……その……懲罰の時間ていうのは、な-に?……なんのためにそんなことするの」

「それはつまり、人間は一日のうちに必ず罪を犯しているそうなんで……それで、一日の終わりに罰を受けて、その罪を清めるんだそうです」

「それじや何もしなくても罰を受けるの」

「あたくしの行ってた所ではそうでしたわ」

「で……それは痛いの……」

「そりゃあ痛いですよ、とっても。でも、あたしなんか、痛いのは平気ですけどね。お嬢様は、ご存じないかもしれませんけど、お屋敷の中でもあたくしたちはたたかれているんですよ」

「まあ! ほんと。だれに」

「女中頭のイライザです」

「まあ、そんなこと、それで、お母様は知っているの」

「もちろんご存じです。あたくしたちがたたかれる時は、いつも見ていらっしゃいますからね。女中たちを仕込むには、いちばん良い方法だとおっしやって……」

「まあ、かわいそうに。そんなこと、しょっちゅうあるの」

「ええ、きのうの晩だって……」

「きのうの晩……どうしたの」

「あたくし、カーニバルのことで頭がいっぱいだったもんで、それで、そわそわしていたんですわ。そして、あのピンクのバラの絵の付いたお皿をこわしてしまったんですよ。そうしたら……」

「イライザったら、さっそく奥様に言いつけたんですよ。そしたら、奥様が見えて、これから二度とこんなそそうをしないように教えておやりってね」

「それでどうしたの」

「それで……つまり、イライザがあたしを教育したってわけですよ、お尻からね」

「どんなふうにされたの?」

「いつもと同じですよ。奥様の前でイスに両手をついて、こんなふうにお尻を持ち上げるとイライザが後ろに回って、腰のところをしっかりとかかえて、平手でもって思いきり懲らしめるんですよ。イライザのは、ききめがありますからね。まだ跡がのこってますわ」

「ほんと?」

「まあ、お嬢様はうたぐっているんですか」

「いいえ、そういうわけじゃないんだけど……あたし、信じられないの」

「よろしい、それではお見せしましょ

第2回

う。ほかならぬお嬢様のことですから」

「言い終わらないうちにルイーズは、くるっと後ろを向くと、両手でスカートを持ち上げパンティーの端を下にずらした。

「ほら、お嬢様、わかります? まだちよっと青くなっているでしょ」

「もういいわ、ルイーズ、もういいわ」

フランソワは両手で顔をかくして横を向いてしまった。

「お嬢様、こんなことで驚いてはいけませんきのうだって、たたかれたすぐあとなら、まっかになってはれ上がっていたんですからね。修道院のはそれ以上なんですから」

「あたし、修道院なんかに行きたくないわ」

「でも、お嬢様はご自分が悪いことなさったんですから、しかたございませんわ。それよりもそのことで、あたくしまでがあんな所に一年も行かされてしまうんですからね」

「そうね、あたし、自分のことばっかり言って、ほんとうにゴメンナサイね。おまえまで巻き添えにしてしまって」

「しかたありませんわ。それに、あたくし、たたかれるのはなれてますし、おいしいごちそうも食べられそうだし、それに……ふふ…お嬢様のそのかわいらしいお尻がむき出しにされて、たたかれて、わあわあ泣きわめくところが見られるなんて、ちょっと楽しみじゃございません」

そう言ってルイーズは、いたずらっぽくフランソワの顔を見た。「まあ、ルイーズのイジワル、みんなであたしのことをいじめるのね。もういいわ、出ていってちょうだい」

「はい、はい。それじや、ゆっくりとおやすみなさい。あしたからはいそがしくなりますよ」

聖女の行進 2

第二章 パンテモン修道院

[木立ちの中の鉄門]

 定刻三十分前に伯父は来た。ルイーズに着せる洋服を用意してきたのだった。

「さあルイーズ、これに着替えるんだ。そして、きのう話したように良家の娘としてふるまうんだよ」

「あたしがこれを着るんですかまあステキ! なんて美しいドレスでしょう」

ルイーズはまるで子供のようによろこんで部屋の中を飛びまわった。しかし、フランソワは、一晩じゅう泣き明かしたような目をして顔色も青ざめていた。

 三十分後に玄関に現われたルイーズはみんなを驚かせた。

「まあ、ルイーズ、あなた、とってもきれいよ。そのドレスもびったり合って、とてもすばらしいわ」

「そうですか、あたし、なんだか恥ずかしいわ。ほんとうにきれいなドレス……でも、一時間もしたら、またぬがなきゃならないなんて……」

「どうして? どうしてなの」

「だって、お……フランソワあそこではみんな制服ですもの、そうですわね……伯父様」

「ああそうだよ、みんな同じ制服を着るんだよ」

「そうなの……なんだかあたしまた悲しくなってきたわ」

「さあさあ、そんなに心配しないで馬車にお乗り」

やがて三人をのせた馬車は門を出た。

まだ早朝の風は肌に冷たく、外にはもやが立ちこめていた。そして、時々馬車ゃ自動車とすれちがう以外は、まだ通りもひっそりとしていた。小一時間も走ると、馬車は木立ちの多い道にはいって行き、その先の小さな森にかこまれた教会へと向かって行った。そして大きな鉄の門の前で止まると、そこで三人を降ろした。大門にはカギがかかっていたが、そのわきの小さなくぐり戸のところに、ひとりの尼憎が立っていた。

伯父がその人の前に行くと、尼僧は何も言わずにくぐり戸をあけた。三人が中にはいると、くぐり戸に錠をおろし、前に立って歩き出した。三人は無言でその後ろにしたがった。正面に向かって右のほうの小道を歩いていくと小さな入り口があり、その中は長イスが置いてあるだけの部屋だった。そこで尼僧は、はじめて口をきいた。

「ここでお待ちください、すぐに院長がまいります」

この部屋は修道院の者がほかの者と会う場所になっていた。とくに男はこの部屋より中にははいれないようになっていた。

十分ぐらい待たされると、やがて院長がひとりの若い尼憎と共にはいって来た。

「ゆうべお話ししたふたりの娘を連れてまいりました」

「よくいらっしゃいました。このかたたちですね。あなたがた、お年はいくつ?」

「十六歳です」とフランソワ。

「十八歳です、院長様」とルイーズ。

「そう、ちょっと大きすぎるようね。もう少し早く来ればよかったのにね。最初は初級クラスにはいりなさい。そこは十二歳と十三歳の生徒だけだから、一週間くらいしたら上の中級クラスに回しましょう。そこで様子をみてから、上級クラスに入れてあげますからね。たぶん一カ月ぐらいで上のクラスにはいれるでしょう」

「どうぞよろしくお願いします」

「さあ、それでは、あなたたちはこちらの先生といっしょに行きなさい。このかたはクリスティ副院長です。上級クラスの受け持ちの先生です。しばらくはほかの先生ですが、一カ月後には、こちらの先生のクラスになるんですから、今から知っておいたほうがいいでしょう」

「それでは、ルイーズとフランソワでしたね、わたしについていらっしゃい」

 ふたりは副院長のあとについて奥へはいって行った。

[初めての平手軽打]

「院長先生、いかがなものでしょうか?」

「そうですね、ふたりとも年をとりすぎているようなので……少し心配ですね。お家ではどんなふうでしたの、フランソワは……」

「それがどうにも……わたしの妹の娘なんですが、いままで甘やかされてばかりいて、父親は冒険家で世界じゅう飛び回っているような男ですので、たまに帰って来てもかわいがるばっかりで、小言一つ言いません。そんな訳でして……」

「それでは体罰などは……」

「ええ、おそらく一度も……少なくとも十歳以上になってからは」

「それは困りましたね。あなたはご存知じだと思いますが、ここでは、まだかなり体罰が行なわれていましてね、十六歳くらいではじめてそれを受けると、ショックが大きいんですよ」

「それはわたしも考えましたが、けっきょく、あの娘のためなんですから。それに妹もやっと決心したことだし」

「そうですか。それではなんとかやってみましょう。ルイーズはどうですか? もしフランソワと同じようだと、ちよっとお引き受けしかねるんですがね……十八歳はもうおとなですもの」

「ルイーズのほうは心配ないと思います。わたしの友人の娘ですが、母親というのがとてもきびしくしていまして、家が遠いいのでゆうべはわたしの家に母親とふたりで泊まったのですが、その時も、ちょっとしたそそうをしてしまったので、さっそく母親に懲らしめられていましたから。それに、いなかのほうで、子供のころに修道院にいっていたとか言っておりましたから」

「そうですか、それならだいじょうぶです。一度でもそういう経験があると、だいぶ違うものですからね」

「では、これで失礼いたします」

「はい、たしかにお頂かりいたしました。もう一度念のために申し上げておきますが、一年間のお約束ですので、その間は、親、兄弟の死亡以外には、絶対に出しませんよ」

「はい、わかっております」

 

伯父を見送ると僧院長は、自分の部屋にはいって、ベルを鳴らした。

「クリスティ、あのふたりはどんなふうですか」

「はい、院長、さきほどふたりに制服を渡したんですが、ルイーズはさっさと着ているものを脱いで……もちろん下着も全部脱いで着替えたんですが、フランソワのほうがどうしても下ばきを取ろうとしないものですから、わたしが、ここの規則で生徒は、長肌着以外の下着を着てはいけないことになっているんだ、と説明してやったんです。そしてブリーフは、ひと月のうちであのときだけしか使用しないことも」

「で、どうしました」

「それで、もしやと思って聞いてみたんですが、別にメンスでもないようなので『早くしなさい、それでないと院長先生にしかられますよ』って言って軽く、ほんの軽くお尻をポンとたたいたら、それだけであの娘ったら目に涙をいっぱいためているんですよ。わたしあんな娘ははじめてです。そしてルイーズに慰められて、ようようドロワースをとり上げたんですから」

「そうですか、わかりました。あとでみんなで相談しましょう。先生がたを集めてください。それからあのふたりはきょうは授業に出さないようにしてください。ふたりともあいている部屋に入れておいてください。ふたりいっしょがいいでしょう」

「はい、院長、あのふたりを部屋につれていってから先生を集めてまいります」

ルイーズとフランソワは、クリスティについて自分たちの部屋にはいった。

「さあ、ここがきょうからあなたがたのお部屋ですよ。院長先生がきょうは授業に出なくともよいと言いましたから、お部屋のおそうじでもしていらっしやい、あとで見に来ます」

 そう言って副院長が出て行くと、

「フランソワ、あんなことでおこったりしちゃだめですよ。とくに今の先生にきらわれたら、損ですよ。なんでも言うことをきかなくては」

「だってわたし恥ずかしかったんですもの。おまえのように、平気であんなことできないわ。これからだってそうよ。いやなことはいやだわ」

「そんなこと言っていいんですか、そんなに強情をはると、そのうちにイスにもすわれなくなりますよ」

「どうして? ねえ、どうして?」

「どうしてったって、お尻がミミズばれでいっぱいなら、立っているよりしかたがないでしょ」

「また、そんなこと言ってわたしをこわがらせたいの、でも、さっきあの先生わたしのことたたいたわ」

「たたいた? たたいたですって、あれはたださわっただけですよ」

「うそよ、おまえは見ていなかったのよ」

「おやおや、あれでたたかれたなんて言うようでは、先が思いやられるわ。でも、いずれわかるでしょ、あんなものじゃないってことが。さあ、お部屋のおそうじをしましょう。わたしひとりでやりますから、あなたはベッドにすわっていなさい。なまじっか手伝ってもらうより、ひとりでやったほうが早くできそうですから」

[ハミルトンの意見]

 そのころ院長室では三人の尼僧を前に院長が話をしていた。

「……というわけで、フランソワのほうはまだぜんぜん教育を受けたことがないのです。家では体罰すらしなかったらしいのですよ。どうしたらいいでしょうかね、シスター・ハミルトン。何かよい考えはありませんか」

 院長に指名された尼僧は、ハミルトンと言って、イギリスからとくにパンテモンが招いた尼僧で、小太りの背のひくいかわいらしい感じの年寄りだった。このユーモラスなおばあちゃんが、実は教育者として天才的な才能の持ち主で、とくに低学年の生徒を教育するのがうまかった。パンテモンでも初級のクラスを受け持っていて、その緩急自在の指導ぶりは高く評価されていた。

「そうですねえ、急にそういう生徒がはいって来ると、ほんとに困ってしまいます。昔、イギリスで、これと同じようなケースがありましてね。ところが、受け持ちの先生があまり最初からきびしくやりすぎて、とうとうその娘が自殺をしようとしましてね。さいわい命だけはとりとめたのですが、そんなことのないようにしないとね。そうですね、最初はわたしのところに来てもらいましょうか、そういう娘なら、初級クラスの授業は楽でしょうから。そうすれば自分で罰を受けずにすみますし、そのかわりほかの生徒が罰されるところを見ることができますから、なまけた娘がどんなふうにされるかよくわかるでしょうからね。そして、わたしのところでじゅうぶん見させておいて、マーブルさんのところにお渡しして、そこで……そうですね、しばらく様子を見てから、最初の罰を、できればひとりだけでなく、たとえばクラス全員が罰をもらう、そんなとき、いっしょに罰を受けさせるといいですね。そうしておいてから授業以外のことで何か口実を作って、自分たちの部屋で、院長先生にでも罰をもらえばよいでしよう。そうすればもう、クリスティ先生のところでは普通の生徒と同じにあつかってもだいじょうぶだと思いますけど」

「なるほど、それならばだいじょうぶだとわたしも思います。ではそれでよいですね、シスター・マーブルも、クリスティ副院長も、今のハミルトン尼僧の言ったとおりにしてください。多少のおちどがあっても見て見ないふり。いいですね」

「はい、承知いたしました」

「それではシスター・ハミルトン、あしたからお願いします。昼食は部屋で食べさせなさい。タ食の時みんなに紹介します。それから夕食の時、生徒が何かしでかしても、よほどのことがないかぎりきょうは大目に見てやってください。このことをほかのシスターにも伝えておくように、それからクリスティ、あなたはこれからあのふたりに僧院内での規則を教えてやってください」

[規則と時間割り]

院長の部屋を出るとクリスティはそのままふたりの部屋に向かった。各クラスにはふたりずつの助手がいるので、授業のほうは心配なかった。部屋にはいって行くと、何かこそこそ話をしていたふたりは驚いて立ち上がった。

「まあ、ずいぶんきれいにおそうじできたわね。しばらく使っていなかったので、ずいぶんホコリがたまっていたでしょ。でも、ほんとにきれいになったわ。さあ、ふたりとも、そこのイスにすわってちょうだい。ここの規則についてお話をしますからね。まず一日の時間割りからお話しましょうね。机の引き出しに紙とエンピツがはいってますから、それに書き取ってください。起床五時、五時十分から朝の礼拝約三十分、そのあと六時まではクラス別に先生がお話をします。六時朝食、六時半から七時までは一応自由行動で、授業のしたくをしてください。用便もこの時間にすませておくこと、それから、さっき言い忘れたのですけど、夜は下ばきを着用します。そして生理の始まった人は、この時間に各クラスの先生に申し出れば、ちゃんとしてもらえますから、いいですね。そうでない人はこの時間に下ばきは洗たくかごの中に入れておくように。七時授業開始、十一時まで授業ですが、これは各クラスごとに違うので、あとでくわしく聞いてください。十一時から一時間、お昼のお祈り、十二時から昼食。一時まで休み、一時からは午後の授業が始まります。五時まで授業、一時間休み、六時から七時までは声楽・器楽・絵画のいずれかの科目を受けます。フランソワはお家のほうで器楽をやるように言ってきていますから、それでいいですね。ルイーズはどうしますか? 音楽はお好き? 何かやってらしたんでしょ」

「いいえ、何も」

「そう? それでは絵画をやりなさい。へたでもかまいませんよ、いいですね」

「はい」

「では、フランソワは器楽、ルイーズは絵画……七時から夕食一時間、八時からお祈り約三十分、そのあと反省会などで九時入室、九時三十分消灯です。昼の休みと、五時から六時までの休み時間には、自由に入室してもかまいません。そのほかはたとえば病気で休む時でも院長の許可、院長のいない時はわたしの許可がいりますから。これで一とおりお話しました。あとのこまかい規則はだんだんに覚えてゆけばよろしい。何か質間は?」

「朝は誰かが起こしに来るの?」

「いいえ、でも鐘が鳴りますから、それで起きるのです」

「授業は四時間ぶっとおしですか?」

「いいえ、三十分ごとに五分間休みます」

「一週間ずっと同じですか?」

「ああ、それを忘れていましたね。土曜日はお休みですから、お庭で本を読んだり遊んでもいいんですよ。日曜日は朝からずっと礼拝堂です。食事の時間以外はずっと礼拝堂にいますから、お手洗いに行きたくなった人は、ほかの人のじゃまにならないように、静かに出てまた静かにはいって来るようにしましょう」

「先生……もし……もしも規則を守れなかったら、罰を受けるのですか?」

「そうです、その罪にふさわしい罰を受けなければならないでしょうね。それから、お勉強をなまけたりしても罰が加えられますよ。そのほかお行儀の悪い生徒にもね。あなたがた名家のお嬢様にふさわしいお作法を身につけなくてはいけませんからね」

「では……たたかれるのですか……」

「そうですね。必要ならばたたくでしょうね。なまけ者や無作法者にはいちばんよくきくお薬ですからね」

 ふたりは黙って下を向いてしまった。

「ほかに質間はありませんか。では七時のタ食に皆さんに紹介しますから、それまでは部屋にいなさい」

ふたりきりになるとルイーズが、

「この時間割りを見て……お祈り、お祈り、お祈り、それに一日八時間も勉強、あ-あ、この年になってこんなことになろうとは、みんなフランソワのせいよ」

「わたし……そんなことは平気だけど、罰のことがこわくってこわくって……それに、朝五時になんて起きられそうにないわ。ねえ、どうしましょう」

「そのことなら平気よ、わたし起きられるわ」

「ほんと!」

「だって、わたし毎日五時に起きていたんですもの。お屋敷だって朝寝過ごせば、イライザがたたき起こしに来ますもの」

「そうだったの、それじゃわたしのこと起こしてね」

「ええ、いいですとも。それにしても、この最後の反省会っていうの、きにくわないですね。何も話してくれなかったけど、どうやらわたしの言ってた懲罰の時間と同じような気がするわ」

「エッ、ほんと、ほんとにそうかしら」

「まあ、あしたになればわかることですけどね、それに、今の先生の手、ご覧になったでしょ。顔に似合わず。ずいぶんごっつい手だったでしょ。もっとも右手だけだけど。あの手のひらのマメはどうしてでしょうね……」

「ルイーズ、あなたの言いたいことはわかるわ。でももう何も言わないでちょうだい、これ以上苦しめないで」

[アデールという少女]

夕食の時間になるとふたりは院長に付き添われて食堂にはいっていった。そこには、十五名の修道院の尼僧と、尼になるために修業している五名くらいの神学生、それに四十名くらいの一般生徒が席に着いていた。

院長の紹介がすむと、短いお祈りをしてから食事になった。話もせずにさっさと食べ、そして食べ終わった者は自分の食器を持って出て行った。フランソワとルイーズが食器を持って出て行こうとすると、院長が、

「あなたたちふたりは食器を下げたらそのまま部屋に行ってよろしい。あしたからは反省会にも出るのですよ」

ふたりは食器を置くと、そそくさと部屋にはいった。

「あ-あ、息がつまりそう。せっかくのごちそうもあんなふうにじゃ、ちっともおいしくないわ」

「ねえ……ルイーズ、やっぱり反省会のこと気になるわ、なんでわたしたちだけいいって言ったのかしら」

「だってきょうは何も材料がありませんもの」

「そうかしら?」

しばらくするとふたりの部屋をノックする音が聞こえた。ルイーズがあわててあけに行くとひとりの少女がするりと中にはいって来た、

「今晩は。わたし、アデールっていうの。何かわからないことがあればお手伝いするわ。どうぞ、なんでもおっしやってね」

「どうもありがとう、わたしたち心細くて……」

「じきになれるわ。わたし十七歳よ。もう二年間もここにいるの」

「二年間も……」

「そうよ、ママが死んでしまってからは、ずっとここに入れられてるの。パパったら、女の子は結婚する前にうんと笞でたたかれておかなければいけない、なんて言ってさ。なかなか出してくれないのよ」

「まあ、笞で……笞でたたかれるの」

「そうよ。まさかあなただって始終平手打ちばかりだなんて考えなかったでしょ」

「ああ、アデール、この人、お家ではあまりたたかれたこともないものだから……」

「それでそんなに驚いているのね、わたしなんか物心ついた時からずっと。ママが亡なるまでは家でママに平手打ちの味を教えられてここに来てからは、院長先生やクリスティ先生から、たっぷりと笞のごちそうをいただいたわ。もう笞の味はあきあきしたわ。おかげでわたしのお尻のなんとじょうぶなことよ。きょうの反省会での平手打ちくらいじゃびくともしないわ」

[反省会? 平手打ち?」

「そうよ、あなた、ここをどこだと思ってるの。パンテモンよ、修道院なのよ。ほかの女学校なんかと同じつもりでいたら大まちがいよ。」

クリスティ先生はたいへんやかましやさんなんだから」

「でも、わたしたち、初級クラスからやるんです」

「へえ-、そうなの、ハミルトンおばちゃんか。それならだいじょうぶだわ、きっと。でも、すぐに上に上がるでしょ。マーブルさんになったら気をつけなさい。でも、クリスティ先生ほどではないけど。あら、もうこんな時間なの、お部屋にいないとまたしかられちゃうから、それじゃあしたまたね」

アデールは、はいって来た時と同じようにするりと出ていった。

「わたしの言ったとおりのことになりそうですね」

「そうね、どうしたらいいの」

「もうここまできたら、あきらめるんですね。あしたは朝が早いから、やすみましょう。どこかに下ばきがきているはずですけど。ああ、ありました。ベッドのところにありますわ。さあ、言われたとおりにこれをはいて……まあなんてだぶだぶなんでしょ。それに、この生地、まるでYシャツの生地みたい」

フランソワもしかたなしに、ゴワゴワでだぶだぶのドロワースをはいてベッドにはいった。やがて重苦しい眠りがやってきた。

「あした……あしたから一年、ここにいなくてはならないのね……」

聖女の行進 3

第3章 最初の反省会

[授業の前に]

いよいよパンテモン尼僧院における生活の第一日が始まった。その日フランソワは、ルイーズより先に目をさました。

 重苦しい鐘の音が鳴り始めた。最初の一つが鳴り終わる前に、フランソワはベッドから飛び起きた。うす暗い部屋の中でフランソワは身じたくをした。ルイーズはベッドの中で大きくのびを一つすると、くるっと反動をつけて起き上がった。手早く身じたくを整えるとベッドのふとんを直し、

「フランソワ、おはよう、いよいよ始まりね、元気を出しなさい」

 部屋の外がだいぶ騒がしくなってきた。もっとも話し声は聞こえなかったが、そのうち隣りの部屋のアデールが、戸をあけて顔だけ中に入れて、

「さあ新入りさん、早くいらっしやい。朝の礼拝に遅れるわ」

 ふたりはアデールの後ろについて出て行った。

 静かで長いお祈りと賛美歌、そして最後にアーメンで終わると、また静かに外に出た。外に出ると、各クラスごとに先生の後ろについて教室にはいって行った。フランソワとルイーズは、アデールと別れてハミルトン先生の後ろについて行った。

 このクラスは十二、三歳の少女ばかりのクラスで、その中にはいってみるとふたりの背はひときわ高く、目だった。珍しそうにふたりをみつめる生徒たちにまじって、ふたりは恥ずかしそうに下を向いてついて行った。

 ハミルトン先生の話は、きょうはふたりの新入りの生徒の紹介に使われた。

「いいですね、みなさん。そういうわけでこのふたりの生徒は一週間くらいしかこのクラスにはいないでしょう。でもその間、ここの規則などをよく教えてあげましょう」

 そしてまた、ぞろぞろと外に出て食堂へ。朝食は質素な物だったが、けっして、まずくはなかった。

 食器の跡かたづけが終わると、生徒たちはいそぎ足で部屋に帰って行った。ふたりが長い廊

第3回

下を歩いていると、後ろから来たアデールが、

「おふたりさん早く早く」

 そう言いながらふたりの背中を押した。

 部屋に行くのだとばかり思っていたら、アデールはふたりをさっさと化粧室へつれて行った。

 そこには五つのお手洗いがあったが、そのうちの四つにはもう何人かの生徒が並んでいた。アデールはふたりを順に列に並ばせると自分もほかの列の後ろに並んだ。

「アデール、どうしてなの、なぜこんなことするの」

「どうしてって……だってあなた……したいでしょ?」

「ええ……でもへんだわ、こんなの。自分の行きたいときに行けばいいでしょ」

「行きたいときに行ければ、こんなことしないわ。お昼までは教室の外に出られないのよ」

「そう……でもいやあね」

「いやでもしようがないわ、がまんしなさい」

「ねえ、それならアデール、あのいちばん右のはどうして使わないの?」

「ああ? あれ、使ってるわ……ほら、出て来た。あれを使う人はとなりの部屋で待っているのよ」

「まあ、あたし、そのほうがいいわ、こんな所で立って待ってるなんて……」

「そう……それではどうぞご自由に。でもあたしはいやよ、浣腸なんて」

「えっ? なんて言ったの」

「浣腸って言ったのよ。授業中におなかが痛くなる人や、時間どおりにうまくできない人が、先生にしていただくのよ。それに夜中にそそうした娘もね」

 フランソワは、それきりだまって下を向いてしまった。

[反省会]

 午前中の授業-昼食-午後の授業と自由科目、そして夕食とお祈り、目の回るような一日が過ぎた。そして夕食後の反省会の時が来た。初級クラスから順にひとりずつ院長先生の部屋にはいって行った。そしてきょうは新入りのふたりがいちばん先にはいることになっていた。

 まっ先にルイーズがはいった。小さな部屋の中には、まん中に院長先生がイスにすわり、その左に副院長と、右にはハミルトン先生が立っていた。ルイーズは心の中で、やっぱりそうか、と思った。反省会といっても、けっきょくは懲罰の時間と同じだわ、そう思いながら院長先生の前に立つと、

「ルイーズといいましたね」

「はい」

「きょうー日、あなたは神に対して罪をおかさなかったと言えますか。何か悪いことはしませんでしたか」

 ルイーズは心の中で〈ほら、おいでなすった〉と思いながら顔には出さず、

「はい先生、あたしはきょう、うそをつきました」

「それはどんなことですか?」

「はい、午前中の授業の時、ハミルトン先生が質問なさいました。そして、わかった人は手を上げるようにと言った時、あたしはわかっていたのに手を上げませんでした」

「それはなぜですか?」

「それは……質問がとても子供っぽかったので……それで手を上げるのが恥ずかしかったんだと思います」

「よろしい。それだけですか?」

「はい」

「それでは、あなたはこれから手を上げないことは、手を上げることよりも、もっと恥ずかしいことだと思いなさい。たとえどんな質問でもですよ、いいですね」

「はい」

「それでは手をお出しなさい。よく覚えておくように、懲らしめてあげますから」

 ルイーズは、両方の手のひらをそろえて上向きに上げた。そして副院長が持っていた鞭で二度たたかれた。そしてハミルトン先生がルイーズに、

「よい反省ができましたね。もうよろしい。あしたからはよい娘になりなさい」

 ルイーズは頭を下げて部屋を出た。とびらの外には、不安そうな顔のフランソワが、次にはいる用意をしていた。ルイーズは、にっこりと笑って見せた。フランソワは心なしホッとした表情で、部屋の中にはいって行った。

[どんな罰]

 ルイーズは自分の部屋の中で、フランソワがどんな顔で帰って来るだろうと思った。きっと、あの人はへまをやるわ。どっちにしろたたかれなければ帰してくれないのだから、自分から小さな罪をつくらなくちゃ……あたしなんて慣れたもんだわ。しかし、フランソワは平気な顔で戻って来た。

「フランソワ、どうだった」

「どうって……何が?」

「何を聞かれたの」

「きっとあなたと同じよ。きょう一日、神に対し罪をおかさなかったか……悪いことはしませんでしたか……うそをつきませんでしたかって……」

「それでフランソワはなんて言ったの」

「あたし……はい、何も罪を犯しません……何も悪いことはいたしません、何もうそをつきません、て言ったわ……」

「そう……それで……」

「それで……それならよろしいって」

「へえ-そうなの……」

「あら……ルイーズは、何かあったの……」

「ええ……まあ、ちょっと。だって、ほんとうのことですもの」

「それで、どうしたの、ねえ、教えて」

「ちょっとうそをついたんで、ちよっとたたかれたわ……」

「まあ、かわいそう……どこを……なんで、どんなふうに!」

「いいえ、別にたいしたことじゃないんですほんのちょっと、たたかれただけですから」

「でもいったいおまえは、何をやったというの。ずっとあたしといっしょだったじゃないの。それなのに、たたかれたなんて……どう痛いの、あたしにしてあげられることはなくって……」

「まあ、そんなおおげさなことじゃないですよ。フランソワ、そんなこと言ってたら、ほんとうにあとで困りますよ。もっと平気にならなくっちゃ」

 そのときアデールがはいって来た。

「ああ、やっと終わったわ。あたし、いつもいちばん最後なんだもの、いやになるわ……どうでした、おふたりさんのきょうの反省会は?」

「アデール、聞いてちょうだい、ルイーズはね、たたかれたんですって、きょうが第一日めだっていうのにね……」

「それでフランソワ、あなたは」

「おお、とんでもない。あたしは何もしませんもの。そうでしょ、何もしないのに、たたかれることなんてないわ」

「へえ-そいつはうまくやったじゃないの」

「アデールあなたは?」

「あたし……きょうは軽いの、三つたたかれたわ。でも、ここよ……ここ、手のひらですもの。ルイーズ、あなたは」

「あたしは二つ……同じところよ」

「なんだ、それじゃたたかれたうちにはいらないわ。ここの最低は三つからはじまるのよ」

 そのときドアをノックして、クリスティ副院長がはいって来た。

「おや、アデール、ここで何をしているの」

「はい、ここの規則のことや、なにかいろいろお話ししていました」

「そう、それはよいことですね。これからもふたりの話し相手になっておあげなさい」

「はい、先生」

「それでは、あたしはちょっとフランソワにお話がありますから、あなたは自分の部屋に行っていなさい」

 アデールが出て行くと、クリスティ先生はフランソワのほうを向いて、

「フランソワ、あなたは何か忘れていませんか。このお部屋にはいって、気がつかないですか」

「はい……なんのことでしょうか」

「あなたはけさ、ベッドを直すのを忘れましたね。覚えていませんか……」

「はい……あたし、今まで、そんなことしなかったから」

「でも、ルイーズはちゃんとできましたよ」

「はい……きっと暗くてよくわからなかったのだと思います」

「言い訳は聞きたくありません。あしたからはきちんとなさい。それに、反省会のお答えは、わたしは不満足です。ハミルトン先生もきっとルイーズと同じことをしたに違いないと、おっしゃってます。でもそれは、あなたにしかわからないことですから……でも、自分で罪を告白しなければ、いつかきっと、神様の罰がくだされますよ。よく考えておきなさい」

「はい、よく考えておきます」

「よろしい、それでは手をお出しなさい。反省会のことはいいとしても、ベッドのことは許すわけにはいきませんからね」

「先生、どうか……もう二度といたしませんから。あしたからはきっとやっておきますから」

「フランソワ、あなたに注意しておきます。先生がたは、一度決めたことは、必ず実行します。言い訳や泣き言は聞きたくありません。さあ早く、手を出しなさい」

 そう言いながら、クリスティ先生はフランソワの手を取ると、胸の高さまで持ち上げて手のひらを上に向けさせた。

「ルイーズ、机の引き出しに定規があります。それを取ってください」

 ルイーズの差し出す定規を手に取ると、

「いいですか、三つですよ」

 そう言うと、いきなりピシッと手のひらをたたいた。

「あっ」と言って、フランソワは思わず両手を組み合わせ、床にしやがみ込んでしまった。

「さあ、お立ちなさい。あと二つ残っていますよ。早くしなさい」

 そう言われて、おずおず立ち上がったが、とても両手を出す気にはなれなかった。しかし……

「さあ早く手を出しなさい。それとも、もっと別のところをたたいてほしいの」

 クリスティ先生のこのひと言で、フランソワの手はばね仕掛けのように前に出たが、顔を横に向け、目をつぶっていた。クリスティ先生は、手早く二度たたくと、黙って部屋を出て行った。

 ルイーズは、フランソワを抱いてやった。しかしランソワは、なかなか泣きやまなかった。九時半の消燈時間がきても、フランソワは眠れなかった。

[尻打ちの罰]

 次の朝、ルイーズはフランソワより先に起きた。そして、自分のベッドを直すと、フランソワを起こし、フランソワが身じたくをしているうちに、ベッドを直してやった。それはそのあともずっと続いた。

 二日めも一日めと大差なく終わった。ただ反省会の時、フランソワは、ルイーズに教えてもらったとおりに言って手を三つたたかれて、帰って来た。フランソワは、もう泣きはしなかった。しかし、三日めの午前中の授業の時、フランソワはついにその現場にぶつかってしまった。

 ハミルトン先生が問題を出し、それを生徒が石板に答えを書いて、ひとりずつ先生のところに持って行った。フランソワもルイーズも簡単にパスしたが、クラス全部の中で三人だけ、ハミルトン先生のところに残された。間題は全部で五問あったが、ひとりの生徒がそのうちの一問だけまちがえた。残りのふたりの生徒は、五問のうち三問まちがえてしまったのだ。

 全部の生徒の提出が終わると、ハミルトン先生は立ち上がって、まず一問だけまちがえた生徒に、手を出させた。十二歳ぐらいのその娘は、まっすぐに手を伸ばして、先生の前に立った。シスターハミルトンは鞭を持つと、力いっぱい娘の手のひらを打ちすえた。一回、二回、三回、四回、五回、娘の顔は、一回ごとにゆがみ、いまにも泣きそうになったが、五回の鞭打ちが終わるまで、手をまっすぐに伸ばしてこらえていた。

 その娘が席に戻ると、ハミルトン先生は鞭をもう一まわり太めのものに持ち替えた。そして、教壇のまん中にイスを一つ置くと、残りのふたりを呼んだ。ふたりとも前の生徒より年上のように思えた。

「いいですか、ふたりのために問題を作っておきますから、きょうのお昼休みにやっておきなさい。いいですね。さあ、ひとりずつこちらに来なさい」

 最初のひとりが、イスに両手をついて後ろ向きにかがむと、ハミルトン先生は制服のすそをつかんで、くるっとまくり上げた。その瞬間、教室の中に〃おお〃というため息が流れた。その娘の後ろにつき出したところは、黒い布でおおわれていた。

「お立ちなさい、あなたはメンスですね」

「はい、先生」

「それでは、きょうの分はノートにつけておいて、メンスが終わってから、わたしのところにいらっしゃい。罰はそれまで待ってあげます」

「はい、ありがとうございます、先生」

「よろしい、では、次」

 つづいて、台の上に上ったのは、クラスの中ではかなり背の高い娘だったが、顔はまだほんの子供のような娘だった。ブルネットの美しい髪のこの娘は、からだだけ先に大きくなってしまったのたろう。言われたとおりに両手をイスの上に置いて、その間に頭をつけると、その娘のお尻はみごとに空中に突き出した。ゴワゴワの制服の上からも、その肉づきのいいからたがわかるようだった。

 シスター・ハミルトンは、そんなことにはいっこうおかまいなく、前の娘と同じように制服のすそを持つと、一気に背中の上までまくり上げた。

 フランソワは、思わずルイーズの手を握った。頭に血が逆流し、目まいがした。その光景はフランソワにとって、あまりにも刺激が強すぎた。すっかりむき出しにされた娘のお尻は、黒い制服に縁どられて、くっきりと教壇の上に浮かび上がっていた。

 フランソワは、そんな娘を見ているのがたまらなかった。〈ハミルトン先生ったら、早く許してあげればいいのに〉そう、心の中でつぶやきながら、先生のほうを見つめていた。

 一方、ハミルトン先生のほうは、ゆっくりとそでをまくり上げ、あらためて鞭を取り上げた。

「さあ、いいこと、あんな問題で三つもまちがえるようでは、許すわけにはいきませんよ。いいですね、六回もたたいてあげれば、この次からはもっとお勉強するようになるのでしょうからね、どうですか?」

「はい、先生、これからは、いっしょうけんめいにお勉強しますから、なまけ者のあたしのからだをたたき直してください」

「まあ、ルイーズ、あの娘ったら、自分からたたいてくださいなんていってるわ……」

「し-っ、静かに。どうやらあれは、ここのしきたりのようなものらしいですね。たたかるときは、みんなあんなふうに言うのでしょう……」

「まあいや……あたし、とてもそんなこと言えないわ……」

「でもそのうちになれますよ」

「あなたはどんなことでも平気でいられるのね、ああ……もしあたしがそんなことになったら、どうしよう……」

 フランソワのことばが全部終わらないうちに、ハミルトン先生の鞭がヒューッという音を従えて、お尻の肉に食い込んだ。

聖女の行進 4

第4章 授業中のおしおき

[すわると尻が痛い]

 ピシッ! という音がすると、見る見る娘のお尻には赤いすじが走った。つづいて二回めの鞭が鳴ると、娘の尻の上で赤い線が交差した。三回めを打った時、娘のひざががくっと折れた。娘はすぐに元どおりの姿勢に戻ったが、ハミルトン先生は、左手で娘の腰をしっかりとかかえた。娘はからだ全体を小きざみにふるわせてはいたが、声もたてずにじっとこらえていた。四回、五回、六回と、続けて打ちおろされた鞭は、娘の尻の上で小気味のよい音をひびかせて、その美しかったお尻をまるで赤い毛糸をまき付けたゴムまりのようにしてしまった。

 ようやく許された娘は、起き上がると、自分で制服のすそをおろした。教壇に上る前の青い顔とは対照的に、顔をまっかに上気させ髪を乱し、目にはいっぱい涙をためていた。それなのにハミルトン先生は、午前中の授業の残り時蘭十分くらいの間、その娘が立っていたいと言ったにもかかわらず、席にすわることを命じたのだった。

 昼食の時、フランソワは、その娘の隣りにすわった。何か話をしたかったのだが、どうしても話しかけることができなかった。娘はたえずからだを動かしていた。

 きっとお尻が痛くてじっとすわっていられないんだわ--フランソワはそう心の中で思った。そして、その気の毒な娘に話をするのをあきらめて、そっとほかの人を見回すと、自分の前にすわって食べている娘のなかにも何人かからだを動かしている生徒がいるのに気がついた。そしてそのなかには、自分と同じか、あるいは年上の生徒もまじっていた。フランソワはもう食事どころではなかった。

 そのうえその日は、反省会で先生の質間にトンチンカンな答えをして、手のひらを五回もたたかれたので、ますますゆううつになってしまった。話をする元気もなく部屋にいると、アデールがはいって来た。

「どお、少しはなれた……どうしたのそんな顔をして」

「ああアデール、きょう授業の時、ひとりの生徒がお尻を鞭で懲らしめられたので、フランソワはすっかりこわがってしまってね」

「そう、始めてじゃしかたないわね。フランソワが悪いんじゃないわ。お母様がちゃんと教えておいてくれればそんなにこわがらずにすんだのにね……あたしなんかここに来る前さんざおどかされて来たから、かえってなんでもなかったわ」

「そうね。でもこの人のお母様はお尻どころか手もたたいたことないんですもの……」

「そんなことないわ。あたしだって子供のころはたたかれたわ。お尻だって……でも、あたしたちもう子供じやないわ。完全におとなと同じよ、何もかも……」

「だめだめ、いくら強がったって、二十歳になるまでは、親の遺産だって自由にならないっていうのに、たとえ結婚したって同じことよ、子供ができるまでは夫に教育されるんだから」

「そうね、よほど優しい旦那様か、フランソワのお父様のように一年じゆうほとんど家にいない人なら別だけど」

「フランソワにもいずれわかるわ、どっちみちここに来たからには逃げられないんだからもうそろそろ覚悟を決めることね。あたしの勘だけど、ハミルトン先生のところにいるうちはだいじょうぶよ。でも、マーブル先生のところにいったらほんとうに覚悟をすることね」

 アデールは、そう言い残すと、部屋を出て行った。

[教壇に並んだ五つのお尻]

 一日の休みをはさんで、さらに三日が過ぎた。アデールの予言したとおり、ハミルトン先生のところではふたりには何も起こらなかった。しかし三日めにはじめて見たあの光景は、その後何度もふたりの目の前で行なわれた。一度などは、五人の生徒たちが休み時間にささいなことからいさかいを始め、その結果は、教壇の上にかわいらしいお尻がむき出しのまま五つ並べられた。そして鞭の音と娘たちの悲嶋が十五分も続いた。

 フランソワも、そんな光景にかなりなれたが、それでも自分のこととなると全く別だった。アデールが予言したとおり、ハミルトン先生には一度も罰を受けなかったが、その予言が正しければ、マーブル先生のところではよほど注意をしなければならない。あしたからはいよいよ中級クラスにはいるのだった。

 シスタ-・マーブルは、けっしていじわるな先生ではなかったが、ユーモアに乏しく、娘の教育に一生をささげるといったタイプだった。授業の内容はたいしてむずかしくはなかったが、そのやり方は、ハミルトン先生よりきちょうめんだった。そして、このクラスでも鞭は容赦なく娘たちの手やお尻に与えられた。このクラスの娘たちは、もうじゆうぶんに大きく、なかには、フランソワと同じくらいの背格好の娘もいた。

 五日ほどたったある日、午前中の授業の途中で、ひとりの使いが教室にはいって来た。そして院長がお呼びですと伝えた。マーブルは静かに待っているようにと言って外に出て行った。ひそひそ話が次第に大きくなり、ざわざわがやがやと声が大きくなって来た。フランソワはもう気が気でなかった。

「ねえルイーズ、止めてちょうだい、きっとクラスじゅうの人が罪を受けるわ。そうすれば、あたしたちもいっしょよ、早く止めましょう」

 そう言いながら、自分でも手近にいた娘たちに静かにするようにとふれて回った。しかし、生徒たちはいっこうに気にもせず、おしやべりを続けていた。そのうちの何人かが入り口のほうを指でさして、フランソワに何か話しかけた。フランソワは、席に戻るとルイーズに、

「ほら、あそこにいる生徒、あの人が見張りをしているんですって……」

 しばらくは小さな声でルイーズと話をしていたが、次第に安心すると、ほかの生徒と同じようにおしやべりをはじめた。話しはじめると、いくらでも話すことはあった。しばらくの間は夢中になっておしやべりが続いた。その最高潮に達したと思われた時、庭に面した入り口のほうでぱん、ぱんと手が鳴った。

 とたんに教室の中は静けさをとり戻した。そしておそるおそる後ろをふり向くと、そこにはマーブル先生が立っていた。きょうに限って庭を回って来たのだった。そして無言のまま教室の中を通りぬけて教壇の上に立った。その顔は悲しそうだった。「皆さん、皆さんのしたことはわかっていますね、誰か、あたしだけはちがうと言える人はいませんか、正直に言ってくたさい」

 フランソワといえども、この時ばかりは立ち上がることができなかった。

「よろしい、全員が自分の罪を認めるのですね。では、あなたがた全員に罰をあげましょう。しかし、そのためにたいせつな授業の時間をつぶしてしまうのですよ、全員に罰をあげるにはたいへん時間がかかるのですから。このようなことが二度とないように、たっぷりと懲らしめなくてはならないでしょうね」

 フランソワは、目の前がまっ暗になるような気がした。どんなふうにされるのだろう、あたしは何番目めに打たれるのかしら。

[最初は手のひらを]

 教室の中は、左から五人ずつ四列に並んでいた。いちばん右の列だけが四人だったのでクラスは全部で十九人の生徒がいた。ルイーズは二列めの最後尾に、そしてフランソワは三列めの最後尾にいた。

 マーブル先生は今、鞭のケースの前で、これから使おうとする鞭を選んでいた。生徒たちの目は、先生の手がどの鞭を選ぶか、みんな真剣に見つめていた。

 マーブル先生の手がす-っと伸びて取り上げた鞭は、一フィートくらいの丸い木の柄の先に、細幅の皮ひもが二枚付いているものだった。

 教室の中には、ああやっぱり、といったふうのため息がもれた。そしていつも使っている枝鞭といっしょに机の上に並べると、メーブル先生は次のように命令した。

「さあ、こちら側の列から、順に前に出なさい」

 言われるとすぐに五人の生徒が前に出て行った。台の上にあがるとまず前を向いて立たせた。そして左端から順に両手を前に出させた。ひとりが五回ずつ打たれた。しかしその打ち方はいままで見たどの打ち方よりもきびしかったので、このような罰にはじゅうぶん慣れているはずの生徒たちも、一打されるごとに「うっ」と思わず叫んだ。痛さに顔をゆがめている娘たちを見ているだけで、フランソワはわきの下に汗をかいた。五人全部が手のひらを打たれると、マーブル先生はその生徒たちにイスを持って来るように言った。

 たったいま打たれたばかりの手に重いイスを運ばせるのだった。台の上に五つのイスが並ぶと、こんどはからだの後ろを懲らしめられるのだった。イスの後ろに立って、背中を教室のほうへ向けると、イスの背もたれごしにからだを曲げて、腰をかけるところに頭を付けると、そのポーズはお尻打ちには最適のものになった。

「さあ自分ですそを上げなさい」

 言われたとおりに娘たちは、自分の手で自分の制服のすそをまくり上げ、お尻をむき出しにしていった。みごとに発育した五つのお尻は、それぞれに特徴があった。そのうち、ふたりの娘のお尻には、まだはっきりと鞭の跡が残っていた。そしてそのなかにひとりだけ、例の黒いドロワースをはいた娘がいた。

 今度は、柄の付いた皮鞭を取り上げると、再び左端の生徒からたたきはじめた。そしてその鞭は、娘たちに大きな悲鳴をあげさせ、お尻をまっかにふくれ上がらせるのにじゅうぶんな力があった。

 ひとり五回ずつではあったが、今までの鞭とはだいぶ違うようだった。マーブル先生もハミルトン先生と同じように、黒いドロワースの生徒には鞭

第4回

を当てなかったが、あとで実行すると付け加えるのを忘れはしなかった。

 そしてマーブル先生は、全員のおしおきが終わるまでみんなをそのままの格好にしておいたので、初めに打たれた娘のお尻が、赤い色から次第に紫色に変わっていくのがよくわかった。

 最初の列のおしおきが終わった時、まっすぐに立っているのは黒いドロワースをはいていた娘だけだった。ほかの四人は腰をよじり、からだをふるわせてこらえていた。

「先生の言いつけを守らない生徒がどんなふうにされるか、よくわかりましたね。あなたがたのお友だちの恥ずかしい格好をよく見ておきなさい。そうすれば二度と同じあやまちを犯さないでしょうからね。さあもういいでしょう、制服を元どおりにして席に戻りなさい。イスを持って行くのですよ」

 ようやく許された娘たちは、制服のすそをおろし、ふらつくからだに重いイスを持って戻って行った。

「次の列、前へ出なさい」

 二列めの五人のなかには、ルイーズもはいっていた。心配そうなフランソワの顔に、ルイーズはわざと平気な顔でウインクをして見せたが、その顔は青ざめていた。

[悪いお尻を出しなさい]

 最初の五人と同じように、はじめは手をたたかれた。そしてイスを取りに席に戻ったルイーズの手は、まっかにはれ上がっているように見えた。

 ルイーズは、くちびるをかみしめて、ようやく涙をこらえていた。再び五人が台の上で背中を向けて並ぶと、号令で尻打ちの姿勢をとった。

 フランソワのところから見ると、制服の黒い小山が五つ、こんもりと盛り上がっているように見えた。

「さあ悪いお尻を出しなさい」

 四人の娘がすっかりまくり上げてしまった時、ルイーズはまだ太もものところまで持ち上げた制服のすそを、それ以上持ち上げることをためらっていた。

「ルイーズ、早くしなさい」

 そう言いながら先生が近づいて来たが、ルイ-ズの手は、どうしてもそれ以上、自分の手ですそをまくり上げることができなかった。

 ルイーズのところまで近づくと、マーブル先生は何も言わずに、制服のすそを一気に背中までまくり上げてしまった。教室の中で一瞬「おお」という感嘆の声が流れた。中級クラスの中でルイーズのからたはひときわ大きく、そのお尻はつやつやと輝いているようだった。

 先生は命令をすなおにきかなかった罰に、ルイーズの腰をかかえて平手打ちを二つ加えた。そして皮鞭に持ちかえると、五人の娘たちに悲鳴をあげさせた。

 すっかり打ち終わったあと二分くらいそのままの姿勢で放置しておくのも前と同じだった。

[近づく悲鳴と鞭音]

 ルイーズが自分の席に戻ると、いよいよその次はフランソワたちの番だった。フランソワはひざががくがくふるえ、立ち上がることもできなかった。マーブル先生は、フランソワのところまで来ると、いきなりフランソワの耳たぶをつまみ上げ、引きずるようにして台の上に立たせた。

 手のひらを打たれたあと、フランソワはまるで夢遊病者のようにふらふらと自分の席にイスを取りに戻った。ルイーズと目が合うとフランソワは急に正気をとり戻したように顔をまっかに上気させ、イスを持って台の上へ戻った。

 すっかりあきらめたような顔をしていたフランソワも、やはり自分で制服のすそを持ち上げることはできなかった。マーブル先生が近づいて来るとフランソワは起き上がって、

「先生、許して、お願い」

「いけません、言うことを聞かないと数をふやしますよ。ほかの生徒にからだを押えていてもらいたいの。さあ、どっちにします」

そう言いながらフランソワの頭をつかむとイスのところに押えつけそして、あっという間に制服のスソをまくり上げてしまった。

 フランソワは「きやっ」と悲鳴をあげたがもうあとの祭りだった。クラスじゅうの者がフランソワの形のよいお尻を見てしまった。

 フランソワは、必死にイスの座板のところを手でつかんでいた。その手をはなせば、かってに制服のすそをおろしてしまうだろう。フランソワはそうしたいのを必死にこらえているのだった。

 娘たちの悲鳴と鞭の音がだんだん近づいて来た。そして今、隣の娘が打たれはじめた。三フィートと離れていないところで、娘の苦しそうな声が聞こえた。そして、ピシッ! ピシッ! という音は、まるで自分が打たれているようだった。

 ついにマーブル先生は、自分のわきに立った。いやだ、打たれたくない、そう思って立ち上がろうとした時、マーブル先生の手ががっしりとフランソワの腰をかかえた。もう逃げられない! そう思った時、最初の一打がフランソワの尻の上で鳴った。からだじゅうに痛みが走った。二回、三回、フランソワは泣き叫び、足をばたばたとけり上げた。四回、五回めの鞭打ちが終わった時も、フランソワはまだあばれていた。

 ほかの四人が席に戻された時、フランソワは、すなおでなかったということで、ひとりだけ教壇の上の自分のイスにすわらせられた。両手をひざの上に置くように言われて、フランソワはからだ全体の重みが、今たたかれたところを痛めつけているように思われた。

 やがて、最後の四人も呼び出され、罰を受けた。フランソワは、こんどは声だけでなく自分のすぐそばにかわいらしい娘の尻があった。子供っぽいその娘のお尻は、マーブル先生の打ちおろす鞭が当たるたびに小きざみに尻の肉をけいれんさせていた。

 クラス全部のおしおきが終わると、マーブル先生は、何事もなかったように授業を始めた。教室の中には、すすり泣きとからだをもじもじとよじる姿が見られた。

[今までは序の口]

 フランソワがはじめておしおきをされてからというものは、回りの人たち、とくに先生がたの態度が変わったように思われた。今までより、教室の中や食堂で罰を受ける人が多くなった。アデールの話によれば、ふたりが来てくれたおかげで、しばらく静かな生活ができたが、またそろそろ元のとおりになって来たわ、そう言って笑った。

 そしてきょうは久しぶりに誰ひとりたたかれずにすんだと思っていたのに、先日のおしおきの時ひとりだけ黒いドロワースを着ていた娘が呼び出されて、みんなの前で、この間と同じ罰を受けた。

 夕方になってフランソワは自分の部屋の中でルイーズと話をしていた。

「そうなのよ、けっきよく、一日のうちに誰かがたたかれなきゃならないのよ……ほんとにいやになってしまうわ」

「あなたもようやくパンテモンの実態がわかって来たようね。でも、また序の口よ……これからもっとたいへんになるわ……とくに来週から行く上級のクラスではね……また、あなたのかわいらしいお尻が見れるわ」

「まあ、そんなこと言って、あたしはたいじょうぶよ、よくお勉強するから……あなたこそお気をつけなさい」

 そうはいったものの、フランソワも心の中では、たたかれずに済むとは思っていなかった。

聖女の行進 5

第5章 課外授業のはじまり

[上扱クラスへ編入]

〈新入生を紹介します〉クリスティ先生のよく澄んだ声が教室の中にりんとひびいた。

 きょうからフランソワとルイーズは上級クラスの生徒になった。マーブル先生から始めて罰を受けてからきょうまで、二度目の罰を受けずにすんだ。もちろんふたりがじゅうぶんに注意をしていたからだが、それよりもフランソワがはじめてのおしおきの時、示した驚きがあまりにも大きかったので、シスターマーブルの報告を受けた院長が、その後少々手かげんしたのだった。

「あの生徒にはもう少しほかの人の処罰を見せておやりなさい、そのうちなれるでしょう。クリスティ先生、くれぐれも注意してください、いそぐ必要はありません」

 クリスティ先生は、内心ちょっと不満だった。はじめてあの娘を見た時から、ちょっびり高慢なブルジョアの娘に昔からいだいている嫉妬と、そしてそんな娘を自分の手の中でじゅうぶんに教育できる楽しみをずっと待ちつづけていたのに、クリスティ先生はそれを二週間も待ちつづけていたのだ。それなのに再度院長先生からストップがかけられてしまった。

 ふたりの席をアデールのとなりに決めると本を開き、ひとり一ページずつ読ませて、クリスティ先生は教壇のところでイスにすわっていた。

 クリスティ先生は長年娘たちを扱って来たので一目でその娘の家柄などを見破った。それなのにルイーズはどうしてもわからなかった。身だしなみは、きちんとしているし、口のきき方もていねいだし、どう考えても一流の家庭の娘にまちがいはないのだが、時として現われる、あの娘の奔放さはいったいどこからくるのだろう。それに反省会の時あの娘の手のひらを打ったが、その時あの娘の手が仕事をしたことのある手だと思った。

 クリスティ先生はそんなルイーズをおそらく名家の生まれたが、今は落ちぶれているのだろうと考えた。そして女中もやとえないのだろう。それにひきかえてフランソワのほうは、一目りょうぜん、典型的なブルジョア娘だった。

 何一つ不自由なく、それでいていつも不満が多く、人に従うのがきらいで、自分が誰よりもかわいらしく、人はなんでも自分の言うことを聞いてくれると思っている……そんなタイプの娘だった。

 クリスティ先生は教室の中を見回した。今、立って読んでいるカテリーナもその後ろの席にすわっているミシェールもそんなタイプの娘だった。わがままで、高慢な……しかし、今ではふたりとも先生のかすかな指の動きにも注意してそれに従った。クリスティ先生のきびしい指導が効を奏したのだろう。相手がブルジョアのわがまま娘なほど、クリスティ先生は熱心に指導した。

 それは自分が少女のころたいへん貧しい生活をしたために、そんな娘たちに多少偏見があったのかもしれない。父親は野菜を売り歩く商人だった。母親も働きものだったが、六人の子供をかかえて生活は苦しかった。クリスティは長女だったので、早くから働かされた。そしてそのころのどの家庭でも同じことだが、四人の娘とふたりの息子に、両親は容赦なく笞を振った。年長のクリスティにはとくにきびしく母親がしつけた。

 家にはいつも果物や野菜が置いてあった。おなかがすいたクリスティは、母親の目を盗んではリンゴやネープルをかじった。しかし母親に見つかれば、たちまち首根っこを押えつけられ、そしてスカートをまくり上げられれば、もうその下は何も下着を着ていなかったので、お尻はすっかり丸出しになってしまった。

 そして母親のじょうぶな手のひらが雨のようにクリスティの尻の上で鳴った。父親のベルトでたたかれるのもこわかったが、それよりも尻をむき出しにされる母親のほうがいやだった。クリスティはもうそんな年ごろになっていたのだ。

 そんなある日、母親のおしおきがいやで逃げ出した。母親は追いかけて来ると、家の外でようやくクリスティをつかまえると、そばの石がきに腰をおろし、そのひざにクリスティをかかえると、お尻をむき出しにしてたたきはじめた。ちょうどその時、美しい並木道の角を曲がってガラ、ガラと一台の馬車がやって来た。クリスティは、〈許して! 許して! ごめんなさーい!〉

 と叫んだが、母親は馬車がじゅうぶんに近づくまでたたいていたので、馬車に乗っていた人にすっかりクリスティの恥ずかしいかっこうを見られてしまいました。

 その時馬車に乗っていた若い貴婦人がふたりで、いつまでも後ろをふりかえりながら笑っていた光景を、クリスティは今でもはっきりとおぼえていた。

 クリスティ先生は、ハッ! と我に返ると、教室の生徒たちは読み進んでもう半分くらいの生徒たちが終わっていた。

 パンテモン-ここに来てから何年になるのだろう、十二歳の時に父親が死んでクリスティは修道院に入れられたのだった。そして貧民の娘としては、破格の出世をしたのだった。もちろん副院長のポストを得ろまでには、それこそ、ロに出しては言えないくらいのつらい苦しい毎日を送った。

 正式な修道尼になるまで五年かかった。十七歳までの五年間のうち、泣かなかった日が一日でもあったろうか? 見習いの修道女には日曜もなにもなかった。毎朝笞ではじまり鞭で終わるのだった。今、この教室で行なわれている二倍の速さで授業が行なわれ、少しのあやまちもすべて笞によってのみつぐなわれた。

 尼になってからも、クリスティにとって僧院の風当たりは強かった。尼の中には、かなりの家柄の娘が大ぜいいたからだ。その中でクリスティは歯をくいしばってがんばった。そして今、そのすべての人々を従えてパンテモンに君臨していた。

 院長はクリスティより二十歳も年長で、ほかの僧院から回されて来たのだった、温厚でものわかりのよい初老の尼だった。そして今ではクリスティに笞を当てることのできるのは、この院長だけだった。それも特別にクリスティがたのんだ時だけだった。

 僧院の中のすべて、とくに経済問題などはクリスティがまかされていた。院長は重要な祭事にだけたずさわり、そのほかのことはすべてクリスティがさしずしていた。それだけにきょうの院長の発言は、クリスティ副院長にとって不満だった。

 あれではまるで、わたしの授業に不足があるような言い方だわ、たかがあんな小娘ひとりのために、神経質になりすぎているわ。よほど開き直ってやろうかとも思ったが、まあ院長の言うこともわからないじゃなし、どちらにしろ問題のカギは自分がにぎっているのだから……。

[読みとばしの罰]

 聞きなれない声が教室にひびいた。クリスティは顔を上げると、それはフランソワだった。じっと聞いていた、一ページ分最後の一行まで一言半句もまちがえずに読み終えるとつぎはルイーズだった。ときどきつっかえたが、さして問題にするほどのまちがいはなかった。クリスティはちょっとがっかりしたふうだった。

 そして、次のアデールの朗読に耳をかたむけた。この娘はここに来た時からかなりすれていたが、二、三度笞を当てると、すぐにすなおになり、クリスティのいうことはなんでもよく聞くようになった。かなり要領のいい娘だが、明るい感じのいい娘だった。本の読み方はさすがにうまく、美しく抑揚をつけて朗読していた。

 だが、その時アデールはたいへんなまちがいをしてしまった。朗読の途中で一行すっかりとばして読んでしまった。クリスティ先生はすぐに気がついたが、しばらく知らん顔をしていた。教室の生徒たちもすぐに気がついて横目で合図したが、アデールは気がつかなかった。

 クリスティ先生はたっぷり五、六行も読みつづけさせてから、急に本をパタン! と音をさせて閉じると、

「アデール、もうよろしい、おやめなさい」

 先生はまゆをひそめ怒った顔をしていたが内心はうれしかった。フランソワとルイーズに対して院長から言い渡されたことで、内心おもしろくなかったが、かわりにアデールを久しぶりに懲らしめてやろことができる。ちらっとブラックノートを見ると、アデールはもう一カ月近くお尻をたたかれていない。〈これではわたしがしかられてしまいそうだわ〉

 一方アデールは、周囲の人に教えてもらい、ようやく自分のあやまちに気がついたようだった。そして下くちびるをかみしめて立っていた。

「アデール、自分のしたことがわかりましたか、これはたんなるまちがいではすみませんよ。一行ぬかしてしまうということは、文章の意味が違ってしまうでしょ、それなのにおまえは気がつかなかった……と言うことは、ただ〃目〃だけで読んでいたからではないでしょうか? とりあえず、おまえには罰が必要なようですね、イスを持って、前に出なさい!」

 アデールは両手でイスを持って、教壇の上にあがった。上級クラスの教室では、教壇のまん中に先生の机があった。その机は手前に傾斜していたが、先生が立って使うので、かなり高くできていた。

「アデール、用意しなさい」

 そう言うと、クリスティ先生は笞を取りに行った。この教室には笞のケースがなかった、そのかわり、黒板のわきに柳の笞と皮鞭がいつも下がっていた。クリスティ先生は平らな皮ムチを取り上げた。

[尻打ちの罰]

 アデールは、自分の持って行ったイスの上に乗ると、ようやくおなかが机の上にとどいた。そしてからだを曲げると、頭はすっかり机の向こう側にかくれてしまった。そのかわり、お尻の部分はこんもりと空中にもりあがって、その肉づきは黒い制服の上からもよくわかった。

 クリスティ先生は近づくと、事務的に制服のスソをまくり上げた。目の前にむき出しにされたアデールのお尻は、十八歳のルイーズのそれよりも大きくりっぱだった。といって、その恥ずかしさが、いくらかでもうすらぐということはない。

 むしろ反対に、上のクラスになるほど、はずかしさは増した。それがたとえ見ている側でも。

 フランソワとルイーズはとくに、ここの僧院ではじめて知り合った友だちだけに、なおさらのことだった。しかし、ふたりとももう目をそむけたりはしなかった。耳まで赤く染めてはいたが、その目はじっとアデールの双丘にそそがれていた。

 クリスティ先生は右そでをまくり上げた。黒い僧衣の中から現われた腕は、驚くほど、力強くたくましく見えた。

「アデール、はじめますよ、さあ、みんなアデールがどんなふうに罰を受けるか、よく見ておおき、おまえたちも同じように罰を受けるのだから、いつも自分がどんなに恥ずかしいかっこうをさせられているか、じゅうぶんにおわかりだろうね、みてごらん、このアデールの高慢にふくれ上がったお尻を」

 そう言いながら先生は、笞の先で軽くアデールのお尻をこづきました。高慢かどうかはともかく、みごとにふくれ上がったアデールのお尻に、最初の鞭が鈍い音をたてて打ちくだされました。

 鞭は柔らかい肉に食い入り、そして、はね上がりました。あとにはくっきりと赤い斑点を残して、アデールは机の上で縮み上がりました。

 かすかに開きかげんに立っていた足を思わずよじるようにして、そのあと、つづけざまに力強い打擲がアデールのお尻にくだされても、アデールはかたくなに両足を閉じていました。

 フランソワはじっとクリスティ先生の鞭の振り方を見ていました。そのやり方は全く手慣れたものでした。けっして大げさなポーズはしないのですが、手首のそりが強く、スナップのきいた打ち方です。

 五回の鞭打ちの間アデールは、多少腰をよじって動くていどでしたが、最後の六打めに、クリスティ先生がちょっと変わった打ち方をしたな、とフランソワが感じた時、アデールは〈あっ!〉と叫んで、思わず右足だけを折り曲げてしまいました。

 それがどんな打ち方だったか、ほんの一瞬のできごとだったのでよくわかりませんでしたが、そのかわりアデールは、なんともぶざまなかっこうをさせられ、その結果、わたしたちはアデールのからだのすみずみまで見てしまいました、お尻をむき出しにされただけでも、じゅうぶん恥ずかしいのに、クリスティ先生のやり方は少々ひどすぎるわ、そう思ってほかの生徒の顔色をうかがったのですがフランソワはそこでも、新たな驚きにぶつかったのでした。

 てっきり怒っているか、恐れていると思われたほかの生徒は、顔にうっすらと笑みさえうかべ、となりの人と顔を見合わせ、やっぱりね-というふうにうなずき合っているのです。それはあたかも、クリスティ先生の鞭打ちを賛美しているようでした。

 教壇のところでは、ようやく許されたアデールが、ふらつくからだを、ふたりの生徒に手をかしてもらって立ち上がったところでした、ようやくイスの上からおりました。そして自分のイスを持って、こちらを振り向いた時、アデールの顔は、まっかになって髪は乱れ、目は泣きはらしていました。

 そして席についてからも、すわっているのがよほどつらいらしく、ときどきからだを動かしては、その痛みにたえていた。ようやく最初の授業が終わり、十五分間の短い休みの間に、フランソワはできるだけ、アデールをなぐさめたものでした。

「いいのよ、フランソワ、あたしたちみんな慣れているのよ、あたしは恥ずかしいわよ……でも、みんな同じですもの、このクラスにいるかぎり、お尻打ちはぜったいにまぬがれないんですからね。あたしだってみんなのお尻を知っているのよ、だから、みんなもあたしのお尻を知っているの、おたがい様ね、そしてきょうのあたしみたいなまぬけがたたかれる時は、みんな笑うわ、たしかに人の不幸を笑い物にするのはいい趣味とは言えないでしょうけど、ほかにおもしろいことがなければしかたないでしょ、そのうち、あなたがたにもわかるわ。そんなに悲しい顔しないの、そのうち慣れるわよ」

 フランソワは反対になぐさめられてしまいました。つづいて行なわれた歴史の時間は、とくに何事も起こらずに終了、そして書き取りの時間も、二、三の生徒が注意を受けましたが、そのほかは取り立てていうほどのことは起こりませんでした。

 授業の終わりに、一ページ分ほどの書き取りのテストが行なわれましたが、とくにむずかしいものではなく、ふたりとも安心したように顔を見合わせて提出しました。授業が終わると先生はふたりを呼んで、

「さあ、きょうから課外授業も受けるのですよ。ルイーズはハミルトン先生のクラスに行きなさい。絵の道具は先生のところにそろっていますから、何も持たずに行けばいいのですよ。フランソワはこの部屋にいらっしやい、器楽はわたしの受け持ちですから。では、一時間たったら、いいですね」

[器楽の受け持ちはクリスティ先生]

 ふたりは自分たちの部屋に戻った、そこには、もうアデールが来ていた。

「おそかったのね、どうしたの」

「先生に課外授業のお話しを聞いていたの」

「ああそうか、ふたりは何を取ったの?」

「あたしとルイーズとはちがうのよ、ルイーズは絵画であたしは器楽よ」

「え-っ、器楽? どうしてルイーズと同じ絵画にしなかったの」

「だってあたしのお家のほうから器楽をやらせるようにって、言ったらしいのよ……だから」

「まあ、そうなの、かわいそうに」

「どうして?」

「だって、器楽はクリスティ先生の受け持ちよ、それにバイオリンにかけてはちょっとうるさいのよ、あの先生」

「ねえ、アデール、絵画のほうはどう? あたし絵なんて少しもじょうずに描けないから心配だわ」

「絵のほうは心配ないわ、ルイーズ。授業の時にイタズラでもしないかぎり、しかられるようなことはないわ。それに絵は大壁画の制作中でね、まあヌリエをやっているようなものよ、共同制作でね、あなたのやるところはあたしが教えてあげるわ」

「アデール、あなたも絵画なの、それじや、器楽はあたしだけ……?」

「ひとりってわけじゃないわ。そうね、何人ぐらいいるかしら、十五人くらいかしら、みんなそうとうに腕を上げているからたいへんよ、追いつくのに」

「あ-あ、心配がまた一つふえたわ、あたしってどうして損ばかりしているんでしょう。ルイーズはいいわね……」

「あっ! そのことで思い出したんだけど、ルイーズ、あなたには悪い知らせよ。きょうの書き取りの時にね、あたしふたりの書いてるのを見てたのよ、フランソワのはまあじょうできだけど……ルイーズ、怒らないでね、あなたのために言うんだから。あなただいぶつづりをまちがえたわ、あたしが気がついたたけでも五つ……いや、六つくらいかな、それにあんなふうに行が曲がって書いてあるとクリスティ先生は気にいらないと思うわ。これからは注意したほうがよくってよ、たぶんはじめ

第5回

てたから、多少罰は軽くなると思うけど、この次からは許してくれないものね」

「まあ、どうしましょう、あたしのそんなにまちがっていた? それで、そのくらいまちがえるとどうなるの」

「そうね-、きょうくらいの分量であのくらいまちがえると、まずクラスのみんなの前で、お尻を懲らしめられるでしょうね。ちょうど、きょうのあたしのように。よほど運がよくても、授業が終わったあとで残されて、お尻打ちをされるでしょうね」

「うわ-、どうしよう。あたし書き取りはにがてなのよ、ねえどうしよう」

「まあ、つづりのほうはあたしのを見ながら書きなさい。あたしだってまちがうことがあるけども、そのほうがいくらかましよ。だけどじょうずに書くことだけは自分でやらなくてはだめよ、それにあたしのを見る時はこっそりやってね、見た人はもちろん、見せた人も罰を受けるのだから」

「わかったわ、なるべくわからないようにするから、お願いね」

 その時、鐘が鳴ってルイーズとアデールはふたりそろって出て行きました。フランソワも恐る恐る教室に戻って行くのでした。

[不安な器楽クラブ]

 フランソワが教室にはいって行くと、中にはもう十二、三人の生徒が待っていた。クリスティ先生はまだ来ていないので、みんなは自分の楽器の調律をしながら、おしゃべりをしていました。

「まあ、フランソワ、あなたも器楽なの?」

 話しかけて来たのは、ハミルトン先生のクラスの時の生徒でした。その声でみんながふり向き、一度に話しかけて来るのでした。マーブル先生のクラスの娘もいます。

「あたしもよ。あたしだって家の人が決めてしまったのよ。それでなければあたしは絵のほうに行くわ、あたしは絵が好きなんですもの」

「器楽クラブの人はね、たいてい家の人の言いつけでやってるのよ。お父様やお母様がそうしなさいって言うからやってるのよ」

 そう言ったのは、きょうはじめて顔を合わせたクラスの生徒で、エレーヌという娘だった。カテリーナも来ていた。そしてフランソワは彼女の持っているバイオリンを見てびっくりした。とても美しく、ところどころに銀の細い線が象眼されていた。

「まあ、カテリーナ、すばらしいのね」

「ああ、これ? パパがあたしをここに入れる時に、買って持たせてくれたんだけど、そのかわり器楽クラブでコッテリしぼられる結果になったのよ。はじめのうちはあたしも好きだったのよ。でも今は、これを見るとゾッとするわ」

「ほんとに、あたし今でもおぼえていてよ、あなたが器楽クラブにはじめて来た日を。たいせつそうにバイオリンケースをかかえてほんとうにかわいらしかったわ。あの時のあなたは」

「まあ、エレーヌったら、それじゃ今のあたしはどうなの?」

「さあ、どうかしら、あのころより、ずんと成長して、美しくはなったと思うわ。でもだいぶすれて来たんじゃございませんこと、なにしろあの時は……そう、三日めの時ね、あなたがはじめてクリスティ先生の笞をいただいたのは。あの時のあなたと来たら、からだじゅうまっかにして泣きわめいたじゃない、あの時の様子がとてもかわいかったわ」

「まあ、エレーヌ、あなたって変なことを言うのね、そんなことまで言わなくてもいいじゃない。フランソワや、おチビさんたちの前で。それにあなただってそうよ、先週の金曜日じゃなかったかしら、クリスティ先生からお尻打ちをいただいたのは、その時あなたは、わあわあ泣かなかったとでも言うの」

「もうやめて、カテリーナ、あたしそんなつもりで言ったんじゃないの、ごめんなさい」

 エレーヌがあやまったので、その場はおさまったものの、フランソワの胸の不安は、いっそう高まったのでした。伯父様が言っていたように、じょうずにできなければ、きっとたたかれるんだわ。一週に一度のおけいこをいやがったために、今は毎日つらい思いをしなければならなくなってしまったんだわ。あの時もう少しがまんすれば……その時クリスティ先生が、はいって来ました。フランソワに一台のバイオリンを渡して、

「もう調律は済んでいます、この次からは自分でやるのですよ」

 そう言って、ほかの生徒にはそれぞれ指示を与え、練習をはじめさせました。そうしておいて、先生はフランソワをみんなと少しはなれたところにつれてゆき、何かひいてみるように、といいました。フランソワは、なるべくやさしい練習曲を選んでひきました。一度ひき終わると先生は、もう一度と言って再び最初からひかせました。結局三回同じ曲をひいて、先生はじっと耳をすませて聞いていました。もちろんその間にほかの生徒が音をはずしたりすれば、即座に先生の叱声が飛ぶのでした。

「わかりました、フランソワ、あなたはどのくらいやってらしたの」

「はい……三年です」

 ほんとうは、伯父様のところに行き出してから、五年近くになるが、フランソワは少々ごまかして言ったのです。

「まあ、三年も、わたしなら二カ月でじゅうぶん。はじめて楽器を持った人でも、二カ月てあなたくらいの腕にしてあげられるわ。とにかくどんな教わり方をしたか知らないけどわたしのやり方はきびしいですよ、いいわね。まあ一週間くらいあたしのやり方に慣れるまでは、大目に見て上げましょうね。上級と中級の二つに分けてあるんたけど……今のあなたの腕では、中級もむりですね、まあ、とりあえず中級ということにして、少しピッチを上げて追いつきましょうね。先生もあなただけ特別に教えるわけにもいかないから、早くみんなと同じ曲がひけるようになってくださいね」

 そして、すぐにフランソワは、楽器の持ち方や姿勢から直された。ちゃんとした姿勢ができるまで、何十回でも同じことをやらされた。そしてフランソワは自分がドレミファすら満足にひけなかったのを思い知らされた。

 そんなわけで、この日のクリスティ先生はほとんどフランソワにつききりで指導した。フランソワはすっかりくたびれてしまったがほかの生徒は大よろこびだった。授業が終わるとみんなフランソワのところに寄って来て「ごくろうさま」と言った。

[懲らしめの鞭]

 新しいクラスに来てから、もう半月になった。フランソワはまだクラスの中で罰はもらわなかった。ルイーズもまだみんなの前では罰を受けなかったが、先日の書き取りのテストのことで、授業が終わってから教室に残されて罰を受けた。

 その時はほかにふたりの生徒もいっしょだった。なかでも、そのうちのひとりなどは、一つしかまちがえなかったのに、字の書き方がへただという理由で、お尻を笞で懲らしめられた。ルイーズは本来ならば教室のみんなの前で罰を受けるところ、とくに軽くしてもらったので、そのかわり皮鞭でじゅうぶんにたたかれたらしい。部屋に戻ってもしばらくは口もきけないほどだった。

 フランソワも教室でこそ罰は受けなかったが、課外授業のほうでは、もう二度も罰を受けた。クラスのみんなの前ではもちろん恥ずかしいだろうが、自分より年齢の小さい人たちのいる器楽クラブでたたかれるのも、やっばり恥ずかしいことにかわりはなかった。

 ただ器楽の時は、みんなは先生を中心にまるく円を作るように並んでいるので、罰を受ける生徒は、立ったままからだを前にたおして譜面台に手をついているので、ほかの生徒にお尻を見られることはなかった。でも泣きベソの顔はみんなに見られてしまうのです。

 それにクリスティ先生は課外授業の時はほとんど笞を使わず、平手打ちをなさるのです。年齢の小さな生徒がいることもあって、よほどのことがないと笞は使いません。でも先生のはたいへん痛いのです。それにピシャン、ピシャンという音がとても大きくて、フランソワは思わず耳のつけ根まで赤くなってしまいます。

 それにたとえお勉強や楽器がじょうずにできても、タ方の反省会まで無事に済ませることは、ぜったいにできないのです、絶対に! だから、フランソワも結局一日に一度や二度は、手のひらや、もっと恥ずかしいところを打たれて、そして涙を流すのでした。しかしその反面、同じ年ごろのお友だちと、少ない自由時間をおしゃべりして過すのは、とても楽しいことでした。

 以前普通の学校に行っていた時も、お友だちは大ぜいいましたが、今のように心の底から打ち明けて話をできる人が、はたしていたかしら。みんなうわべを取りつくろって、きれいごとを並べ、おじょうひんに気どっておつきあいしていたんですもの、もちろんフランソワとて例外ではなかったのです。

 しかし、ここではだめ、いくらおじょうひんぶって気どったところで、もうみんな知っているんですもの。それだけにふだんの時は、胸のうちをなんの気どりもなく話し合えるのです。それはまるで世間で言う「男の友情」のようなものではないでしょうか。

聖女の行進 6

第6章 青キップは浣腸の罰

[熱い肌に冷たい油]

 フランソワは、自分の部屋に戻ってからもまだ、あのことを考えていた。ベッドにうつぶせになって、たった今クリスティ先生から懲らしめられたところをそっとさすっていた。その部分は、まだ熱くホテッていた。しかし、頭の中は、あのことを考えつづけていた。だから、ルイーズが部屋にはいって来た時も気がつかずに、制服の上からお尻をさすっていた。

「フランソワ! またたたかれたの?」

「まあ、驚いた、ルイーズ。戻ったの、あたし、考えごとをしてたの」

「考えごとをね? まあ、いいわ。それで、たくさんたたかれたの。鼻の頭が赤くなってるわよ。見せてごらんなさい」

「いや、いやよ。もう平気よ」

 ルイーズは、フランソワのことばに耳もかさず、ベッドのふちに腰をおろした。フランソワは少し抵抗したがムダだった。ルイーズはいつもそうするのだった。

 はじめてフランソワがお尻打ちを受けた時その時はまるで半狂乱で部屋に戻ると、気を失ったようになって無意識のうちにルイーズに処置されていた。せいぜい油を塗るくらいのことしかできなかったが、それでもずいぶん楽になったような気がした。それからはいつもルイーズはそうするのだった。しかし、ルイーズは自分の時は自分で処置してしまうのだった。

「言うことをききなさい、フランソワ。ちゃんとしておかないとね、肌がざらざらになってしまうわよ。さあ、いい子だから、手をどけなさい。恥ずかしがることなんかないでしょ」

 そう言いながらルイーズは、制服のスソをそっとたくし上げた。

「まあ、ひどい、いったい何をしたの。こんなにたたかれるような悪い事って何?」

「あたし、あのことを考えてたの。それで少しも練習に身がはいらなくて、二度も三度もまちがえたの……」

「あのこと? あのことってなんのこと?」

「あのことよ。青キップのこと。もう忘れたの」

「ああ、青キップのことか。べつに忘れたわけじやないけど! 考えすぎて、そのことでおしおきされるほど、あたしマヌケじゃなくってよ」

「だって……あたし、いやだわ、考えはじめると、頭の中がいっぱいになって、ほかのことが考えられなくなっちゃうの」

「おバカさんね。しかたがないじゃないの。その時はその時、今から心配したってしょうがないじゃないの。あきらめなさい。それに、あれだって、そんなに考えこむほどのことじゃないと思うわ」

 フランソワはそれには答えず、じっとしていた。ルイーズは、ゆっくりと油をすり込んだ。はじめは少しいやがってみせたものの、フランソワは、ルイーズにこうしてもらうのが好きだった。熱い肌の上に冷たい油をつけて……それが再び暖かくなる時、とても気持ちがよかった。

 しなやかなルイーズの指が時おり、双丘のほうにまですべることがあった。フランソワはそんな時、からだをびくっと動かして、小さな声で〈いやっ〉と叫んだが、からだが電気にふれたように感じるのだった。

 ルイーズは、ピシャッと一つたたくと、《さあ、もういいでしょ》と言って立ち上がった。

「手を洗って来るわ。油でこんなになってしまったわ」

「ごめんなさい、ルイーズ。どうもありがとう」

[頭をつけて腰を高く]

 ルイーズが再び部屋に戻った時、フランソワはベッドの上に起き上がっていた。

「ねえ、フランソワ、ニュースよ。あなたにはとっても興昧のあること。今ね、あたしが手を洗って部屋に戻ろうとしたらね、ゲービーとすれちがったの。その時、あの人、たしかにあのキップを持ってたわ。あたしの顔を見たらすぐに手の中に隠してしまったけど……。やっぱりあの人は、きょうのうちにすませてしまうつもりね。ハミルトン先生のところにいって、それからあそこに行くんだわ、あの小さな部屋に、そして、青キップにサインをしてもらうのよ、あのあとでね」

「ほんと。それで、みたの、あなた。あの人が部屋にはいるのを見たの?」

「見やしないわよ。だから、いったでしょ、あの人とすれちがった、って。今ごろきっと部屋にはいったころよ」

 フランソワはそわそわと立ち上がると、ドアのところに行って、そっと開くと、外をうかがっていた。

「ルイーズ、あたしちょっと外へ行くわ」

「フランソワ、およしなさいよ。そんなこといけないわ、かわいそうじゃないの」

「だって、あたし、じっとしていられないのよ。ごめんなさい、ルイーズ、ちょっとだけ」

 フランソワはそう言い残すと、部屋を出て行った。長い廊下を音のしないようにすばやく歩いて、洗面所の前まで来た。その時、ドアのしまる音が聞こえた。

 きっと今、中にはいったんだわ--足音をしのばせて小さな部屋の前まで行った。その部屋の左側はずっとトイレが並んでいた。フランソワは息を殺して聞き耳をたてた。毎朝、生徒たちでごったがえす洗面所も、今は静かだった。部屋の中からハッキリとハミルトン先生の声が聞こえて来た。

「えーと、ゲービー、だったわね。どれ、キップを見せてごらん。ふん、ふん……このキップには、たっぷり懲らしめてください、と書いてあるけど、おまえは何をしたの」

 ゲービーの声は小さかったけど、それでもよく聞こえた。

「はい先生、わたしはきょう、クリスティ先生に笞をいただいている時に、無作法なことをしてしまいました。わたし、とても苦しかったんです。それでずいぶんがまんしてたんです。でも、どうしても……あれ以上がまんできなかったんです」

「毎朝、キチンとお通じはあるんでしょうね、けさはどうだったの」

「けさは……ありませんでした……」

「なぜその時わたしのところにすぐに来ないの。だから、青キップをもらうことになるのよ。クリスティ先生のおっしゃるとおりね。そんな自分勝手な生徒は、懲らしめてあげなくてはね。さあ、ベッドに上がりなさい」

 フランソワは胸がドキドキと脈打っているのが聞こえるようでした。ベッドのきしむ音がきこえました。

「頭をつけて、腰を高くね。ホラもっとお尻を上げなさい」

 先生の声が矢つぎ早に聞こえて来ました。

「アーッ、先生、アーッ、イヤッ」

「さあ、これでよし、そのまま静かにしていなさい」

 それっきり中からは、コトリとも音がしなくなりました。フランソワは、中でどんなことが起こっているのか気が気でなりませんでした。

 およそ五分もたったでしようか、フランソワにはとても長く感じられました。中から弱弱しいゲービーの声が聞こえて来ました。

「先生……センセイ、おねがいです、もうしませんから……アーッ、もう苦しいんです。先生、ゆるしてくだきい」

「ゲービー、まだ半分ですよ。がまんなさい。あなたは罰を受けているのだということを忘れないようにね」

[ノゾキ見して]

 ゲービーがあんなに頼んでいるのに、先生は冷たくつきはなしてしまいました。フランソワは思わずからだをドアに近づけました。

 その時、「そこにいるのは誰? まあ、フランソワじゃないの、どうしました? からだの調子が悪いの?」

「い、いいえ、クリスティ先生、あたし、トイレに来て、今帰ろうとしていたところです」

「そう?」

 その時、ふたりの話し声を聞いて、小部屋の中からハミルトン先生も出て来ました。

「おや、クリスティ副院長、フランソワが何か?」

「いいえ別に、ハミルトン先生は?」

「ゲービーが青キップを持って来ましたのでそれで……」

「ああ、そうでしたか、お騒がせしまして、ゲービーはおとなしく罰を受けていますか」

「はい、副院長」

 クリスティ先生はドアをあけて中をのぞき込みました。

「ゲービー、ちゃんと罰を受けていますか? もう少しだからがまんしなさい」

そして振り向くと、

「フランソワ、あなたはもう部屋に戻りなさい」

と言いました。

 フランソワは、ペコンと頭を下げると、いそいで戻りました。息をはずませて部屋にはいると、イスにがっくりと腰をおろしてしまいました。

「フランソワどうしたの?」

「あたし、見つかっちゃった」

「見つかった?」

「あたし、自分のことはうまくごまかしたんだけど、そのかわり、あたしがいたこと、ゲービーに知られてしまったわ。どうしよう、あの人きっと、あたしのこと、おこってるでしょうね」

「あたりまえよ、誰だって自分がおしおきされているところをほかの人に見られたらいやに決まってるじやないの。あの人だって……それだから、こんな時間に行っているんじゃないの。アデールだって、ほかの人だって、みんな知っているから、わざわざトイレに行くのだってがまんしてるんじゃないの。それを、あなたったら、わざわざ……」

「もう言わないで。あたし、後悔しているのよ」

「いまさらおそいわ。あなた、仲間はずれにされてしまうわよ」

「どうしたらいいの。ねえ、ルイーズ、お願い、教えて」

「まあ、とりあえず、ゲービーにはあやまるのね」

「そうするわ、でも、今夜より、あしたの朝のほうがいいと思わない?」

「そうねあしたの朝のほうがいいでしょう」

 フランソワは自分のしてしまったことがとても悪いことのように思えてきて、ゆううつになってしまいました。

[ひっくり返した朝食]

 次の朝、お祈りが終わった時もまだフランソワはゲービーに話しかけるチャンスがありませんでした。

「フランソワ、どう? 話した?」

「いいえ、まだなの。だって、あの人、あたしを避けているみたい」

「そうかも知れないわね。でも、早くしないと授業が始まってしまいますよ。そうするとなかなかチャンスがなくってよ」

「ええ、お食事の時にでも話すわ」

 ふたりは連れ立って食堂に行きました。もう長い列ができていました。

 自分の引き出しからお皿二枚とスプーン、フォークを取り出すと、ふたりはその長い列につきました。

 すると、その後ろ二、三人おいてゲービ-が同じように並びました。それに気がついたフランソワは、なんとか話しかけようと後ろを振り向きましたが、そのたびにゲービーは横を向いてしまいました。

 列は次第に短くなり、フランソワの片方のお皿にはサラダと卵、それにパンが二きれのせられました。そして、右手のお皿にも熱いスープが盛られました。

 折り返してテーブルに帰る時、ゲービーとすれちがうのだ、その時にあやまろう、そうしなければまたチャンスを逃がしてしまうわ。フランソワはそう思って、ゲービーのほうに歩き出しました。そして、

「ゲービー、あたしね……」

 と話しかけた時、ふいに右足をすくわれたようになって、フランソワはからだのバランスをくずしてしまいました。

「ワアーッ、アーッ」

 フランソワは、なんとかからだを元どおりにしょうと思いましたが、ついに床の上にころがってしまいました。パンも卵もサラダもみんな床に散ってしまいました。もちろんスープも……。

 さっそくクリスティ先生が来て、立ち上がろうとしていろフランソワの腕をとって、そして、きちんと立たせると、みんなの見ている前で、手のひらに笞を当てるのでした。

「ごめんなさい、先生、痛い、イタイ、もうしません」

 クリスティ先生は、たっぷりと手のひらをたたくと、フランソワをつれて行き、ほうきとちり取りを持たせて、そうじをするように言いつけました。

 フランソワは、ヒリヒリする手にほうきを持って、べそをかきながら仕事をしました。そのうえ、朝の食事は一片のパンと水だけですませなければなりませんでした。そして、食事が終わった時、クリスティ先生が、青いキップを持って来たのです。

 フランソワはすっかり取り乱してしまいました。

「先生、お願いです。先生、あたしはつまずいてころんだのです。しかたがなかったんです」

「わかりました。しかし、フランソワ、毎日の糧が神様からの授かりものだということを忘れないように。どんな理由があるにせよ、食物をそまつにした罰をまぬがれることはできないのだよ。あしたの朝までに、ハミルトン先生のサインをもらっていらっしゃい」

 クリスティ先生はそれだけ言うと、さっさと行ってしまいました。

[笞をとっておいで]

「ルイーズ、どうしたらいいの。誰がやったの、ゲービーなの、あたしの足を引っかけたのは。誰れかがわざと足を出してあたしをころばせたのよ」

「そうかも知れないわ。でも、もう、しょうがないでしょ、青いキップをもらってしまったんだから。さあ、教室に行きましょう」

「冷たいのね、ルイーズ。ああ、気が狂いそうだわ」

 フランソワの心配は、教室にはいってからもつづきました。そして、小さな声でルイーズに話しかけるのでした。

 お昼食のあとでも、フランソワの頭の中はあのことでいっぱいでした。教室の中には、美しい詩の旋律が流れていました。クリスティ先生の声は静かに読み進んでゆきました。

「……フランソワ……もうおよしなさい……朝から何度同じことを言えば気がすむの……もうやめて……」

「だって……ルイーズ、あたし、いやだわ……お願い……聞いてよ、誰かがわざとやったのなら、先生も許してくれるかもしれないわ」

「およしなさい……だめよ……ぜったいに許してなんかくれないわ……もう話しかけるのやめて……」

「だって、ルイーズ……」

 パタン! と音がして、クリスティ先生は本を閉じました。

「フランソワ! ルイーズ! 前に出ていらっしゃい!」

 ふたりはおそるおそる立ち上がると、前に出て行きました。

「おふたりとも、よほど重大会議がおありのようね、でも、一日じゅうおしゃべりをさせておくわけにはいきませんよ。おまえたちは朝からずっとオシャべリしていましたね。先生が知らないとでも思っているの。許すわけにはいきませんよ。さあ、笞を取っておいで、柳の笞だよ。フランソワはイスを持っておいで、一つでよろしい」

 ふたりが言われたとおりに笞とイスを持って来ると、先生は笞を取り上げてふたりに命令した。

「ルイーズ、おまえは、子供のころ、お母様にたたかれたことはありますか」

「はい、先生……」

「どんなふうに」

「はい、先生! 母はわたしをひざの上にのせて、そして……お尻を懲らしめました……」

「よろしい、おまえがおしおきをされたように、フランソワをやってごらん」

「フランソワを? わたしが?」

「そう、フランソワをひざにのせて、

第6回

たっぷりとおしおきをしておやり、どうせ、そのあとでおまえも同じようにフランソワに罰されるのだから、遠慮しないでやるようにね」

「はい……先生」

[お互いに尻打ち]

 ルイーズはイスにすわると、フランソワのほうを見上げました。フランソワは、そっと近づいて来ると、ルイーズのひざの上にからだを横たえました。もうはじめるよりしかたがありません。左手でフランソワの腰をかかえると、右手で制服のスソをまくり上げました。ふっくらとふくらんだフランソワのお尻は、きのう受けたお尻打ちのあとがまだ少し残っていました。

「はじめるわよ」

 小さな声でルイーズは言いました。その声でキュッと縮み上がったお尻に、ルイーズは最初の一打をピシャンと打ちおろしました。

「ルイーズ! おまえのお母さんは、そんなやさしいたたき方をしたの。もっと力を入れてたたきなさい。そうしないと、いつまでたてても終わりませんよ」

「はい、先生」

 そしてルイーズは、力いっぱいたたきはじめました。もともと、フランソワが悪いんだわ、そのためにわたしまでたたかれるんだもの。そう思って少々しゃくにさわったので、ほんとうに昔、自分がたたかれた時のように思い切りたたいてやりました。

「ルイーズ、もうやめて、先生、ごめんなさい。アーン、痛い。もうおしゃべりしませんから、ルイーズ! やめて……」

 ルイーズは、途中で何度も先生の顔を見ましたが、そのたびに先生は、つづけるようにうながしました。

 その間フランソワは、いいしれぬ恥ずかしさでいっぱいでした。先生の命令とはいえ今、自分に罰を与えているのは、自分と同じくらいの年齢の娘なのです。普通ならとてもそんなことはさせはしないのですが……今はどうすることもできずに、その恥ずかしいおしおきを受けているのです。

 むかし……ず-っとむかし、子供のころ、母にされたように、自分は今あつかわれているのです。母は力でおさえつけましたが、今は目にみえない力でどうすることもできないのです。

[ふっくらしたお尻を]

 ようやくフランソワのおしおきが終わりました。次はルイーズの番です。フランソワは自分のお尻を両手で押えて立ち上がりました。目には涙をいっぱいためて、くちびるをかみしめて、ルイーズをにらみつけました。そしてイスに腰をかける時思わず《うっ!》というほど痛かったのです。

 ただすわっているだけでもヒリヒリ痛いのに、そのうえに重いルイーズのからだをのせなければなりません。しかし、フランソワはロをキッと結ぶと、ルイーズのウエストのところをしっかりとかかえました。そして、制服のスソをたくし上げると、そこにはルイーズのたくましいお尻がほんのりと赤みを帯びて、ふるえていました。

 フランソワは、先生の合い図で、ルイーズのお尻をたたきはじめました。はじめから手を高く上げて力いっぱいたたきました。ピシャン、ピシャン、とお尻の上で、フランソワの手が鳴るたびに、ルイーズは足をバタバタさせからだをよじって痛みをこらえていました。ルイーズにたたかれたと思うとくやしくって、フランソワは、メチャクチャにルイーズのお尻をたたいてやりました。

「フランソワ、やめてーっ。ひどいわ、フランソワ。痛い、痛い。そんなにキックたたかないで、あ-ん、いたい」

 クリスティ先生が、《もうよろしい》と言うまでフランソワはたたきつづけました。それも、ほとんど、お尻のまん中の、いちばんふっくらと高くなったところだけをたたいたので、そこの部分だけまっかになってしまいました。

[おシャベリの罰は]

 ふたりのおシャベリ娘に対するクリスティ先生のおしおきの仕上げは、ふたりを教壇のところに並んで立たせると、ヤナギのムチをふたりの口にくわえさせて立たせておくことでした。

 この罪は、おシャベリをした生徒に対してよく使われるのですが……なるほど、これなら、もうオシャベリはできません。ふだんなら、さして気にするほどの罰ではありませんが、このふたりには、今、ちょっとした冷たい戦争が始まろうとしていたのです。タ方の自由時間まで、ふたりはひと言も口をききませんでした。

 バタン! とドアを後ろ手に締めると、まずフランソワが話し出しました。

「ルイーズ、ひどい人ね。なにも、あんなにたたかなくたっていいじゃない」

「お-う、なんてことをいうの、フランソワ、先生の命令で、しかたなくやったことじゃない。それに、もともとあなたが悪いのよ。それなのに、あなたのほうこそ、どうなの、まるで頭にきたみたいにたたいたじゃない。それもわざと同じところばかりたたいたのね。きょうばかりか、あしたになっても痛むわ、きっと。あたしは、あなたのお尻をなるべくまんべんなくたたくようにしたつもりよ。そうすれば、きょうじゅうに痛みがとれると思ったから、そうしてあげたのよ。そのぐらいのこと、あなただってわかってるのに、それなのに、あなたはわざと、同じところをねらってたたいたのね。あたしがからだをよじって、いやがっていたのに」

「知らないわ、そんなこと。どうせ、いつもあたしが悪いのよ。でも、もう少しやさしくあたしの話をきいてくれたら、こんなことにならなかったのに」

「だって、しかたがないじゃない、もう青キップをもらってしまったんだから、いまさらむりよ、何を言ったって。それに、青キップのことだって、もとはといえば自分が悪いんじゃない」

「ええ、ええ、そうですよ。なんでもあたしが悪いんだわ……みんなで、あたしのことをいじめるといいんだわ。意地悪……ルイーズの意地悪。あなたなんかといっしょにこなければよかったわ」

「まあ、フランソワ、なんてことを言うの、あなたそんなこと考えてるの……あたしだって、なにも、こんなところに来たくはなかったわ。しかたなしについて来たんじゃない。あなたにそんなこといわれる筋はないわ。さあ、フランソワお嬢様、青キップにサインをもらっていらっしゃいませ、ささ、お嬢様。浣腸はおいやですか? フランソワ、行ってらっしゃいよ。それとも、ついていってあげましょうか」

「いや、いや、ルイーズ、もうやめて、意地悪。どうしてあたしをそんなに苦しめるの」

 フランソワは机に顔をふせて泣き出してしまいました。

 遠くで鐘の音が聞こえます。あと一時間で消燈です。それまでに済ませてしまうか、さもなくばあしたの朝。

 フランソワは、しばらく机のところにいました。

 やがて決心がついたのか、すくっと立ち上がると、ドアをあけて出て行きました。青白い顔はキュッとくちびるをかみしめていました。背後にルイーズの心配そうな視線を感じながら。

 しかしフランソワは、後ろをふり向きはしませんでした。

聖女の行進 7

第7章 朝の礼拝に遅刻

[石けん浣腸]

 フランソワは、ハミルトン先生の前に立っていた。

「どうしました、フランソワ」

「先生、これ……これにサインしてください」

「おやおや、たいへんなものを持って来たのね、サインして上げましょうね。でも、その前にちゃんと義務をはたさなければいけませんよ。さあ行きましょう」

「先生、お願いです。サインしてください。あたし、たたかれてもいいんです。でも……あれはいやなんです」

「さあ、それはどうでしょう。院長先生やほかの先生がたが相談して決めたことですからね。わたしがかってに変えるわけにはいかないのですよ。さあ、わたしについていらっしゃい」

 ハミルトン先生はさっさと部屋を出て行ってしまいました。フランソワはしかたなく後ろについて行きました。小部屋のとびらをあけると、《さあ、中におはいり》と言ってフランソワを先に中に入れ、そして自分もつづいてはいると、とびらをピタッと閉じてしまいました。

 わずか5メートル四方ほどの部屋ですが、とても明るい感じがしました。まっ白な壁にそってベッドが二台置いてありました。そしてフランソワにとってはじめて見る道具が立っていました。そのほか、ガラスのケースには、何本も大型の注射器のようなものもありました。フランソワは不安でじっと立っていることもできないくらいでした。

「ベッドに上がりなさい」

「先生、教えてください、あたしは何をされるのですか。どんなことを……」

「あなた、はじめてですか。そう、ここに来る生徒のうちニ分の一ぐらいの人は知らないようですね。別にこわがることはないのですよ。痛いこともありません。お祈りをしなさい、いっしょうけんめいに、そうすれば、すぐにすんでしまいますよ。さあ、べッドに上がりなさい」

 先生の最後のひと言には、もう抵抗することができないような、きびしさがありました。フランソワはしかたなくベッドに横になりました。そして息を殺して先生の挙動を見つめていました。

 ハミルトン先生は湯わかしに手をふれて、そのぬくもりをたしかめ、たなの上から壷をおろし、中から白い粉を器に少量移しました。フランソワは、きっと食塩なんだと思いました。お湯を器にそそぎ込むと静かにかきまぜ、そして水を加えてからもう一度ぬくもりをたしかめているようでした。

「フランソワ、おまえは、初めてのようだから、きょうのところはイルリガートルは使わないことにします。そのかわり、せっけん水を使いますからね。そうすれば、これがどういうききめのものか、おまえにもよくわかろだろうからね」

「はい、先生。どうぞ、あまり痛くないようにしてください」

「おまえには、まだよくわかっていないようね、べつに痛めつけるためにするんじゃないのですよ。おなかの中をからっぽにするのよ。せっけんを入れてきれいにおそうじをするんですよ」

「せっけんを? おなかの中に?」

「そうですよ、ほんとうに何も知らないのね。さあ、横になって右足だけ曲げてごらん」

 フランソワが言われたとおりのポーズを取ると、先生はケースの中から器具を取り出して、器の中の液を器具にたっぷりと吸い込ませました。

 そして、タオルでつつむようにして左手に持ちました。タオルの先をせっけん液にひたすと、右手にそのぬれた先を持ってフランソワのところに来ました。

「フランソワ、お尻をお出し! 先生は両手がふさがってるの。早くしなさい!」

 ハミルトン先生にも、もう何度か裸のお尻を見られてしまっていましたが、たからといって、恥ずかしくないということはありません。やっとの思いで、そっと制服のスソを持ち上げました。

「おまえのお尻はとてもいい形になりましたね。はじめて見た時は、高慢に太っていましたけどね。クリスティ先生にはたいぶたたかれたようね。そのおかげで、心ばかりか、からだも美しくなるのですよ。さあきょうはからだの中まできれいにしてあげようね」

 むぞうさに右手に持ったタオルの先をフランソワのお尻にあてがって、キュッ、と強くふいたので、フランソワは思わずとび起きてしまいました。

「いや! 先生、そんなことしないで」

「何をいうの! フランソワ。かってに起きてはいけません。いうことがきけないなら、ベッドに結えつけてしまいますよ! さあ元どおりにしなさい」

 先生のきびしいことばに、フランソワはすぐに元どおりのポーズになったのですが、ハミルトン先生は、おしおきを受ける態度が悪いと言って、力いっぱいの平手打ちを二つ与えたのでした。

[先生の目の前で]

「そら、口を大きくあけるのよ。おなかに力を入れないで、いいこと、動いてはいけませんよ」

《あ-っ》思わず悲鳴をあげて起き上がりそうになるフランソワを、先生は左の腕で押えつけて、そして時間をかけてゆっくりとピスンを押しました。そのたびに《グル、グル》とおなかに液が入り、暖かさを感じました。しかし、それよりもフランソワはからだじゅうが燃えるようにほてって、恥ずかしさでいぱいでした。

 じゅうぶんに時間をかけて施術を行なったにもかかわらず、先生は、その長くとがった先端をぬき取った後、しばらくそのままの姿勢でいるように命じたのでした。先生がはさみ込んだ綿を右手で押えたままからだを堅くしていました。

 しばらくすると、フランソワのおなかの中はたいへんなことになって来ました。グルグルと鳴り、液体がうず巻いていました。

「先生……あたし、あ-っ……お手洗いに行かせてください」

「そうですね、もうそろそろいいでしょう。持って来て上げましょうね」

 そう言って先生は、壷型のおまるを持って来ました。子供が使うものと同じ型ですが、少し大きいようです。

「さあ、これになさい」

 いつもなら、とても、先生の見ているところなどで、できはしないのですが、今は一刻も早くおなかの中のものを処理してしまいたいので、フランソワは顔をまっかにしながらも、先生の言いつけどおり、その不細工な壷にまたがったのでした。

 背後に先生の冷たい視線を感じた時、フランソワの最後に残っていたほんの少しの気ぐらいも、吹き飛んでしまいました。

 そして、ようやく終わり、静まりかえった廊下を通って自分の部屋に戻ってからも、からだじゅうがだるく、ロをきくこともできないほど疲れたようでした。

 ルイーズも何も話しかけて来ませんでしたが、じっとフランソワのほうを見ていました。しばらく机のところにすわっていたフランソワは、やっと腰を上げ、着替えをすませると自分のベッドに行きました。そして、ベッドにはいる前にルイーズのほうを振り向いて、目を合わせると、小さく肩をすくめ、《終わったわ》とひと言、ポツリと言いました。ルイーズは、

「そう、わりと平気そうな顔をしてるわ。でも、疲れたみたい……さっきはごめんなさいね。あたし、言いすぎたわ」

「もういいの。もう終わったのよ。アデールの言ったとおりだわ。たたかれるより楽だけど、あたしはきらいよ。まだ、たたかれたほうがましだわ。どうしてあんなことするのかしら。あたしたちだけが、どうしてあんな恥ずかしいめに合わされるの、ルイーズ……どうして……」

「フランソワ、もうわすれてしまいなさい、もう、すんでしまったんだから。あたしたちは、ムリヤリここに入れられているんじゃないのよ。お金を払って入れてもらっているのよ……形の上ではね。だから、不服をいうのはよしましょう。言ったところでどうしようもないんだし、それを言うなら、はじめからはいらなければよかったのよ。けっきょくはあきらめてまかせるしかないのね」

「わかったわ、ルイーズ。もうだいじょうぶよ。さあ、寝ましょう。そして、あしたの朝は、この青いキップをクリスティ先生のところに持って行くわ。あたし、ちやんとサインをもらって来たのですもの……」

[天使の歌]

 一日の終わりの鐘が夜の空気をふるわせると、院内の明かりがいっせいに消えた。フランソワはベッドにはいってからも、しばらくねつかれなかった。考えれば考えるほど恥ずかしさがこみ上げて来た。

「フランソワ!」

暗やみの中から、急にルイーズの声が聞こえた。それも、フランソワのベッドのすぐそばだった。そんな近くにルイーズがいるとは思わなかったので、フランソワは驚いて、起き上がった。

「フランソワ、起きなくていいわ、そのまま寝ていてちょうだい」

 ルイーズは、フランソワの肩に手をかけると、そっと押してベッドに寝かせた。そしてそのまま、自分も腰をおろした。

「だめよ、ルイーズ、しかられるわ」

「平気よ、小さな声で話してれば、ねえ、フランソワ。もしあなたが、いやだったら、いいの。でも、もしよければ話して、さっきのこと」

「だって、あなたは知ってるんでしょ。あのこと。別に、それと変わらないと思うわ。とっても恥ずかしいのよ。わざと恥ずかしいポーズをさせるのよ。それで少しでも反抗的な態度をみせると、ビシ、ビシとたたくのよ。それから、おなかの中に……とってもたくさん。あたし、苦しくって、おなかが破裂しそうだったわ。そして、どうしてもがまんできなくなっちゃうのよ。そうしたら、先生は、オマルを持って来るのよ……ええ、そうよ、先生の見ているところで……だって、がまんできないんですもの……」

 話し終わった時、フランソワは泣き出してしまった、ルイーズの手をしっかりとにぎって、

「ごめんなさい、フランソワ。いやなこと聞いちゃって、でも、あたしも知りたかったの。あたしだってこわくって、びくびくしてるのよ」

 フランソワが泣きやむまで、ルイーズは背中をそっとさすっていた。そしてフランソワの腰に手を回して、

「フランソワはまたたたかれたのね。だいじょうぶ? 痛くない?」

「ええ、さっきのはそれほどひどくはなかったわ。それよりもルイーズ、あなたのほうこそだいじょうぶだった? ほんとにあたしっていじわるなのね。わざと同じところをたたいたりして。許してね、ルイーズ」

「いいわ。でも、一つお願いがあるの……フランソワ、あたしにキスさせて、ここのところを、いいでしょ」

「でも……どうして」

「だって、とてもチャーミングなんですものきょう、あなたをたたいていた時、だんだんピンク色になって、そして終わりのころは赤くなって、あたしのひざの上でふるえていたあなたのお尻。あの時だってあたし、抱きしめてあげたかったわ。だから、お願い。ね、いいでしょ」

「ルイーズ、おバカさんね。あたし、知らない」

 そう言ってくるっと向こうをむいてしまいました。しかし、そのかわり、フランソワのお尻は、ルイーズのほうを向いてしまいました。ルイーズはそっとベッドからおりて床の上にすわると、フランソワの夜具をそっともち上げ、そして寝巻きのすそをまくり上げてしまいました。

 フランソワは、からだを堅くしてじっとしていましたが、ルイーズの手がドロワースにふれた時、小さな声で〈ルイーズ〉と叫びましたが、それでも手で顔を隠してじっとしていました。ドロワースもルイーズの手でひざのところまで引き下げられてしまいました。暗やみのなかに、フランソワの丸いお尻がほんのりと白く浮き立って見えました。ルイーズはたまらず、くちびるをふれてしまいました。小さなため息がフランソワの口からもれ、ルイーズは何度も何度もくちづけをくり返しました。

 しっかりと腰を抱いていた右手が、次第に前のほうに回って、暗やみのなかでフランソワは、自分の手で自分の口をしっかりと押えていました。手をはなせば大きな声を出してしまうでしょう。からだの中は火がついたように熱くなってきました。心臓が今にもとび出してしまいそうな勢いで、からだじゅうの血をぐるぐると回していました。

 そしてフランソワは、天使の歌を聞いたのでした。気を失ったように夢と現実のなかをさまよいながら、次第に眠りのなかにひきずり込まれていってしまいました。

 ルイーズも、心地よく疲れたからだを引きずるようにして自分のベッドにもぐり込みました。ほてったからだを冷たい夜具が気持ちよく冷やしてくれます。からだが重く重く、沈み込んで行くようでした。

[鐘の音は起床合い図]

 フランソワは、まだ雲の上にいるようでした。からだがふんわりと浮き上がったように気持ちよく、ずっとこのままでいたいと思いながら、遠くのほうで聞こえる天使の鐘の音に耳をすませていました。

 鐘の音はだんだん小さくなって聞こえなくなってしまいました。雲がきらきらとかがやき、まぶしいくらいでした。と、その時、なにか大きな音がして、フランソワはすうーっと現実に引きもどされて来ました。

「フランソワ! ルイーズ! 何してるの? おくれるわよ。早くしなさい。鐘はもうとっくに鳴り終わったのよ。さあ、早く早く、あたし、もう行くわよ!」

 ぼんやりと部屋の中を見回したフランソワがはじめに見たのは、大急ぎでベッドから飛び出して来たルイーズの姿でした。

「フランソワ、早く起きて、あたしたち遅刻しそうよ」

 ルイーズはそう言いながら、てきぱきと着替えをすませていました。ようやくその事態に気がついたフランソワも、あわててとび起きると着替えにかかりました。

「ねえ、ルイーズ、あたしたちどのくらい遅れてるの」

「さあ、わからないわ。でも今アデールが行ったんだから、なんとか、まにあうと思うけど、いそがなくちゃだめよ」

 制服の胸には、小さなボタンが十二もついていました。あわてているフランソワはなかなかうまくボタンがかけられません。そのうちにルイーズは自分のベッドを直して、フランソワのほうもやってしまいました。

「フランソワ、下着を早くぬいでこの中に入れなさい。早く」

「だってボタンがかからないのよ」

「こっちに来て、早く」

 そう言いながらルイーズは、フランソワの制服の中へ手を入れると、ドロワースのひもをほどきにかかりました。ぐっと下まで引きずりおろすと、

「早く足をぬいてよ。足を上げて!」

 ようやく下着を取り上げると、きちんとたたんでカゴの中に入れました。そして、フランソワといっしょに大急ぎで洗面所に向かったのでした。しかしそこにはもう誰もいませんでした。

 ふたりは髪だけ直すと、いそいで礼拝堂に向かったのでした。大急ぎで行ったにもかかわらず、重い鉄のとびらはきっちりと閉ざされていました。

 そのとびらの前には、ひとりの先客がいました。ハミルトン先生のところにいた生徒です。ふたりはその後ろに並びました。

[遅刻したのは三人]

 後ろをふり向いた生徒は、悲しそうな顔でふたりを見上げました。

「マリー・クローリーじゃない、あなたみ遅刻?」

「ええ、あたしの目の前でとびらがしまったのよ。ひどいわ、もう少しでまにあったのに」

 マリー、と呼ばれた娘は、これから起こる事態を思い、目に涙をうかべて話していました。

「きょうはお休みなのにね」

「そうね、きょうは土曜日だったわね。マリーはどうしたの? おねぼうしちゃったの?」

「ちがうわ、ちゃんと起きたんだけど……」

「じゃあ、どうしたの」

「あたし……どうしてもドロワースのひもがほどけなくって、なかなかほどけないのよ……」

「だったらそのまま来ればいいじゃない。遅刻するよりはましよ」

「ええ、あたしもそう思ったわ。同じしかられるんでも、そのほうがいいと思って。だから、あわてて来たんだけど、だめだったの」

「あら、それじゃマリーちゃんはまだ下着をつけたままなの?」

「ええ、そうよ、だから困ってるの」

「ねえ、マリー、あなたがここに来てからどれくらいたつの」

「そうねえ、お祈りが半分終わったくらいかしら?」

「それじゃ、こっちを向いてごらんなさい、あたしがやってあげるわ」

 ルイーズはマリーの下着のひもをほどいてやりました。

「どうしてこんなに堅く結えちゃったの」

と言いながらも、器用に指先を動かして、すばやくほどいてやりました。

「さあ早く行ってらっしゃい、まだまにあうわ」

 マリーは大急ぎで自分の部屋に下着を置きに戻りました。そして再び戻って来た時、ほとんど同時にとびらのカギが回って、ドアがほんの少し開きました。十分ぐらいのお祈りが終わって、これから院長先生のお話です。遅刻した生徒は、この間に静かに中にはいることを許されるのです。

 三人は音をたてないようにそっと中にはいると、いちばん後

第7回

ろの席に三人並んで腰をおろしました。

 院長先生の話を聞きながら、ルイーズは、きょうは少しばかりゆううつな日になりそうだな、と思っていました。フランソワの頭の中は、きのうのことや、これから起こることを考えて、今にも破裂してしまいそうでした。しまいには、ぼうっとして先生の話も聞こえないくらいでした。

 マリーちゃんは、片一方のことがしかられずにすんで、ちょっとほっとしていました。

 院長先生の話が終わると、再び短いお祈りがはじまります。そして最後は、賛美歌です。朝の礼拝のはじまりは、朝の礼拝の歌で始まります。しかし最後の歌は、毎日ちがう歌が歌われるのです。きょうはこの歌でした。

 

 一、しのべ、しのべ、世にありては なやむは神の、みむねなれば

 二、なやみ主の、子らを清め いたみは神の、民をきたう

歌い終わると生徒たちは、静かに礼拝堂から出て行きます。みんながそこを出て食堂にはいってしまってから、遅刻した生徒はそれぞれのクラスの先生に連れられて、自分の部屋に戻りました。マリーはハミルトン先生に連れられて、そしてフランソワとルイーズはクリスティ先生に連れられて、自分の部屋にはいったのでした。

「そこに立っていなさい!」

 そう言ってクリスティ先生は、部屋の中を見て回りました。まずルイーズのベッドに近づくと、カバーをさっとはね上げました。きれいになっていたようでしたが、中のシーツは乱れたままになっていました。ルイーズは下を向いてしまいました。そして、フランソワのベッドも同じように、いちばん上のカバ-だけがきちんとして、中は乱れたままになっていました。

「けさはだいぶあわてたようですね。どうしてなの? あなたがたがここに来てから、朝の礼拝に遅れたのははじめてですね。どういう理由か話しなさい!」

「きのう消燈してから、あたしとフランソワはお話をしていたのです、それで……」

「どのくらい話してたの?」

「かなり長く……話してたと思います」

「消燈後の私語は禁じられているばずです。あなたたちは、それを忘れてしまったの?」

「申し訳ございません……フランソワが……青キップにサインをもらって来ましたので、あたしがそのことをいろいろ聞いたりしたものですから。それで……」

「いいえ、先生、あたしが取り乱していたので……それで、ルイーズがなぐさめてくれたりして、それでおそくまで話をしてしまいました。あたしが悪いのです。先生、お許しください……」

「わかりました。とにかくふたりは消燈後に長々とオシャベリをしていて、けさの礼拝に遅れたのですね。それでは院長先生に報告に行きます。おまえたちはこの部屋から出てはいけませんよ、いいね」

[まず平手打ち20回]

 先生が出て行ってから、三十分も過ぎたころ、急に部屋の外がにぎやかになりました。

「みんなが帰って来たわ。いいわね、あの人たちは、きょうはお休みなのよ」

 それからさらに十分くらいすると、生徒たちはみんな森へ遊びに行ってしまったらしく再び静かになりました。コツ、コツ、と足音が聞こえ、とびらが開きました。

「わたしについていらっしゃい」

 ふたりはクリスティ先生について外に出ました。歩きはじめると、左側の廊下からハミルトン先生に連れられたマリーがやって来ました。先生がたはふたり並んで歩き、その後ろに三人の生徒がついて行きました。そして院長先生の部屋の前を通って、小会議室まで来て、中にはいりました。

 そこには、もう院長先生とマーブル先生がすわっていました。

「生徒を連れてまいりました」

 クリスティ先生がそう告げて、ハミルトン先生ともどもイスに腰をおろしました。

「三人は前に来なさい。マリー、フランソワ、ルイーズの三人ですね」

「はい、先生」

「ハミルトン先生、マリーの遅れた理由は、さきほどうかがったことにまちがいはないのですね」

「はい、院長先生、同室の生徒もそのように申しておりました」

「わかりました。フランソワとルイーズはクリスティ先生に話したとおり、まちがいはないのですね」

「はい先生」

「よろしい、それではハミルトン先生とクリスティ先生、お立ちください。わたしが指示いたします」

 先生がたが立ち上がると、院長先生もお立ちになって、

「両先生がたに命じます。朝の礼拝におくれた三人の生徒に、まず二十回ずつの平手打ちを与えるように。それからマリーには、身だしなみがきちんとできるように、きらに二十回。ただしこれは昼と夕方の礼拝のあとに十同ずつ与えなさい。それから、フランソワとルイーズ、消燈後の私語は堅く禁じられています、そのために遅刻などは諭外です。したがって、二十回ずつの笞打ちを命じます。マリーと同様、昼と夕方の礼拝のあとにこの場所で行ないます。笞は枝笞を使うように。三人ともきょうは部屋から出てはいけません。フランソワとルイーズには、きょうは水だけを与えるように。マリーも朝と昼は食事を与えないように。夕方にはパンと水を与えなさい。以上です」

「かしこまりました、院長先生。それでは、さっそく生徒たちに義務を果たさせるようにいたします」

 最初にマリーが、小会議場のまん中に引きずり出されました。ハミルトン先生は、自分のすわっていたイスを持って来ると、どっかと腰をすえ、ひざの上にマリーを横抱きにかかえました。

 制服のスソを高々とまくり上げると、マリーの丸まっちいお尻は、すっかりむき出しになってしまいました。

 ハミルトン先生の大きな手のひらが、ビシッ、ビシッと力いっぱいにたたきはじめました。二つの半球をかわるがわるたたくので、マリーは足を左右にけってなんとかのがれようとしましたが、ハミルトン先生の正確なお尻打ちから、のがれることはできませんでした。

 ようやく終わった時、マリーのお尻はちょうど十回ずつたたかれて、二つの半球は同じように赤くはれ上がっていました。院長先生は黙ってうなずくと、クリスティ先生のほうを向いて、

「では先生、次の生徒をお願いします」と言いました。

 ふたりの生徒は、キュッとからだを堅くし下を向いてしまいました。

聖女の行進 8

第8章 一日三回の大刑

[子供のようなお尻打ち]

 マリー・グローリーは大粒の涙を流してそこに立っていた。フランソワとルイーズのふたりは、当然罰の終わったマリーが外に出て行くと思った。しかし、ハミルトン先生は、

「さあ始めなさい」

と言わんばかりに、後方のイスにどっかと腰をおろした。そしてまん中のイスにはクリスティ先生が腰をおろしました。

「ぐずぐずしないで! 早くいらっしやい。ルイーズ、おまえからよ」

 ルイーズはしぶしぶ前に出ると院長先生に頭を下げた。

「ルイーズですね。ここに来てお祈りの時間におくれるということは、自分を見失うことです。そのためにおまえは、先生がたやわたしの前で懲らしめられるのです。小さな子供のように、クリスティ先生のおひざの上におまえの腰をのせて、たたいてもらえば少しは懲りるだろうからね、そのやり方は、おまえが犯した罪がどんなに子供っぽいばかな行為をしたか、ということです。わかりますね。さあ、たっぷりとたたいてもらうがいい、クリスティ先生、始めなさい」

「はい院長先生、承知しました。さあ、ルイーズ、わたしのひざの上においで」

 そしてルイーズは、院長先生の言いつけどおりクリスティ先生のひざの上に横たえられてしまいました、そして、容赦なく制服のすそがまくり上げられてしまいましたので、ルイーズのうしろ側はすっかりまる見えになってしまいました。その光景はおしおきというには、あまりにも甘く罪深い光景だったので院長先生は顔をしかめて、すぐに罰の執行を行なうようにうながしたほどです。

 クリスティ先生の思い切りスナップをきかせた平手打ちが、こんもりと盛り上がった丘の上でするどい音をひびかせました。最初の一打で、あの背中から、足のかかとまでゆるやかに、なやましく、流れていた曲線が乱れお尻打ちのおしおきをされて、泣きわめく、女の子のポーズになってしまいました。

 なやましい魅力はうせ、むしろこっけいであわれな光景です。一打ごとにたっぶり間をあけて、力強くたたきつづけていましたのでまだ半分も終わらないうちにルイーズのお尻はまっかに染まってしまいました。

「ルイーズ! そんなに動いてはだめ! あと半分ですよ。がまんなさい。それに、女の子は、そんなに足を開くものではなくてよ。なんですか、平手打ちぐらいで、みっともない。これ以上あばれると、手も足も結わいてしまいますよ」

「もうしません、先生もうけっしておしゃベりなんかしませんからもうやめて……とても痛いのです、先生、あーっ、先生……そんなに強くしないでくださいたいよ-」

 クリスティ先生が、そんな生徒のたわ言で力をゆるめたり、手かげんしないことは、ルイーズは百も承知していたのですが、そう叫ばずにはいられなかったのです。それにもかかわらず先生の手はますます力強さを加えていったのでした。 ビシッ! ビシリッ! と鳴るたびに臀肉がぶるんぶるんとふるえ、ルイーズは両手で頭をかかえるようにして苦痛をこらえていました。そしてこの破廉恥な刑罰は、正確に二十打の罰を加え終わりました。

 ルイーズは立たされると、マリー・グローリのわきにポーズを乱さないように立っていなさい、と言われました。そのために罰の終わったふたりの娘は肩をふるわせて泣いていました。

「フランソワ、前に出なさい。さあ先生にお願いして、たっぷりと懲らしめてもらうがいい。さあ、お始めください」

「はい、院長先生、わかりました。さあ、フランソワ、こっちへいらっしやい。一度にふたりとなると、ほんとうにどちらが罰を受けているのかわからなくなってしまいますわ。院長先生、ごらんください。わたしの右手を、ホラ、こんなに赤くなって、シビレてしまっていますのよ。こういう大きな娘を罰するのには、笞でも使いませんと、こちらのほうがまいってしまいますよ、ほんとうに」

「まあ、クリスティ先生、たいへんですね。でも、ひとりだけ笞で、というわけにもまいりませんし……どうでしょう、わたしがかわってやってさし上げましようか」

「いいえ、先生、それではあんまり……」

「いいですよ、かまいませんとも、さあ、そのイスをお立ちなさい、あなたはわたしのイスにすわって、いいですね」

「はい、院長先生、それではお願いいたします。なんだか申し訳ないですわ」

[院長先生みずから]

 ふたりは入れ代わり、そしてフランソワは院長先生のひざの上にのせられた。

「院長先生、もうしませんから、どうかお許しください」

「あなたが、そう思うのはいいことですよ。でも、罰は受けるのです、そうすればもっとよく覚えるだろうからね」

 制服のすそから細い足首とキッチリした編み上げ靴がのぞいていました。院長先生は静かにすそをたくし上げていったので、ふくらはぎや太ももが次第に出て来ました。すんなりした二本の足の終点は、フランソワにとっては悩みの種、そして院長先生にとっては魅カ的な攻撃目標だったのです。

 いつもはやさしく、もの静かな院長先生ですが、若いころはさんざんお尻打ちをされて来たので、若い娘たちを罰することにいささかの同情も加えることはありませんでした。思いきり力をこめてたたきはじめました。ピシリ! ピシリ! フランソワは腰をよじり肩をふるわせてうめきました。

 院長のイスにすわってじっとこの光景を見ていた、クリスティ先生は、心の中で

「まあまあ、ずいぶんお上品なこと、昔はずいぶんきびしい人で、前の僧院の人からの手紙ではとくにそのことにふれて、じゅうぶんご用心あそばせなぞと言って来たりしたが、なんといっても体力がこう衰えては、若い娘を罰することはできないわ。あんなことで、あの娘を思い知らせるわけにはいかないことよ。まあ、あとでたっぷり笞を食らわせてやりましょう」

 しかし、そうはいうものの、罰が終わった時、フランソワのお尻はじゆうぶんに赤くなっていました。そして目から涙をボロボロと流して後悔していました。

 三人の泣き顔がそろうと、院長先生は威儀を正して刑の終了を告げました、そして再び先生に連れられて、各自の部屋に戻りました。

[ひとときの休息]

 部屋にはいるとクリスティ先生は、罰はまだ終わっていないこと、きょう一日、院長先生の言いつけを守って、しっかり罰を受けること、そして、ベッドが乱れていたことを院長先生に話さなかったのは、そんなだらしのない生徒が自分のクラスにいるのを知られたくなかったからで、けっして罰を与えないわけではない。そのことは自分の権限で、あとで罰を与えるからじゅうぶん覚悟をしておくように。そう言いのこして部屋を出て行きました。

 ふたりは話をする元気もなく、泣き叫んだためすっかりのどがかわいてしまったので、きょう与えられた唯一の飲み物である水をのんで、静かにベッドにからだを横たえました。

「フランソワ、きのうのこと、ごめんなさいね」

「いいの、あたし、まだなんだか夢をみているみたいよ」

「そんなこといったって、お尻の痛いのは現実よ、きょう一日痛めつけられるのよ」

「そうね、まだひりひりするわ。それにあと二十回も笞打ちされるのね」

「それにしてもあなたはラッキーだったわ。院長先生のは、それほどじゃなかったもの」「でも、けっこうきいたわよ。それに笞打ちとなれば、同じことよ」

「そうね、でもそれより、ベッドのこと、いつやる気なのかしら、早くすませてくれればいいのに。きっと最後にするつもりよ。そうすればたとえ一打でもききめがちがうもの」

「あ-あ、ゆううつね。いまごろみんなは何をやってるのかしら、きっと、この間発見した泉のところに行ってるわ、そこでおべんとうを食べるんだわ」

「よしなさい、きよう一日は何も食べられないのよ。まあ静かに寝ているのがいちばんね」

 でもふたりの静かな休息はまたたくまに過ぎて、再び院長先生の前に引きずり出される時間になってしまいました。クリスティ先生がふたりを連れに来ました。

「さあ、ふたりともわたしについていらっしゃい」

「先生、おねがいです。その前にトイレに行せてください」

「いけません、ルイーズ。罰が終わったらオマルを持って来てあげます。それまでがまんなさい。もし罰の途中でそそうでもしたら許しませんよ、いいですねフランソワ」

[三人そろって体刑]

 院長先生のところにはもうマリー・グローリーが来ていました。三人がそろうと、すぐに刑の執行です。はじめにマリーの尻がマーブル先生のひざの上にのせられました。その丸い小さなお尻は、赤紫にはれ上がっていました。

 そっと指でふれてもピクッとからだをふるわせるそのお尻に、マーブル先生は容赦のない平手打ちを加えました。じゅうぶんに下地のできているお尻は、さいしょからマリーのからだをとび上がらせるのにじゅうぶんでした。

 ひいひいと泣きわめき、許しを願いましたが、十回のお尻打ちは完全に執行され、マリーは終わってからもお尻をかかえて泣きました。

 つづいて、クリスティ先生が立ち上がり枝笞を手にすると、ヒュウ! ヒュウ! と素振りをくれ、そしてルイーズの名まえを呼びました。ルイーズは前に出て、そして先生のさしずどおりイスに手をついて腰を高く上げました。もうすっかり慣れっこになってしまったポーズです。

 うしろに回ったクリスティ先生は、高々とすそをまくり上げました。はり切ったルイーズの尻に先生は枝笞を振り上げて、力いっぱい打ちおろしました。その枝笞はつい一時間ほど前に、先生がみずから裏庭に行って切り取って来たなまなましい木の枝でしたので、じゅうぶん水分をふくみ、しなやかにルイーズのお尻に食い込みました。

 五回めにルイーズは腰をおろしてしまったので、院長先生は、マーブル先生に押えつけるように命じました。マーブル先生はさっそくルイーズの腰を抱きかかえるようにしてもち上げました。ほとんどすきまのない十本の筋が、ルイーズのお尻の上に刻まれました。

 そして、フランソワのお尻にも同じように赤紫の筋が、はれたお尻の上にさらに盛り上がったのです。ふたりとも恥も外聞もなく泣きわめきました。

「お黙りなさい! ふたりともなんですか、これくらいのことで、きちんと立ちなさい。手をまっすぐにわきにつけて、背をのばして」

 フランソワは、痛みのためにのみ苦しんでいたのではありません。もう限界に来ていました。枝笞で一打されるごとに必死でこらえていたのです。いまにももらしてしまいそうで、でもようやくこらえたのです。

 でもこうしてじっと立っていると、からだがぶるぶるとふるえて来るのです。そして並んで部屋を出て行きました。トイレの前を通る時、フランソワは駆けだして行きたい気持ちを押えるのがせいいっぱいです。クリスティ先生はどんどん歩いていってしまいます。「先生、おねがいです。トイレに行かせてください……もうがまんできません」

「そうでしたね、ルイーズ、あれを持っていらっしやい」

[部屋の中での排泄]

 ルイーズがオマルを持って来ると、再び歩き出しました。そして部屋にふたりを入れると、バタンと音をたててとびらをしめ、そして外からカギをかけてしまいました。

「さあ、フランソワ、これを使いなさい」

「いやだわ、そんなの……ああ苦しい……」

「さあ、早くしなさい。あなただけじゃないのよ、あたしだって……」

「まあ、そうだったの、少しも気がつかなかったわ。でも、やっぱり恥ずかしいわ、こんなところで……」

「ねえ、早くしなさいよ。先生の前でしたんでしょ。あたしだって……がまんできないわ」

「じゃあ、ルイーズ……あなた先にすれば」

「いいの、それじゃ先にするわよ」

 ルイーズはそう言うと、クルッと後ろ向きになって、フランソワに背を向けると、すそをまくり、腰をおろしてそして……、大きな音をたてていました。

 その音を聞いていると、フランソワは目が回るようでした。恥ずかしさのあまり忘れていたものが、勢いよくよみがえって来ました。手をにぎりしめて、そっちのほうを見ないようにしていました。

「まだなの、ルイーズ、早くして」

「だから言ったじゃない。それよか、ねえあれとってよ。あわてたんで忘れちやったわ」

「何?」

「あれよ、机の上にあるでしょ……紙よ」

 ルイーズは顔を赤らめて立ち上がりました。フランソワもこんどはためらいもなくすそをまくって、オマルにまたがりました。

[空腹にスープのにおい]

 ふーっと大きなため息をついて立ち上がりました。そして、オマルをイスの下に入れると、ぐったりとベッドに横になりました。やっと苦しさから解放されたと思ったら、こんどは空腹がおそって来ました。目をつぶると食べ物のことばかり考えてしまいます。

 食堂のほうからはおいしそうなスープのにおいが流れて来ます。たった一度か二度食事をぬくのが、こんなにもみじめでつらいものとは知りませんでした。一片のパンのためなら、どんなことでもしてしまいそうです。屠殺場に引かれてゆくブタだって、食べ物だけはうんと与えられるのに……。

 ルイーズのほうを見ると、顔をしかめながら自分でお尻に油をぬっていました。

「ルイーズ、痛いでしょう、平気なの」

「平気じゃないわよ、でもしょうがないでしょ、あと一回おしおきが残ってるのよ。このままにしておくわけにはいかないじゃない。あたしが終わったら、あなたもやってあげるわ」

 そして痛がるフランソワを押えつけるようにして、ルイーズは油をつけてやりました。しかし、ルイーズもさすがに疲れたようで、ふらふらしていました。長い一日もようやく暮れようとしています。

 外がさわがしくなり、生徒たちが外から戻ったようです。

 夕方の礼拝に出るために身じたくを正し、そして礼拝堂のほうに行きました。三人の哀れな娘たちにも礼拝は例外ではありません。いちばんあとからふうふうとついてゆきました。そしてお祈りです。終わると生徒たちは食堂へ。そしてマリー・グローリーもいそいそとついてゆきました。

 うらやましそうに見送るフランソワとルイーズは、再び自分の部屋にとじこめられてしまいました。むだと知りつつ、フランソワはクリスティ先生に頼んでみましたが、もちろん許されるはずはありませんでした。

 それから一時間は、まさにつらい刑罰でした。今、あの人たちは何を食べているんだろう。たっぷりとバタのしみたポテトかしら、それとも平目のソテー、スペイン風のからいドレッシングのかかったサラダかしら、考えれば考えるほど気が狂いそうです。

 その時、とびらが開いて、クリスティ先生がはいって来ました。

「さあ、あと一回ですよ、しっかりなさい」

[思いがけずパンの包み]

 外に出ると、ちょうど反省会が終わってみんなが帰って来ました。ふたりは恥ずかしさで首をうなだれてついてゆきました。三度めのおしおきはひどいものでした。マリーちゃんはそれでもパンをたべたので少し元気でした。それでもさすがに最後の十打はこたえたらしく、足をぱたぱたさせていました。なにしろ、きょう一日で四十回の平手打ちをあの小さなお尻に受けたのですから、無理もありません。

 つづいてルイーズが、前と同じようにポーズを取ると、院長先生が立ち上がって来てすそをまくりました。そして鼻をつけるようにしてのぞきこみました。

「フランソワ、おまえはこっちに来てお尻をお出し」

 フランソワは、ルイーズと並んで同じようなポーズを取りました。院長はじゅうぶんにしらべて、

「実に正確です。でもクリスティ先生、この次の十回は筋の間に打ち込むように」

「心得ております、院長様、おまかせください。けっして血を流すようなことはいたしません」

「よろしい、それでは始めなさい。フランソワは元の位置に戻って」

 再び笞がうなり、かすれた悲鳴が部屋の中にこだましました。終わった時は声も出ないくらいでした。

 フランソワの時もそうでした。どこにそれだけの体力が残っているのかと思うくらい、あばれて、しまいにはハミルトン先生にイスの上に押えつけられて刑を終わりました。

 フランソワはボウっとして立っているのがやっとでした。ただお尻が焼けるように痛く自分の部屋にたどりつくまでは、どうやって歩いて来たかおぼえていないくらいでした。そして、しばらくしてからふたりは机の上に紙包みがあるのに気がつきました。

「フランソワ、これ、何かしら?」

「なんでもいいわ、それよりもお尻が痛くて」

「じゃ、あけて見るわ、……フランソワ、見て! パンよ」

 フランソワは、〇・ニ秒で机の前に到着しました。

「どうしたのかしら、これ……待って、ここに小さな字が書いてあるわ、ええと……早く食べなさい。紙はすぐに捨てなさい、アデール。まあ、アデールからよ、うれしいわ、さあ早く食べましょう」

「待って、まず紙の始末よ。小さくまるめてええと……そう、この中に入れてしまいま

第8回

しょう」

 ルイーズはイスの下の壷の中に神をポイと投げ入れました。そしてふたりそろって大きな口をあけ、ガブリと一口かみついた時、大きくとびらが開きました。開いただけではなく、そこにはクリスティ先生が立っていたのです。

 何も説明する必要はありません。問題はどこから手に入れたか、ということだけです。

「もう一度聞きます、だれにもらったのですか」

「ここに置いてあったのです。あたしたちが帰って来たら、ここに、机の上に、あったんです」

「それで、だれが持って来たかわかりませんか。隠したりすると、どんなことになるかわかってますね。もちろん、ほかの生徒をしらべます。しかし、それで犯人が出なければ、これは、おまえたちが盗んだことになるのですよ。そうすれば、きょうくらいのおしおきではすみませんよ。裸にしてからだじゅう皮鞭でたたかれるのですよ、いいんだね」

 ルイーズにはそれがクリスティ先生のオドカシだとわかりましたが、ついさっきあんなにたたかれたので、フランソワはすっかりまにうけて、うわごとのようにアデールの名まえを口にしてしまいました。

「そう、アデールですね、さっそく呼んで問いただしてみましょう」

[グリーンランド打ち]

 いったん外へ出たクリスティ先生は、アデールを連れて戻って来ました。アデールは部屋の中の光景を見ると、すぐに察しがついたようです。

「アデール、あなたですね」

「はい、先生」

 アデールは隠してもむだなことを知っていました。かえって、すなおに言ったほうがいいのです。それですぐに認めたのでした。

「おまえは、このふたりが罰を受けているのを知っていましたね。それなのに、なぜこのようなことをしたのですか。同情がふたりのためにならないことくらい、おまえはじゅうぶん承知のはずじゃないの、言い訳は聞きたくありません。罰ですよ。わたしの部屋の机に笞が置いてあります。持っていらっしゃい。大急ぎで!」

 アデールは走って行きました。自分を打つ笞をとりに。息をはずませて、すぐに笞を持って戻って来ました。

「よろしい、それではイスの上に手をついて用意しなさい」

 壁ぎわに置いてあったイスを、アデールはみずから部屋の中央に据え、適当な間隔を取ってそのイスと向かい合い、そして軽く足を開くと、大きく深呼吸を一つしました。

 その時、チラッと後ろに立っている先生のほうに哀願のまなざしを送りましたが、すぐに腰を深々と曲げて、しっかりとイスに両手でつかまりました。頭は両腕の間から下にさげているので、その表情まではうかがうことはできませんでしたが、アデールの一つ一つの動作は、すっかり慣れ切って、一つのむだもありませんでした。

 クリスティ先生は、笞の先でアデールの制服のすそを引っかけ、ずるっと背中の上まではね上げてしまいました。大急ぎで笞を取りに行って来たので、アデールのお尻は上気していました。血色のよい、つややかなお尻はクリスティ先生のきびしい笞を受けるために最もつごうのよい形で空中に突き出ています。 そして、ヒュン! ヒュン! と二、三度笞を素振りにするたびに、お尻はちぢみ上がり、血のけはうせてゆきます。

 アデールは五回たたかれました。先生は、いささかも手ごころを加えはしませんでしたが、フランソワとルイーズは、アデールがグリーンランド打ちをされたので、少しホッとしました。

 グリーンランド打ちというのは、ここの生徒たちの間だけで通用することばで、つまりお尻を地球に見立てれば、つまり上のほうだけを打たれるのを、そう呼んでいました。反対に、下のほうを打たれる時を、オーストラリア打ちなどと言っておりました。つまり、同じ五回でも、上と下(背中に近いほうと足に近いほう)ではたいへんな差があるわけです。

 下のほうをたたかれればイスにすわるたびにとび上がらなければならないからです。普通は上とか下にかたよった打ち方はしませんが、きょうのアデールのようにすなおな態度で罰を受ければ、クリスティ先生といえどもちょっぴり手かげんしてくれるというものです。

[お預けの笞はいつ?]

 アデールを自分の部屋に帰してから、クリスティ先生は、ふたりに向かって長々とお説教をしました。

 そして、ベツドのことでは当然罰を与えなくてはならない。そして、パンを食べたことではおまえたちふたりに青キップを上げなければならない。

 しかし、きょうは、そのどちらも行なうには不適当と認めるので、いずれ体力が回復しだいに行なうからそのつもりでいなさい。きょうはもう休んでよろしい。

 そう言って部屋を出て行きました。もちろんその時パンを持ってゆくのをわすれはしませんでした。

 ふたりはおなかをすかしたネコのように、じっとそのパンを見送っていました。そしてほとんど同時に、ふたりは、ベッドにたおれるように横になりました。

 クリスティ先生は、ほんとうはあのふたりのお尻に、もう一度平手打ちをしてやろうと思って来たのですが、思わぬことでアデールをたたくことになり、その結果、あのふたりのはれ上がったお尻をたたくのがいやになってしまったのです。

 ふらふらになった娘をたたくより、少々抵抗する娘をつかまえてたたいてやったほうが気持ちがいいので、いつでも自分の好きな時にたたける権利を残しておいたほうがよいと思ったからです。

 自分の机の前にすわって、クリスティ先生は考えていました。

 あのふたりは、あと二、三日イスにすわるのもつらいだろう。

 それからしばらくは、かゆくなって来るものだ。そして古い皮がボロボロとむけて、一週間もすると、すべすべとした新しい肌になる。まあ、それまでは待つことにして上げましょう。

聖女の行進 9

第9章 打たれたい娘・打ちたい娘

[森の中の秘密の話]

 マロニエの葉も落ちて、外には冷たい風が吹きはじめていた。暗くどんよりとした空、そんな陰気な毎日だったが、フランソワとルイーズのふたりは元気に過ごしていた。一日たてば、それだけこのパンテモンから出て行く日が近づくのだから。

 このところ毎日、タ方の自由時間にはその話でもちきりだった。そんな時はいつもアデールがいっしょにいて、自分もできればそうしてもらうように父親に話すんだと言った。

「なにしろ、あたしは三年もいるんですからね」

 そういっては苦笑いをしていた。そして、もし許されれば、こんどは外で自由に三人が楽しめるのだから、とも言つた。

 その話になると、ルイーズが変な顔をするのだ、アデールはいつも不思議に思った。しかし、ルイーズがフランソワの家の召使いだということは、まだ誰にも知られてはいなかった。ふたりはいつも、アデールにだけはいつか話をしようと言っていたが、つい切り出せないままに過ぎてしまった。

 きょう三人は、休みを利用して裏の森にはいった。こんなに寒くなってからは、めったに森に来る生徒はいなかった。しかし三人は寒さよりも三人だけで話し合える所に行きたかったのです。

「あと二カ月足らずね。いいわね、ほんとうにあたしのこと連絡してね、頼んだわよ。父は手紙もくれないし、こっちから連絡もできないし、ほっとけばいつまでも入れておくつもりよ、こんな所でおばあちゃんになるのいやよ」

「だいじょうぶ、まかしときなさい、あたしのママに頼んでもらうわ。ぜったいに出られるようにしてあげるわ。ねえ、ルイーズ、ママならだいじょうぶよね、そう思うでしょ」

「えっ、ええ、もちろんそうね、きっとだいじょうぶよ……奥様なら……」

「えっ、なんですって、ルイーズ、なんて言ったの?」

「いいえ、なんでもないの……つまり……フランソワのママならだいじょうぶってこと……」

「ねえ、ルイーズ……話しちゃいましょうよ。アデールならぜったいだいじょうぶ……ね、話してしまいましょうよ」

「そうね」

「なんなの、聞かせて、あたしのことならだいじょうぶよ。誓って秘密は守るわ」

「実はね、アデール……驚かないでね、ルイーズは……あたしの家の召使いなの」

「えっ、なんですって。それ、ほんとうなの」

「ええそうよ、あたしは召使いなの。もう五年も勤めてるのよ。フランソワとは年が近いからずっとあたしが世話をしてたのよ。それでここに来る時もあたしがついて来たの」

「なんで?」

「だって、この人ひとりじゃ何もできないのよ。部屋のそうじやベッド・メーキングやなにか。このごろやっとじょうずにできるようになったのよ。だから、そんなことを助けるためにね」

「まあ、おどろいた。それじゃ、ずっとルイーズがフランソワの分もやってたの。今までよく見つからなかったわね。言われてみればずいぶんおかしなこともあったわね。それにベッド・メーキングやおそうじのしかたはじょうずにできるようになるまであたしだってたたかれながら覚えたのよ、ずいぶんつらかったわ。それなのにあなたたち、一度もしかられなかったものね。そのはずだわ、ルイーズはその方面のエキスパートってわけね。それにしても、ずいぶんたいへんな仕事を引き受けたものね」

「まあ、召使いなんてどこにいたって笞はついてまわるものよ。だから引き受けたんだけど、ここのはちよっとひどかったわ。でも、後悔したってはじまらないでしょ。それにね、あたしフランソワがお尻をまくられてたたかれて泣きベソになるのが見たかったの。この人、家ではほんとうに生意気だったのよ、少しも言うこときかないわがまま娘だったんですもの」

「でもこのごろはだいぶ良い娘になったんじゃなくって、ルイーズ。それでも家に帰ったらまた元に戻っちゃうかしら」

「そうしたらあたし、奥様に言いつけちゃうわ。そうすれば今度こそ奥様もたたくでしょうからね」

「まあ、ルイーズ、あなたそんなことまで考えてたの、ひどい人」

「ルイーズには弱いところつかまれちゃったから、お家に帰っても前と同じにはいきそうもないわね。でも、ルイーズのおかげでだいぶ助かったんだから、しかたないわね」

「そうね、ほんとうにあたし、ルイーズとアデールには感謝しなければね」

「まあ、急におとなしくなったわ……」

 三人は声をたてて笑いました。

[お仕置きがほしい時]

 若い娘のオシャベリに種切れということはありません。次から次へと新しい生活のこと楽しい夢のようなお話や、通り過ぎて来た、これまでの生活のことなど、そして最後にはきまって、おしおきのことに話が戻ってしまいます。とりわけ、ふたりが一日じゅう罰を受けた時のこと、そのためにアデールまで罰を受けた時のことは、そのために三人がいっそう親しくなったので、よく話し合ったものです。

 ほんとうにあの時のパンの味は忘れられないわ、おそらく一生忘れないんじゃないかしら。たった一口食べただけなのに」

「あたしは味わってるひまなんてなかった。急に先生がはいって来たんですもの。あわてて飲みこんじゃった。それにしても驚いたわ。あの時はどうなることかと思ってね。じっと立っていてもからだがぶるぶるふるえちゃって、背中にすうっと汗が流れて、だからフランソワがアデールの名まえを口にした時も、その時は先生のオドかしに乗せられたな、なんて思ったけど、いま考えると、あの時、フランソワが言わなければあたしがしゃべってたも知れないわ」

「ほんとうにこわかったのよね、ルイーズ、だからぜったいに言うまいと思ってたんだけど、ついしゃべっちやったの……ごめんなさいね。アデール」

「もういいわよ。そのことは何度も話したでしょ、あたしがよけいなことをしたのがかえっていけなかったのよ、あたしがかってにやったことなんだから、そのためにあなたたちだっていやな思いをしたんじゃない、おあいこよ」

「そう言ってもらえると助かるわ。それに、あの時のあなたの態度はりっぱだったわ、ねえ、ルイーズ、そう思うでしょ」

「ええ、ほんとうに。あたしだってああしたほうがとくなくらいわかってるわ。でもね、いざとなると、なかなかああはいかないわ。ついもたもたして、かえって数をふやされたり、オーストラリア打ちをされたり……ほんとうに格好よかったわよ」

「いやあね、三年もいたんですもの、いいかげん要領よくなるものよ。それにねえ……やっぱりよすわ……」

「なんなの、言いかけてやめるなんて、あなたらしくないわよ」

「だって、話したら、あなたたち、あたしのこときらいになっちゃうかも知れないもの……」

「そんなことないわ、話してよ。どんなこと、何かたいへんなことらしいわね。でも、話してよ、そのことであなたのことをきらいになるなんてことはないと思うわ」

「ほんとうかな? でもいいわ、それがほんとうのあたしなんだから、たとえ理解されなくても、それはあたしの責任ですものね。自分を偽って友人でいるよりはいいかも知れないわね」

「なんだか、とてもむずかしそうな話ね。でも話してみて」

「それじゃあ話すわ。あたしね、三年もここにいるでしょ。だから、さっきも言ったように、だいぶ要領もよくなったし、お勉強のほうだって、もうここでやってることはほとんどなんでもわかってるの。だから、最近は、めったにたたかれるようなへまはしないでしょ。あなたがたからみたら、きっとうらやましいでしょうね……」

「そうですとも、あたしだって、フランソワだって、あなたの倍はたたかれてるわよ。どうしてあなたはあんなにじょうずにやれるのか、いつも部屋に戻ってから話し合ってるのよ」

「そうね、そう思うのが普通でしょうね。でも、あたしはちょっとちがうの……うまく話せないけど……たとえば、一週間以上も罰を受けないでいる時があるでしょ、あたしの場合は……。反省会でも、まあ手のひらくらいはたたかれたとしても、本格的な罰は受けずにすむことがあるでしょ、そんな時、夜ひとりでベッドにはいってから、こう……なんて言ったらいいのかしら……つまり……誰かにピシャンてやってもらいたくなる時があるの……それで次の日も何もなかったりするとね反省会の時にわざとへんなこと言って……つまり……罰を受けなければならないようなことをね……それでわざとお尻打ちされるようにするの、へんでしょ」

「…………」

「やっぱり話さなければよかったわ。あたしのこときらいになったでしょ、あたしって、へんよね。でもほんとうなんですもの……」

「アデール、ほんとうのこと言うと、あたし驚いたわ。だってあたしたち、あれがきらいなんですもの。だからわざとそんなことするなんて考えられないのよ……でもねえ、アデール、それにルイーズもきいてちょうだい、あたし、いつだったか忘れたけど、あたしひとりがクリスティ先生のお部屋に連れて行かれてね……もちろん折檻するためによ。それであたしはきっといつもの調子でビシビシやられるのだろうと思っていたの。ところが、おひざの上にいらっしやい、なんて言ってね、あたしをひざの上にのせて平手打ちをはじめたの。その時のたたきかたがいつもとだいぶちがって、とても軽い打ち方だったわ。そのかわりとてもたくさんたたいたから痛いことにはちがいなかったんだけど、それよりも……なんだかとてもへんな気持ちがして、許されてお部屋に帰る途中で、あんなおしおきならもう一度されてみたいなあ、なんて考えたことがあったわ。だから、アデールの気持ちもわからないではないけど……笞はいやだなあ……」

「そういうことなら、あたしにも話があるのよ」

 こんどはルイーズが話しはじめた。

[たたく側だったら]

「ふたりのとはちょっとちがうかも知れないけど、あたしね、誰か、あたし以外の人でたたかれてるの見てると、なんともいえないの。胸がキュッとしめつけられるようになって。だから、さっきも言ったでしょ、あたしがフランソワについて来たのも、一度でいいからこの人がお尻をまくられてビシビシたたかれてるところを見てやりたかったからなの……おこらないでね、フランソワ……でも、それが本音よ。子供の時からそうだったの。あたしの家のほうはいなかでしょ。どこの家でもお父さんやお母さんが、娘でもむすこでもみんな笞でたたくのよ。それも、いいかげん大きくなった娘をひっつかまえてね。

 あたしは、子供のころ、ちびだったものだから、それにおてんばのわりには近所の人の手伝いをよくやったので、どこの家にでも出はいり自由だったのよ。表からでも裏からでもね。そのなかには、かなりお金持ちの家もあったのよ。といったところで、それはあたしの家と比べてというくらいのことで、アデールやフランソワのお家なんかとは比べものにならないけど。それでも、あのへんじゃあお金持ちで通ってたのよ。子供のころあたしは、こづかいかせぎに、よくそういう家の手伝いをしに行ったの。けっして、たくさんはくれないけど、でも、何か仕事をすればいくらかにはなったものよ。

 そんな家の一つに、クリーブランドさんという家があったの。お父さんはモーティマ・クリーブランドという人で、五十歳ぐらいだったかしら。馬車の飾り職人で、まあ、あのへんでは、ちょっと、名が売れた人だったのよ。なんでも、たいへん苦労して、一代で今の地位を築いたとかで……とにかく仕事熱心で、家に帰ってからも仕事をしていたわ。自分の家にも仕事場を持っていてね。それで、あたしは、その仕事場のおそうじなんか、よくやったものなの。あたしにしてみれば、おこづかいをもらえるんだから、いっしょうけんめいやったわ。だから、とても気に入られちゃって。

 それで、その家には奥様のほかに、ふたりの娘がいたのよ。年はあたしよかずうっと上で、姉のシャーロットが十八ぐらいで、妹のフレンチが、そうすると十五か六ぐらいね。それは、あたしが九歳ぐらいの時で、いちばんあの家に通っていたころのことよ。ふたりともかなり美人でね、ちゃんと学校にも行っていたの。そのかわり、家のおそうじや跡かたづけは、みんなお母様まかせで、ろくに手伝いもしないのよ。それで何か言われると、お勉強しないと先生にしかられちゃうの、あたしがしかられたらいやでしょ、ママ、なんて言ってね。お母様はとてもいい人だったけど無学でね、娘にそう言われると、何も言えなくなっちゃうのよ。そして、娘たちは自分の部屋にはいって遊んでるの。そこの家の両親だって、けっしてふたりを甘やかしたりはしなかったけど、こと学校のことになると、ふたりとも、行ったことがなかったので、つい大目にみていたのね。

 だけど、そのほかのことで、あのふたりがしかられているのを、あたしは何度も見て知っていたのよ。お台所でお皿をこわしただけでも笞で折檻するくらいですからね。でも、あの人たちは、とてもきれいなドロワースをはいていて、あたしはとてもうらやましかったわ。笞は、ここで使ってるものよりうんと細いやつで、たいしたことはないけど、それでも、ピシッ! ピシッ! ていい音がしたわ。あのへんでは、娘が何かそそうをしでかした時に笞でお尻を懲らしめるくらいはどこの家でもやっていたから、別段あたしがいようといまいと、関係ないの。たまに、姉のシャーロットのほうなんかが罰を受ける時に、あたしがいたりすると、〈おチビ! あっちに行きなさい〉 なんて言うけど、お母さんのほうは平気でね、かえって、あたしに、〈おチビさん、おばさんがお姉ちゃんをたたいてやるからね。おばさんのいうことをきかないと、こういうめにあうんだよ、よくみておおき〉

 なんて言って、シャーロットをテーブルの上に押えつけて、スカートをまくり上げて笞でたたくのよ。あの娘がキイキイ悲鳴をあげるのを、何度も見たわ。ふだん、とても生意気な娘だから、そんな時とてもいい気味だと思ってね。それである時、わざと告げ口してやったの。それもパパのほうにね。ふたりは台所の仕事をさぼって二階の部屋でカードをやって遊んでるってね。

 そうしたらすぐにクリ一ブランドさんは立ち上がって仕事場を出て行ったわ。もちろんあたしもあとをつけて行ったのよ。そうしたら、まず台所に行ってのぞいてるの。そして奥さんに、どうして娘たちに手伝わせないんだって聞いてたわ。そうしたら、学校のことをやってるからきょうはいいって言ったんですよ、って。それで足音をしのばせて二階に行ったと思ったら、娘の部屋のドアを急にあけてね、あたしは二階には行かなかったのではっきりはわからないけど、たぶん、あたしの言ったとおりだったんだわ。その証拠に、ふたりの娘が階下におりて来て、もちろんその後ろには、おっかない顔をしたクリーブランドさんがいてね。

 あたしはカーテンのかげに隠れて見ていたの。台所から奥様も出て来て、ひとしきりクリーブランドさんは大声でしかっていたわ。そして、ついに最後の決定を下したの。〈マーサ、笞を持って来い。きょうはわしがこのふたりを打ってやる。もし、それがいやなら、あしたから学校には行かせない。そして、わしの仕事場で使ってやるが、どうだ。おまえたちのようななまけ者には、そのほうがいいかも知れんな、どうだ〉ってね。

 ふたりの娘はすっかりおびえて泣きべそをかいていたけど、仕事場なんかにやられてはたまらないから、〈パパ! 許して、ごめんなさい、二度ともうしません〉

 なんて、決まり文句を並べたてていたわ。それでも、おしおきまではのがれられないと思っていたのか、わりあいすなおに、シャーロットのほうから先にパパの前に行ったわ。そしたら、耳をね、耳を引っぱったの。ぐいっと下のほうにね。だから、おじぎをしたような格好になって。クリーブランドさんはすかさず耳をはなすと、その手をシャーロットの腰に巻いてしめつけたの。太い腕の中でシャーロットはバタバタあばれてね。〈パパー、いやよ! おとなしくするから、こんなふうにしないで。これじゃあ、まるで子供みたいじゃない。いやよ、恥ずかしいわ。イスか机のところでちゃんとするから、ね、お願い。そうして!〉

〈何が恥ずかしい! 何が子供みたいだ!  親をだまして家の仕事もろくにできんようなやつは、子供と同じじゃあないか。おまえに少しでも恥ずかしいなどという資格があると思っとるのか。さあ、尻を出せ。昔のようにきょうね父さんがおまえたちの曲がった性根をたたき直してやる!〉

 そう言ってね、スカートをまくり上げたんだけど、子供の時のようにお尻は出てこなかったわけよ。それでまたイライラして、〈なんだ、こんなものをはきやがって。こんなものは、ちゃんとしたレディーの着るもんだ。おまえたちのような子供にはまだ必要ない! マーサ、脱がせてしまえ〉

 その時のシャーロットの顔は、向こう側に隠れていて見えなかったけど、妹のフレンチの顔が耳のつけ根までまっかになって、おそらくシャーロットもそうだったでしようよ。

 マーサが近づいて、ドロワースのひもをほどきにかかると、ものすごくあばれてね、別にわざとじゃなかったんだけど、その結果、お母さんの足をけっとぱしちゃったの。それまでは比較的、娘に同情的だったマーサも、急に態度を硬化させて、冷酷にドロワースを引きおろし、それをすっかり足からぬいてしまったの。もうこれで、シャーロットの腰から下には室内ばき以外何もつけてないわけよ。

 用意ができると、クリーブランドさんは、平手打ちをはじめたの。何十年も金物細工のためにいろんな道具やフィゴを押しつづけて来た彼の手のひらは、まるで岩のように堅く大きいのよ。あたしも一度だけ彼にたたかれたことがあったからよく覚えてる

第9回

の。でも、その時はそんなに力いっぱいたたいたわけじゃないと思うわ。それでも、あたしの知るかぎり、いちばん強い平手打ちね。そのかれが本気でたたいたんだから、たいてい察しがつくでしょ。シャーロットはキチガイみたいに泣きわめいてたわ。そして、平手打ちのあとで笞を使ったの。

 あたしはカーテンの陰でからだがふるえるのを止めることができなかったわ。そのくせ何一つ見のがすまいと思って、大きく目を開いてもいたの。そして、妹のフレンチの時も……。

 あたしは今でも、その時のことをきのうのことのように、よく覚えているわ。あのふたりの娘の丸くて大きなお尻のことも、その時のあたしには、とても大きく思えたんですもの。あたしたちのような年ごろの娘で、お尻打ちをされるなんて、はずかしいことよね。でも……あたしは、誰かがそうされているのを見るのが好きなんじゃないかしら……きっとそうなのよ。それで……もし、あたしがたたくほうの側だったら……なんて考えると、からだがぞくぞくっとしちゃうの。なんだか

目まいがするような気持ち、そんなことないあなたたち?」

[求める者と与える者]

「ルイーズの言うこともわかるような気がするな。あたしがいつかハミルトン先生のところの娘だったかしら、たたいてやるっておどかした時も、なんだかそんな気がしていたんじゃないかしらって思ったのよ。でも、きょうはずいぶんへんな話をしちゃったわね。アデールはたたいてもらいたいなんて言いだすし、ルイーズはたたいてやりたいなんていうし……」

 フランソワは、そのあとのことばをのみこんだ。この時三人の頭には同じ考えがうかんでいただろう。1+1=2、いや、これ以上に、もっと簡単な方程式かもしれない。求める者と与える者、そして、それを半ば肯定する者、ここにはその三人しかいないのだ。でも、だれもそのことを口にはしなかったし、またその必要もなかった。この特種な世界の中で、かってな行動が許されないことぐらい百も承知していたから。

 それでも互いに心の中までさらけ出してしまったことで、無言のうちにもまた一つ、この三人の中に強いきずなが生まれたことはいうまでもない。そして、さらにフランソワの頭の中には、ここでの生活を終えた後、つまり家に帰ってからのことを考えはじめていたこともつけ加えておかなければならないだろう。その考えはだんだん大きく広がっていったようだ。

 いままで黙っていた三人の中から、急にフランソワが立ち上がって、

「アデール、あなたのことはあたしにまかせて。きっとここから出して上げるわ」

「ええ、ありがとう……でも、急にどうしたの、フランソワ。驚かさないでよ……」

「アデール、あなたは、あたしのほんとうの友人よ。だから、ここの外でもときどき会えるようにしたいの。絶対にそうするわ。ルイーズもきっと手伝ってくれるわ。ね、そうでしょ」

「ええ、もちろんよ。アデールといっしょなら、きっと楽しいでしょうね。あともう少しのしんぼうよ。がんばりましょうね。さあ、そろそろ腰を上げないと時間に遅れてしまうわ。そうするとまた、いやなおしおきされるのよ、さあ行きましょう……あら、いやじゃない人もいたんだっけ?」

「バカね! ルイーズ、あたしのことをそんなふうに言うなんて、ひどいわ。あたしだってなにも……」

「ごめん、ごめん。そんなふうに言うつもりじゃなかったんだけど、つい口がすべっちゃったのよ、ごめんね」

「いいわ。でも、今度だけよ。もう一度しゃべったら承知しないからね」

「わかったわ、アデール。でも、もう時間だから、行きましょうね。ほんとうよ。もうすぐ鐘が鳴りはじめるわ」

 三人の娘はいそいで戻って行った。その道には、木の葉が積もり、その葉もすっかり枯れて、走る足の下でカサコソと音をたてていた。

聖女の行進 10

第10章 最後の仕上げ

[一波乱ありそう]

 院長先生はめがねを手に持ち、もう一方の手には手紙を持ってすわっていた。フランソワとルイーズのふたりの前に、クリスティ先生も同席していた。

「これは、フランソワの伯父様からのお手紙です。予定どおり、期日にはおまえたちふたりを迎えに来るそうですよ。どお、うれしいですか?」

「はい、先生」

「正直ですね、フランソワ。まあいいでしょう。さて、そうすると、正確なところ、きょうを入れてあと十二日ですね。十三日めの朝には伯父様が迎えに来てくれるでしょう。しかし、それまでは、今までどおりにやるのですよ。けっして、いいかげんなことをしないように。いいですね。そのほか細かい注意はクリスティ先生からお聞きなさい。先生、どうぞ」

「フランソワ、それにルイーズ。よくお聞きなさい。わたしは、ふたりがここでの教課をすべて終えたとは思えません。せめて、あと一年ここにいればと思いますが、ご両親や後見のかたがそのようにしたいと言って来たので、しかたありません。まあ、それでも、少なくともこの一年で、従順な娘にだけはなったと思います。ここを出てからも、その気持ちを忘れずにいれば、みずからの才能を伸ばすこともできるでしょう。とりあえず、わたしは、残されたわずかな日数で、おまえたちふたりに最後の仕上げをしなければなりません。院長先生は十二日とおっしゃいましたが、ほんとうはあと五日しかありません、それは、ここのならわしで、最後の一週間は体罰を行なわないことになっているからです。しかし、それは、ご両親などに対し、なるべく罰を受けた跡をお見せしないようにという、院長の心づかいからで、そのことを忘れて不従順な態度をしたり、なまけたりすれば、わたしはいくらでも罰を与えますよ。笞で打つかわりに、からだに傷のつかない方法で罰することもできるのですからね。きょうからふたりをとくに注意していますよ、いいですね。今から最後の仕上げをしてあげます、ここに残る生徒のためにも、よい手本を示すようになさね。わかったらお部屋に戻ってよろしい。午後の授業まであと十五分ですよ」

 ふたりは廊下に出ると顔を見合わせて、思わず〃フーッ〃とため息をつきました。

「一波乱ありそうだぞ-、こりゃあ」

「ルイーズったら、ふざけてる場合じゃないわよ。この調子だとなにをされるかわかったもんじゃないわ。お台所に行ってラードをすこし余分にもらって来たほうがいいわ、もう少ししかないわよ。ああ……どうしょう、ねえ、ルイーズ、あなたも少しは心配なさいよ」

「心配したってしょうがないわ、まあせいぜい身だしなみに気をつけるくらいしかできないわよ。ところで……と、あら、ほんとう、もう底のほうに少ししかないわ、この前もらって来たのいつだったかしら……まだ二週間たってないわよ、こんどはフランソワ行ってらっしゃいよ、お台所にいる尼さんたち、これをもらいに行くとみんなで冷やかすのよ、とても恥ずかしいわ、いつもあたしが行くんですもの、最後の一回くらいフランソワ行ってよ」

「あら、そんなことすこしも知らなかった。あなた、ちっともそんなこと言わないんですもの、ごめんなさいね。でも話を聞いたらなんだか行きづらくなっちゃった。ねえ、ルイーズ、お願い、あと一回だけ、お願い、ね。そのかわり、家に帰ったらあなたの言うこときいてあげるから、ね、いいでしょ」

「ほんとうにあたしの言うことを聞いてくれますか?」

「ええほんとうよ、なんでも言うことを聞くわ、ただし一度だけよ」

「まあ、たった一回ですか、この一年間ずっとあたしが行ってあげていたのに。まあ月に二度としても二十四回、そのうち半分はあなたの分として十二回、そのお礼がたったの一回ですか」

「だって……あなたはそれをもらいに行くだけでしょう、あたしはなんでも……って言ってるのよ、もちろんあたしでできることならばの話ですけどね。でも……いいわ、二回……そんなら、三回……ね、三回だけ、あたしでできることならあなたの言うことを聞いてあげてよ。これならいいでしょ」

「まあ、いいことにしましよう。それじゃ行って来るわ」

[傷につけるラード]

 ルイーズが出て行くと入れちがいにアデールがはいって来た。

「あの人どこに行ったの?」

「お台所。ラードをもらいに行ったのよ。アデール、たいへんなことになりそうなの、さっき院長先生のところで……」

「わかってるわ、もうそろそろだと思ってたわ、あたしはもう何人も送り出して知ってるのよ。みんなここを出る半月くらい前に呼び出されて聞かされるのよ、最後の仕上げの話をね、みんな同じなんだから、あきらめなさい。あなたとルイーズのお尻はあと一回きれいになめされて、きれいな肌になったところでご帰館になるわけよ、ラードをもらいに行くくらいだから覚悟はできてるのね、ふたりとも、一週間前になれば、もう笞打ちの心配はないわ、ぜったいに。でも、平手打ちくらいはあるわよ、それで足りなければ、浣腸って手もあるしね」

「なめすっていったいなによ、そんなにひどいの。あたしなんかおとといたたかれたところがまだ跡になってるのに」

「それがいけないのよ。青いアザなんかついてたら、ママがびっくりするでしょ、とくにあなたのママなんかわね。だから一皮むいてきれいにしてくれるのよ。いくらいい子にしていてもだーめ。かならず何か口実を見つけてやられるんだから」

 その時ルイーズが部屋に戻って来た。壷を両手に持って、顔を赤らめて戻って来た。

「ルイーズ、また何か言われたの、ごめんなさいね、それよりたいへんよ、あたしたちナメされちやうんたって……」

「ナメされる? てな-に……それ、どういうことなの」

「つまりね……お尻の皮をなめされちゃうんだって」

「あーら、そんなの毎度のことじゃない、いまさら驚いたってしょうがないわ、さっきのロぶりじゃ、どうせそのくらいのことはやると思ってたわ、いさぎよく一皮むかれちまいましょうよ。それでお別れできるなら、あたしはけっこうよ」

「さすがルイーズ、いい度胸ね、見上げたわ。まあしっかりやりなさい」

「アデールたら、まるであたしはだめみたいね。いいわ、あたしだって平気よ!」

「その意気、その意気、ホーラ、鐘が鳴った。戦闘開始よ、さあ行きましょう」

[第一ラウンドは負け]

 アデールの軽い足取りの後ろから、ふたりはしょんぼりと教室にはいった。そしていつになく真剣な態度で授業に耳をかたむけていた。そしてその時間はなにごともなく終わろうとしていた。

「ふん、どうってことないわ」

フランソワが小声で話しかけて来た。

「そうね、アデールにおどかされちゃった」

「何もしなければ、いくらクリスティ先生だって、どうもできはしないはずよ」

「そうよね、少し考えすぎよ、あたしたち……」

「とりあえずきょうのところは無事らしいわね。あと一時間ですもの……」

 その時フランソワの目とクリスティ先生の目がピッタリと合って、思わずことばをのみこんでしまった。先生は大きなとけいのほうをちらっと見ると、

「あと二、三分で終わるというのに、おまえたちはよほど重要な話があるようですね、何を話していたのか言いなさい。内容いかんでは許してあげます。さあ、ふたりとも立ちなさい」

 ふたりはたち上がったものの、話の内容を話すわけにはいかなかった。二度、三度クリスティ先生はふたりに話すように命じたがふたりは黙ってうつむくばかりでした。ちょうどその時鐘が鳴って、授業の終了を告げました。

「先生に話せないようなことなのですね。わかりました、わたしはこの休み時間にしなければならないことがあるので、罰は次の授業の時にいたします、起立!」

 先生は教室を出て行ってしまった。アデールが不思議そうにふたりの顔を見ていた。

「おバカさんね、さっきあれほど言ったじゃない、第一ラウンドは負けね、先が思いやられるわ、今からそんなふうじゃ一皮くらいじゃすまないわよ」

「ほんとうにばかなことしちゃった、情けなくなっちゃうわ」

 その時ひとりの生徒があわてて教室に戻って来た。入り口にいた二、三人の生徒になにごとか話すと次々に伝わって、庭に出ていた生徒たちにも伝えられた。〃テストよ〃〃次の時間はテストよ〃

 フランソワたちにも惰報は伝わって来た。次の地理・歴史の時間に抜き打ちテストが行なわれるというのだ、みんな壁にはってある大きな地図の前で地名や川の名まえをたしかめたり、机の中から教科書を出して読み返したりし始めた。

「急にテストなんてひどいわ、どうしましょう……」

「まあ、毎年恒例なんだけどもね、そろそろあると思ってたわ」

「まあひどい、教えてくれればいいのに、いじわるなアデール」

[ひとりを除いて落第点]

 本を開いて五分も過ぎないうちに鐘が鳴りはじめ、クリスティ先生がすぐにはいって来た、手には紙袋を持っていた。そして情報どおりテストは行なわれた。

 三十分間がまたたくまにすぎて、先生の指示どおり、最後列の生徒が自分の答案用紙を最前列の生徒に渡し、あとは順送りにすぐ後ろの生徒に自分の答案を渡して行った。

 これで全部の生徒が他人の答案用紙を持ったことになる。そこで先生が正解を発表し採点をさせるのだ。次々に正解が発表され、そのたびに、安堵と落胆とが入りまじったため息がもれた。フランソワは歴史に強いくせに地理はさっぱりだったし、ルイーズは反対に地理のほうが得意たった。アデールは落ち着いて採点していた。

 十分で採点は終わった。クリスティ先生はすぐに左の列から名まえと点数を読ませた。「ミシェール、七十二点」

「モニカ、六十八点」

「カテリーナ、七十一点」

「エレーヌ、六十二点」

「……七十五点」

「七十点」

「六十五点」

「七十二点」

 次々に読み上げられる点は、さんたんたるものだった、ただのひとりも八十点の合格点を取る者がいないのだから、自分の名まえが呼ばれるとみんな下を向いてしまった、その時……

「アデール、百点」

 思わずいっせいに後ろをふり向いた。この時ばかりはクリスティ先生も例外ではなかった。アデールは、顔を赤らめて下を向いてしまった。再び点数が読み上げられた、相変わらず六、七十点代の点数がつづき、次の列のトップはルイーズの答案だった。

「ルイーズ、七十四点」

 ルイーズはややほっとした。そしてその列が終わって次はフランソワの答案です。

「フランソワ、六十七点」

 正解の発表と聞いた時から、たいたいの見当はつけていたのだけれど、それにしても悪すぎた。心臓が破裂しそうだった。十九人全部が終わった。さいわい五十点代はひとりもいなかったが、予想どおりアデールをのぞく全負が八十点に達しなかった。

 あきらかにクリスティ先生はきげんが悪かった。しばらくはことばも出ないくらいだった。

「アデール、お立ちなさい。先生はあなたに感謝します。もしあなたがいなかったら、わたしはどうしたらよいのかわからなくなってしまったでしよう。とくに合格点というだけでなく、満点を取ったのですから。このことは院長先生にもご報告してなんらかのごほうびをあげましょう。本来ならば、残りの時間を自由時間にして上げたいのですが、きょうこのクラスには十八人のなまけものが罰を受けなくてはならないのです。あなたにお手伝いをお願いしたいのですが、いいですか」

「はい、先生、お手伝いいたします」

 先生のそばに歩いて行くアデールを、みんながうらやましそうに見つめていた。クリスティ先生は今度はうんとこわい顔をしてクラスじゅうをニラみつけた。みんな小さくなって首をすくめていた。

[笞数を計算して]

「あなたがたには何も説明する必要はないと思います。これくらいのことで全員不合格とはなんということです。許せません。全員罰を与えます。黒いドロワースをはいている者がいたら前に出なさい……」

 その日にかぎって、誰もいなかった。フランソワは三日前に終わってしまったし、ルイーズはまだ十日も先のことだった。

「ひとりもいないのですね、よろしい。アデール、答案用紙を集めてください。百点から各自の得点を引いて、残った数を三で割りなさい。余りの出た分は一回加えてください。それが笞の数になります」

 みんなそれぞれ暗算をはじめた。フランソワは100マイナス67イコール33、割ることの3は……11、ルイーズ、100マイナ74イコール26割る3は……3X8、24で2余るから8プラス1で9回……。あと1点で8回だったのに損をしてしまったなあ、それぞれ自分の打たれる数を計算して青くなっていました。

「計算終わりました」

「机の上に置いてください。あなたはそこにいて、数を読み上げてもらいましょうか。それに、机にひとりずつのせていたのでは時間がかかりすぎます。イスを使いましょう」

「でも……先生、イスじゃがまんできませんわ……とても痛いんですから……それでやり直しをさせられれば数をふやすでしょ、それじゃ……」

「そうですね、わたしの笞をイスに手をついただけで五回以上しんぼうできる人はめったにいませんからね。それでは……アデール、あなに押えてもらいましょうか、頭をはさんでやってくださいね、ほんとに大仕事ですよわたしのクラスにこんなになまけ者がいるとは思いませんでした。院長先生になんとご報告すればいいのか……しかも、七十点も取れなかった者が六人もいるのですね、しょうのない……この六人はほかの人と同じというわけにはゆきませんね、あとでわたしといっしょに院長先生のところに行くのですよ、いいね、さあ、始めますよ。ぐずぐずしないでお立ちなさい。教室の壁にそってずうっと一列に並びなさい」

 机の間を通って自分の番のところに順序よくならんでゆく。この行列はまるで葬式の参列者たちのようだった。みんな一様に黙って下を向いていた。なかでも最低点を取ったエレーヌは、あの大きな目にうっすらと涙さえ浮かべていた。

 フランソワは六人のうちのひとりに自分がいるということだけで、すっかり気が転倒してしまった。ルイーズはほんの少しでも、先生の怒りをそらすことができたので、いくらか落ち着いてはいたものの、あのしなやかな黒光りしている鞭で9回もたたかれるのは、やはりゆうつだった、よく通る澄んだアデールの声が教室じゅうにひびく。

「ミシェール、72点、笞数、10回です」

[十八人の〃合唱隊〃]

「アデール、お願いしましたよ、しっかりとはさんでくださいね。さあ、ミシェール、早くしなさい」

 クリスティ先生は手に皮ムチを持って、まるで羊を迫うように、ミシェールをいそがせた。半ば足を開いて立っているアデールのその両足の中に、ミシェールは頭を入れた。

 ゆったりとした制服は、その頭のはいったところに深いひだを作り、アデールの足はしっかりとミシェールの頭をしめつけた。そして両手で腰のところをぐっともち上げるような形で手を回した。

 先生は少しのためらいもみせずに、ミシェールのお尻をみんなの前にさらした。ほっそりとした体型のミシェールは、その少年のようなキュンと持ち上がった小さなお尻に、ニ日前みんなの前で笞をいただいたばかりだった。

 その跡がまだうっすらと残っていた。クリスティ先生はちよっと手でさわって笞跡をしらべていたが、たいしたことはないのですぐにおしおきを始めた。

 先生の打ち方はいつもよりだいぶ速く、ビシ、ビシとつづけざまに打ち込んで、あっという間に10画たたかれた。ミシェールはお尻をまっかにはれ上がらせて泣いた。

 次々に教壇の上に現われるお尻にはみんな笞の跡がうっすらと、または、はっきりとついた。

 しかし、クリスティ先生はほとんどそのことにはおかまいなしに、次々にアデールの読み上げる笞数を消化していった。

 左側の葬列が短くなり、右側に泣き声の合唱隊ができた。ルイーズの時、先生は前の時間にオシャベリをしていたのを思い出して、その分として平手打ちを3回加えることを忘れなかった。そしていよいよフランソワのところまで来てしまった。教壇に上がるとアデールと顔が合った。

「さあ、いらっしゃい、しっかり押えていて上げるからだいじょうぶよ」

 フランソワは頭を下げ、アデールの足の間にさし込んだ。ギュッと両側からしめつけられると、もうなにも聞こえなくなってしまった。両方の耳がアデールの太ももにびったりと押えつけられていた。その足のぬくもりが制服の布を通して、あたたかく伝わって来た。

 アデールの手がウエストのところをかかえると同時にふわっと、足のほうから風が起こり、次の瞬間、ひんやりとした風が肌に感じられた。先生は大きな声で前の時間のオシャベリのことを言っているらしいのですが、はっきりとは聞き取れませんでした。

 しかしその証拠に3回の平手打ちが加えられたのです。それかち鞭が音もなく、お尻に襲いかかって来るのでした。

 一つ、二つ、三つ、四つ、

 五回までは心の手でかぞえたのですが、たまらずひざをつきそうになり、そのたびにアデールがぐっともち上げます。涙が鼻をつたって、アデールの制服にしみ込んでしまいます。 そして、ようやく許されてフランソワも合唱隊の仲間入りをしました。あと四人で十八人の合唱隊全部がそろいます。フランソワはソプラノのパートを受け持ったように、ヒイヒイと悲鳴を上げて泣いていました。

 やがて最後のひとりも終わり、すすり泣きの大合唱が完成しました。クリスティ先生は鞭を元に戻すと右手を二、三度振っていました。

「先生、見て! わたしの制服、こんなになってしまいました……」

 アデールの制服の前の部分はまるで水をかけたようにぬれていました、十八人分の涙です。クリスティ先生は手でさわってみると、

「まあ、こんなになって……わたしのお部屋に着替えがあるから行って替えていらっしゃい。もうこちらに戻らなくてもよくってよ。ご苦労きまでしたね、もう授業時間も少しですから、わたしは六人の生徒を連れて院長先生のところに行きます」

[札をさげて立たされて]

 アデールを先に出すと、クリスティ先生はきょうのテストで70点以下だった六人の生徒を集め、ほかの生徒には時間まで自分の席にすわっているように命じて教室を出ました。フランソワたち六人は、その後ろについて行きました。

 クリスティ先生の報告を聞いて、院長先生はたいそうふきげんな態度で、いつになくクリスティ先生にもきびしい声で話していました。

「先生、あなたは少し生徒たちを甘やかしているのではありませんか。当然罰は与えたと思いますが、どうでしょう、足りないというようなことはありませんか。いかがです?」

「はい、申しわけございません。きょうのところはじゅうぶん懲らしめたつもりでおりますが……一応、院長先生のご指示をいただきたいと思いまして」

「わかりました。では生徒をわたしの前に並べてください。さあ、みんなこちらに来て、どんなおしおきを受けたのかわたしに見せておくれ」

 六人の生徒は回れ右をして、院長先生に後ろを向けると自分ですそをまくり、たった今たたかれたばかりのお尻を、院長先生に見ていただきました。それぞれ十本以上のみみずばれがまた赤くふくらんでいました。ひとりずつていねいに見て回り、そして元の位置に戻ると、

「これ以上、たたくのだけは許してあげ

第10回

ましょう。色の変わらないうちに薬を付けておいたほうがいい。クリスティ先生、そこに消毒薬と油があります。ふたりずつ組み合わせて薬を付けさせてやりなさい」

 ふたりが一組になってお互いに薬をつけましたが、その消毒薬はヒリヒリとしみて、みんな思わずボロボロと涙をこぼしてしまいました。

 院長先生がにらんでいるので、たっぶりつけなくてはなりません。

 そして油をつけ終わると、院長先生は机の引き出しから紙のフダを六枚出し、その一枚ずつに大きな字でこう書きました。

  わたしはナマケ者です。それで、お尻打ちのおしおきをされました。

  わたしのようなナマケ者にならないように。   上級クラス フランソワ

「きょう一日、これを首から下げていなさい。手で隠したりしたら背中のほうにも下げますよ、そして夕食後一時間部屋の外に立っていなさい」

 それは全く見せものでした。大きな生徒が首から札を下げて立たされているというニュースは、すぐに広まって、おチビさんたちがみんな見に来ました。

「あら、あそこに立っているのはモニカじゃない」

「こっち側に立たされてるの気どり屋さんのエレーヌよ、あの気どり屋さんがたたされてるわ」

「フランソワもいるわ、札にはなんて書いてあるの?」

「まあ、お尻をたたかれたんですって、平手打ちかしら?」

「ばかね! クリスティ先生はいつだって皮ムチを使うのよ、知らないの、あんた」

「だってあたしは、クリスティ先生にたたかれたことないもの」

「あなたなんて、クリスティ先生の笞をいただいたら、目を回してしまうわよ、とても痛いんですって」

「そう、フランソワお姉さん、かわいそうにね」

 フランソワもここに来てからいろいろと恥ずかしいめにあいましたが、立たされるのがこんなに恥ずかしいとは思いませんでした。まるで裸で町に飛び出したような恥ずかしさです。

 こうして始まったフランソワとルイーズの仕上げは、次々にふたりの上にふりかかって来るのでした。

 三日めには、もうふたりともくたくたになってしまいました。

 影におびえ足音が聞こえると、クリスティ先生ではないかと心配し、さすがのルイーズも足がふるえる始末です。そして五日めには予定どおり、すっかりお尻の皮を一皮むかれてしまいました。

 次の日は院長先生の許可をいただいて、ふたともベッドで休んでいました。

 しかし、クリスティ先生は、休み時間のたびに来て、油を塗っては、マッサージをして行くのでした。それが、とても意地悪なやり方で、そのたびにふたりとも、せっかく忘れかけていた痛みを、思い出させられてしまうのでした。

 それから四日、痛みもすっかりとれ、お尻の皮も元どおりに美しく、いや、元よりもさらにいっそう、美しさを増してきているようでした。

「あと二日、あと二日たてば、お家に帰れるあ-あ、待ち遠しい」

「フランソワ、あたし、町に行きたいわ、帰ったら、すぐに行きましょうね」

 ふたりはしっかりと手をにぎり合って、目を輝かせるのでした。

聖女の行進 11

第11章 お別れ鞭打ち

[最後の失敗]

 いよいよ、待ちに待ったその日が来ました。正確には、三百六十六日めの朝、フランソワとルイーズは、初めてここに来た時のように、朝の鐘の鳴る前に目がさめてしまいました。

 朝の礼拝が終わり、食事の時、院長先生は、きょう、ふたりが僧院を去って行くことを告げた。ふたりは立ち上がり、そして生徒たちは、羨望のまなざしでふたりを見ていた。

 みんなが出て行くまでふたりは、そこにいた。そして最後に自分たちの食器がはいっていた引き出しの名札をはずした。

「あと一時間ほどで迎えの馬車が来ます。おまえたちふたりは、まだまだ完全とは言えません。しかし、ここにいる間は、たいへんよくやりました。家に帰ってからも、ここで習ったことを忘れずに、各自で勉強するように。それでは、クリスティ先生のところに行って着替えをしなさい。そして着替えが終わったら、なるべく早く立ち去るように。ほかの生徒に会ったりしてはいけません。わかりますね。では、ごきげんよう、しっかりおやりなさい」

 いよいよこれで最後となると、ふたりともいささかしんみりして、クリスティ先生の部屋にはいって行きました。机の上には二つの箱が置いてありました。

「院長先生からお話があったと思いますからわたしからはもう何もつけ加えることはありません。ふたりともよくしんぼうしましたね、もうあまり時間がありませんから、早く着替えをしなさい」

「はい」

と返事をしてふたりが机の上の箱を持って自分の部屋に行こうとすると、クリスティ先生は、ふたりを呼び止めて、

「ふたりとも、着替えはここでするのですよ。もう、あなたがたの部屋にはカギをかけてしまいました。ここで着替えて、裏の廊下を通って行くのです。そうすれば、人目にはつかないでしょうから」

 ふたりは机の上に箱を戻し、ふたを開きました。中から出て来た洋服は、たしかに、ふたりがここに来た時に着ていたものですが、その色がなんとあざやかに……と言うより、むしろ、下品にさえ思えたのでした。そして、レースの付いた下着やコルセットも、何かふしだらな感じさえするのでした。生まれたままの姿にまっ黒な制服、そして白いかぶり物の今の姿にすっかり慣れてしまったからでしょう。

 ふたりは、白いかぶり布をはずし、そしてウエストのロープをほどいてイスの上に置くと、たっぷりとした制服のボタンをはずし、するっとぬぎました。クリスティ先生がじっと見ていたにもかかわらず、ふたりの動作には、少しのよどみもありませんでした。

 すっかり裸になってしまうと、ふたりはそれぞれの箱からドロワースを取って、そそくさと身につけました。次はコルセット、それから靴下……全く、ゴチャゴチャと身に着けていたものです。ふたりともうんざりしたような顔で、ため息まじりでした。

 しかし、次々に身に着けて行くにしたがって、昔のことが……といっても、たった一年前のことなのですが、思い出されて来るのでした。

 身じたくが終わった時、ふたりは多少窮屈でしたが、それよりも、ここから出られるので、うれしくてたまらないという様子でした。

「どう、ルイーズ、あたし、少し太ったんじゃない、きついわ」

「そうねえ、それより背が高くなったんじゃない、スカート丈が少し短く感じられるわ」

「あら、あなたもよ、それに、肌の色がそんなに黒くなって、でも、悪い気持ちじゃ、ないわ」

「フランソワ、もうそろそろ時間じゃない」

「そうね、少し早いけど、外で待っていればいいわ。先生、あたしたち、もう行ってもいいですか。よろしければ……あたしたち……」

 そこまで言ってフランソワは、黙ってしまいました。それは、クリスティ先生の目が下を向いて、そして、腕組みをしていたからです。フランソワは、ルイーズと目を合わせて、ちょっと額にしわをよせて、肩をすくめました。

「ルイーズ、フランソワ、あなたがたは、ここでいったい、何を教わったの。そのひらひらの洋服を着たとたんに、またもとに戻ってしまったのですか。一年の間、あなたがたの肌身を守った制服をそのままにして行くのですか」

 ふたりは〃はっ!〃としてうしろを振り向いた。フランソワの制服は、イスの背もたれにそしてルイーズのは、座板のところに、乱れたままになっていた。

「申し訳ございません」

 ふたりはいそいで制服をたたんで箱の中にしまった。フランソワはともかく、ルイーズまでがこんな矢敗をするなんて考えられないことだった。しかし、現実に起きてしまったことは、もうどうにもならないことだったし、いくら弁解したところでしかたのないことだった。

 ただ、ふたりは、ほとんど同時に、もう服も着替えたし、すぐに出て行くのだから、このことで、先生は罰を与えるようなことはないだろうと考えていた。それにだいぶ気分を悪くさせたろうけど、もう、それも、どうでもいいことだった。

 箱を机の上に戻すと、ふたりは一歩後ろにさがって、あらためて先生の顔をうかがった。

[小気味よい音]

 しばらく先生は黙って考えていたようでしたが、腕組みをはずし、ふたりに目を向けると、ぽつんとひと言、しかし、はっきりと、

「許すわけにはいきません」

そう言ったのです。

「なんということでしょう、こんなにまぎわになって、笞を使うわけにはいきませんね。制服をそまつに扱うようなことは、普通なら当然、笞打ちですよ。しかし、今になっては……でも、平手打ちなら、きょうの夕方までには、ほとんどわからなくなるでしょうからね。ほんとにしかたのない人たちだこと。さあ、ここにいらっしゃい」

 ふたりは、ゴクンとつばをのみ込んで、まさか、と思っていたことだっただけに、なおさらからだがすくんでしまいました。

「どうしました、すなおな気持ちまで、ここに置いて行くつもりではないでしょうね」

 ルイーズが先に前に出ました。クリスティ先生はもうイスにすわっていました。ルイーズはおとなしく先生のひざの上にからだを横たえました。先生は何かきたないものにでもふれるようにスカートをまくり上げました。たったいま身に着けたばかりのドロワースがむき出しになり、クリスティ先生はそれをぐいっと左右に開き、ルイーズのお尻はすっかりむき出しにされてしまいました。そしてそのお尻は、ドロワースの布にふち取られて、いつもよりうんと盛り上がって、今にもはち切れそうでした。

 そして、ルイーズに対する最後のお尻打ちが、ゆっくりと、正確に、そして力強く、六回、行なわれました。

 ルイーズは歯をくいしばって、がまんをしました。

 罰が終わると、先生はドロワースをもとに戻すと、下着の上から、もみほぐすようにさすっていました。

「静かにしなさい、ルイーズ、こうしておけば、すぐ消えてしまいますよ」

 そして、フランソワも……美しいレースが何枚も宙に舞って、パンテモンでふたりに行なわれた罰の最後の一打が、フランソワの尻の上で、小気味のよい音をひびかせたのでした。

[一年めの外界]

 髪の乱れを直し、クリスティ先生に見送られて庭に出ると、遠くの鉄のとびらの向こうに、なつかしい馬車が見えました。ふたりは押えきれずに駆けだして行きました。門のところにひとりの尼僧が立っていて、とびらのカギを開いてくれました。ふたりが外に出ると、その尼僧は、何事もなかったかのように再びカギを閉ざし、去って行きました。

 馬車のとびらが開き、中から伯父様が出て来ました。窓のところにママの顔も見えます。フランソワは駆け出して。伯父様の腕の中にとびこみました。

「伯父様あ……ママ……」

 馬車が走り出し、いろいろと話しかけるママや伯父様のことばを、ふたりはうわの空で聞き流し、窓の外をキョロキョロとながめていました。なにしろ一年の間、僧院の外へは一歩も出なかったのですからムリもありません。

「ルイーズ、見て! ホラ、あのお店よ、すばらしいわ、ねえ、見た?」

「ええ、とてもすばらしいドレスね……」

「あら、あのピンクと白の日除けの出ているレストラン、あたし知らないわ」

「ああ、あのレストランは、そう……半年ぐらい前にできたのだよよ。昔、ホテルでコック長をしていた男が出した店で、とてもおいしい料理を出すよ。今度、伯父さんが連れていってやろう。ママとはもう四、五回行ったのだよ」

「まあ、くやしい、娘がさんざん苦労してるのに、ママや伯父様は、あんな、すてきなレストランでお食事してたのね。きっと、連れていってくださらなければ、あたし、おこってよ!」

[訓練の成果]

 家の中にはいると、フランソワは、自分の部屋や、窓、階段の手すり、そのほか、なんでもなつかしく、そっと手でふれてみるのでした。とくに自分の部屋の中は、あの日、出かけたままになっていたので、なおさら、なつかしく、いつまでも、じっとすわっていました。

「フランソワ、奥様がお呼びです」

「まあ、ルイーズ……あなた、もう……」

 ルイーズは、女中の制服に着替えていました。

「ようやく、自分に戻ったような気がしましたわ、お嬢様」

「やめて、ルイーズ。あたしのことはもうフランソワでいいじゃないの。お嬢様なんて言われると、なんだか変だわ」

「でも、お家に戻ったんですから、それでいいのですよ。そのうち、すぐに元どおりになりますよ。気にしないで……さあ、行きましょう」

 ふたりは連れ立ってママのお部屋に行きました。

「さあ、さあ、ふたりともこっちに来て顔をお見せ。少しもじっとしていないのね。ママのことを忘れてしまったの。さあ、そこにすわって話してちょうだい、どんなふうだったの」

「何から話していいのかわからないけど、とにかく、たいへんな所だったわ。ねえ、ルイーズ、あたしたち、ダマされたみたい。それでもよくがんばったでしょ、ママ」

「ええ、ええ、ふたりのことは院長先生からお手紙をいただいて、とてもよくやったってほめていただいたのよ。ルイーズ、フランソワはどうでした、ちゃんとできて?」

「はい、奥様、お嬢様は、それはもう、とてもよくやってらっしゃいました」

「そう、それはよかった。それで……やっぱり罰は受けたんでしょうねえ……ぜんぜん受けずに済むわけにはいかないものねえ、多少はがまんしなくてはね、どう、そんな時、フランソワは泣いたでしょ、どうだったの」

 ふたりはポカンと口をあけて顔を見つめ合い、それから……思わず吹き出してしまいました。あんまりママがのんびりしてるので……。

「ルイーズ、ママにはなんて言ったらいいのかしら。ほんとうのこと話したら、死んじゃうわ。あなたから話してよ、うまく……ね」

「そういわれても困るわ。つまり……ですね、奥様、あたしたちふたりは……奥様の想像なすってるような罰は、ほとんど……毎日……いいえ、なにもあたしたちだけというわけではないのです。みんなそうなのです……あそこでは、とてもきびしくて、それで、一年のうちで泣かない日を数えたほうが早いですわ。なにしろ、たいていの時は笞で打たれるんですから。とにかく、そんなふうでした……」

「まあかわいそう。ほんとうなの。フランソワ。まあまあ、なんてことでしょ、よくがんばったねえ、えらかったねえ……」

「ママ、泣かないで、あたし、平気よ。いいえ、平気になったの。昔のあたしって、ほんとに甘ったれだったわね。もうだいじょうぶ、ちっとやそっとのことではへこたれませんからね。ママも伯父様も聞いていてね」

 フランソワは立ち上がると、机の上のバイオリンを取り上げて、ひきはじめました。美しい調べが、よどみなく流れ出ます。一拍、いや、半拍のまちがいもなくひき終わりました。

「すばらしい。みごとだ。わたしだったら、とても、一年でこんなにうまくひけるように教えられはしない。いや、この半分だって、どうだったかな」

「伯父様が悪いんじゃないわ。あたしが悪かったのよ。それと……笞よ。まちがえるたびに打たれるんですもの。たいてい覚えるわ」

「そうか、それはたいへんたったね。でも、よくやった」

[若い女中頭]

 それから、いろいろなことを話しました。楽しいことや、つらいことのかずかずを、そして、アデールのことも話しました。

 ママはさっそく手紙を書いてあげようと約束してくれました。しかし、ふたりは、青キップのことだけは話しませんでした。だって、伯父様がいっしょだったから、きっと恥ずかしかったんでしょう。

「そういうわけで、あたしはアデールとルイーズにはとても世話になったの。とくにルイーズにはね。だから、ルイーズのこと、ママ、考えてあげてね」

「そう、わかりました。実はね、四カ月ほど前に、イライザが結婚してね。ずっと通って来てくれてるんだけど、今度急にご主人が転勤になってね、それであたしも困っていろいろ手をつくして捜していたんだけど、なかなかいい人がいなくてね、少し若過ぎるけど、このさい、ルイーズを女中頭にしてあげようかね。どう思います、あなたは……」

 ママは伯父様に聞きました。

「そうだねえ、少し若過ぎるようだが……それに、この家にはもうひとり、ルイーズより年上の女中がいたんだろ。ちょっとどうかな。しかし、わたしの家に来た若い女中と変えれば、うまくいくんじゃないかな。あの娘はまだ十五歳だし、あとひとり同じぐらいの年の女中を雇えばうまくゆくのじゃないかな」

「あなたがそうしてくれるなら、あたしはそれでけっこうよ。たしかにそうですね。女中頭は年上でないとうまくゆかないわ。でも、若い女中ばかりになって、ちょっと心配ね、ルイーズ、あなたうまくできる?」

「はい、奥様、いっしょうけんめいにやります」

「ママ、だいじょうぶよ、ルイーズは、いろんな教育を受けたのよ、あたしと同じよ。それに、若い女中を教育することだってできるわ。ありがとう、ママ」

[意外なことば]

 一カ月のうちに女中がふたりも変わって、フランソワはあっちこっちと飛び回り、流行のドレスを注文して、目が回るようでした。ようやく家の中が落ち着くとフランソワは、いよいよアデール救出作戦にかかりました。ママに頼んで手紙を書いてもらうと、それを持って出かけて行きました。もちろんルイーズもいっしょです。

「ルイーズ、うまくいくといいわね。どんな人かしら、アデールのお父様って……」

「そうですねえ、娘をあんな所に三年も置いて平気なんですからねえ、とびきりのガンコ者でしょうよ。門前ばらいかも知れませんね、そうなると、ちょっとやっかいですねえ……」

 三十分ほど走ると、御者が降りて近くの人に家を尋ねます。すると、アデールの家はもう、ほんの目と鼻の先でした。門の前でふたりはもう一度、うまくいくように……とお祈りをして、はいって行きました。

 ベルを鳴らすと、年老いた召使いが出て来て、話を聞くと、とびらをぴたっと締めて行きました。再び顔をのぞかせると、どうぞおはいりください。と言って、ふたりを中に招じ入れました。

 小さいけれど、とても趣味の良い応接間で、ふたりは待っていました。すぐにドアが開いて、がっしりした体格の人がはいって来ました。

「アデールの父です、あなたがフランソワですね」

「はい、あたしがフランソワです。こちらはルイーズ。あたしたち、パンテモンでお嬢様といっしょでした。それで……実はきょう、母の手紙を持って来ました。どうぞ先に、これを読んでください。お話はそれからにいたします」

「わかりました、さっそく母上の手紙を拝見しましよう」

 そう言ってイスにすわると、手紙を読みはじめました。ふたりはその様子を心配そうにうかがっていましたが、アデールのお父様は眉一つ動かさずに手紙を読み終えると、ふたりのほうに向いて、

「それで、わたしにどうしろと、おっしゃるのですか?」

「どうって……アデールをパンテモンから出して上げてください。もう三年もいるのですもの。明日にでも行ってくたさい。明日行っても、出て来るのは一週間後になるのですよ。どうかお願いします。アデールは、パンテモンではいちばん成績がいいのです。ですから、もうあそこにいなくても、だいじょうぶですわ。どうか、あたしとお約束してくたさい、明日パンテモンに行く……と」

「明日パンテモンに行って、アデールを出してくれというわけですね……それは少し無理な注文ですね」

「どうしてですの。なぜ、明日ではいけないのですか。もし明日のご都合が悪いなら、明後日でも……」

「いや、わたしはもうパンテモンには行きません、今後ずっと……」

[アデールとの再会]

「まあ! あなたはなんて人でしょう。それではアデールはどうなるのですか? 一生、あんな所に……ああ、ルイーズ、どうしましょう」

「ほんとうにひどい人、あなたは子供がかわいくないのね。それにしても、かわいそうなアデール。あんまりだわ……フランソワ……どうしよう」

 ふたりは顔を見合わせると、もう手放しで泣き出してしまいました。

「おやおや、これは困ったぞ。実は、フランソワさん……つまりですな……ルイーズ、ちょっと泣かんで聞いてください……いや、弱ったな。ちょいといたずらが過ぎたようじゃ。おい、アデール、出ておいで」

 ドアのかげからアデールが、おなかをかかえて出て来ました。

「まあ、アデール」

 ふたりはいっぺんに泣きやんでしまいました。

「あなたたちが悪いのよ。家に帰ったらすぐに来てくれるはずじゃなかったの。もう一ヵ月以上もたつじゃない。言い訳はけっこうよ。新しいお洋服を作る時間はあっても、パパのところに来る時間はなかったのね。あたしはもう一週間も前に帰って来たのよ。パパが来てくれたの。はじめはてっきりあなたたちがパパに話してくれたんだと思ってたわ。ところが、パバに聞いたら、そうじゃないって。はじめから、三年めには出すつもりでちゃーんとカレンダーにしるしがつけてあったんですって。それで、あなたたちがいつ来るかと待っていたのよ。毎日毎日なかな来てくれないから、パパと相談して、ちょいと驚かしたの。どう、パパ、うまかったでしょ。それでも、うそはつかなかったはずよ。だって、あたしはもう家にいるんですもの。パパはもうパンテモンに行く必要はないわ、明日も明後日も……そうでしょ」

「そんなこといったって、あたしたちもいっしょうけんめいにやったのよ、ねえ、ルイーズ、もっと早くに来たかったけど、お家のほうでいろいろとあったものだから、でも、よかった、また三人がいっしょになれたのですもの」

「ほんとに、アデールったら人が悪いわ。それに、お父様までがいっしょになって、パンテモンでこんなことしたら、ただではすまされないことよ」

「ほんの冗談のつもりじゃったが、失敗、失敗。おわびのしるしに、きょうはパパがみなさんを食事に招待しよう。外に出るわけにはいかないが、そのかわり、わたしのよく知っている、中国人のコックに頼んで来てもらおう。どうだね」

「まあ、すてき、ねえ、いいでしょ。ふたりとも、馬車を先に帰せばいいわ。あとで、家の馬車で送ってあげるわ。ねえ、パパ、お手紙を書いてくだされば、馬車の人に渡すわ。そうすれば、お家のかたも心配しないでしょうから」

「そうだね、それじゃ、十分ほどしたら、わたしの部屋にいらっしゃい」

 三人は楽しそうに、この一カ月に起こったことを話し合いました。そして手紙を持った御者が掃って行き、三人はお食事を待つ間、お父様のお部屋で話していました。

[帰宅早々のお仕置き]

「ほんとうに、良い友だちができてよかったね。アデールは、子供の時に母親を亡くして、それからというものは女中まかせ、わたしが気がついた時は、手のつけられないお転婆になってしまってね。わたしも、家でできることならと思って、ずいぶんきびしくしたのだが、なにしろ一日じゅう家にいるわけにもいかず、しかたなく、あそこに預けたようなわけなんですよ。はじめのうちはずいぶんつらいめにあったらしいね」

「始めのうちだけじゃなくってよ。ねえ、フランソワ」

「そうね、でも、だんだん慣れてしまうのかしら、やはり、始めのころはつらかったわ

第11回

「実は、この娘の母親、つまりわたしの妻も、パンテモンに行かされたことがあるのでね。あそこのことは、わたしもよく知っているのですよ」

「まあ、お母様も、どうりで……とてもきびしかったのよ。あたし、少しも知らなかったわ」

「ママの行っていたころのほうが、もっともっときびしかったのたよ。だから、ママは、娘をあんな所にやりたくないって言ってね、それできびしくしていたのさ。あと二、三年ママが長生きしてくれたら、おまえもパンテモンなぞに行かずにすんだのに」

「もういいわ、帰って来たんですもの」

「でも、また元のようにお転婆をすれば、今度はパパが許さんぞ、この間のように……」

「あら、アデール、もう何かやったのね。まだ一週間でしょ」

「パパったら、いやねえ、恥ずかしいわ。でも、あなたがたがいけないのよ。なかなか来てくれなくて、あたしいらいらしてたの。本を読んでたら、パパが来て、お友だちはまだらしいね、なんて言うもんだから、くやしくって、ポイッと本を投げ出したら、机の上のコーヒーカップにあたって、ガラガラ、ガッシャン……よ。ほんとうに悪かったと思って、パパにあやまったんだけど……パパ、許してくれないんですもの。ほんとうのこと言うと、とても恥ずかしかったわ。だって、割れたカップをかたづけに女中が来ているのに、パパったら、大きな声で言うんですもの。アデール、おまえがそんな態度を直さないなら、直るまで、いつでもお仕置きだよ! さあ、パパの部屋に来るんだ。お尻をたたいてやるーってね。みんなに聞かれちゃったわ」

「まあ、たいへん。それにしても、もう少し早く来ればよかったわね。そんなことになってるなんて夢にも思わなかったわ」

「ほんとうよ。だって、パパったら、ニ年前と同じなんですもの。あたしたちがもうすっかりレディになったのに、少しもわかってくれないのよ。からだだって、こんなに大きくなって、前に持っていたお洋服や、それに下着なんかも、みんな着られなくなってしまったわ。だから、今度買ったお洋服だって、もうすっかりおとなのと変わらないのよ。あなたたちだって、そうだったでしょ。下着だって、子供の時のようなドロワースじゃないわ。コルセットの付いた下着よ。もう、何もかもレディーなのに、それなのに、パパったら……パンテモンと同じように、お仕置きするのよ。あそこでは、何も着ていなかったから、かえって覚悟ができていたけど……パパに下着を脱がされた時は、死ぬほど恥ずかしかったわ、ほんとうよ……」

「いくらからだが大きくなって、着る物がおとなと同じになったって、やることが以前と同じじゃしようがないね。おてんばしたり、ぶつぶつふくれたり、家の中をばたばた走り回ったり、それに、おまえは、階段の手すりにまたがってすべり降りたそうじゃないか。もしほんとうなら、また、お仕置きを、せにゃならんぞ」

「うそよ、うそだわ。あたし、そんなことしないわほんとうよ……」

「まあ、アデールったら、赤い顔して、ほんとうかしら、それにしてもおてんばね」

 四人は声をたてて笑いました。楽しい時間は、あっという間に過ぎてしまいます。でも、これからは、いつでも合うことができるので次を楽しみに、ふたりは家に戻りました。

聖女の行進 12

第12章 叩かれるより叩きたい

[代役教授] 

 木々の緑が濃くなるにつれて、フランソワとルイーズの生活はいそがしくなって来ました。

 それは、ふたりがぼんやりと想像していた生活より、だいぶ忙しい生活でした。ルイーズは、ふたりの若い女中をさしずして、もうすっかり女中頭になっていました。フランソワは毎日、伯父様の家に出かけてゆきます。今ではもうすっかり、伯父様の助手になっていました。

「フランソワ、おまえが来てくれてほんとうに助かるよ」

「だけど伯父様、いったいどうして? これじゃあ、まるで学佼みたいよ。なぜ、こんなになったのか、まだうかがってなかったわ」

「そうか、おまえには、まだ話してなかったね。いや、別に深い訳があるわけじゃないんだよ。おまえも知っていただろう、ジョンス・ルンプリエール卿」

「ええ知っていてよ、伯父様。音楽教育の権威、とくにバイオリンについては、高名なかたですわ。伯父様とはお友だちだったんでしょ?」

「いや、親しくしていたが、友だちというよりは、わたしの先生とでも言ったほうがいい。教育に関しては、わたしの実力を高く評価してくれていたのだが……わたしが金持ちの娘ばかりを相手にするもんで、どうもそのことでは始終小言ばかりさ、本物の才能だけを育てろとね。しかし、本物の才能なんて、そうめったにいやしない。それに、たまに見つかる宝石を、わたしは自分かってにいじくらないうちにウィーンに送ってしまうのさ。そのほうがいい」

「そうかも知れませんね。本物の天才なんてめったにいませんわ……それで?」

「まあ、そんなわけだ。そして、つい三カ月ほど前、ジョンス・ルンプリエール卿が亡くなってね」

「まあ、ちっとも知りませんでしたわ」

「それで、亡くなる三日前にわたしが見舞った時に、自分の生徒のことをよろしくたのむと言われてね。わたしは先生がよくなるまでよろこんでお引き受けしますと、返事したんだ。ところが、急に亡くなられて、とりあえずわたしは、約束どおり先生の生徒を全部引き受けたのさ、三十人くらいいたかな。さすがに先生のところにはすばらしい才能の持ち主がいてね、それも四人もいた。わたしはさっそくウイーンへ送ろうと思ったが、そのうちのふたりからは全くお金を取らずに先生は教えていた。つまり生徒の家は、あまり経済的に恵まれてはいなかったのだ。だからウイーンヘやることなど、とてもできないことだったんだよ。それでしかたなく、わたしが金を出すことにした。なにしろ先生との約束だし、それよりもあの才能を見殺しにはできないからね。そんな訳で、わたしのほうは急に出費がかさんでね、残りの二十五、六人のうち十人くらいの男の子はほかの先生にお願いして、ほかに五人くらいの娘は……もうかなり年かさでもあるし、一応、才能の限界もわかったので、これを機会にやめたよ。そしてわたしの手元には十人の若い娘たちが残されたのさ。まだはじめて二年か三年くらいのものばかりだ。才能も海のものとも山のものともわからんが、とりあえず金持ちの娘たちさ。そうしないとわたしが困るんでね。まあ、ざっとそんな訳で、わたしは急に十人の生徒がふえたという訳さ」

「それでわかりましたわ。でも……なぜ伯父様は男の子を教えないのですか?」

「男の子の場合には責任が重い。なんとかせにゃあならん。そこへいくと女の子は、まあ楽だな。どうにもならんでも、ちゃんと結婚して良い奥様にはなれるからね……」

「まあ、伯父様ったら、ずるいのね」

「まあ、そう言わんでくれ。天才を育てるのはたいへんな気苦労なものさ」

「それでは、そうしておきましょう。ところで今度はあたしに何を……」

「今、家に来る生徒は二十四人、おまえを入れると二十五人になる。そのうち、わたしの目に狂いがなければ、たいへん才能のある者が二人いる。そのほか新しく来た子のなかに、十歳以下の者が六人、これはまだほんとうのところはわからんが、今がたいせつな時だから人まかせにはできん。とすると残りは十五人、もちろん残りの十五人も、これからどんどんじょうずになってゆくだろうが、専門家として立つのは少々無埋かも知れん。そこで……つまりその十五人、いや、おまえをぬいた十四人のめんどうを、フランソワ、おまえに見てほしいんだよ。年もちょうど十歳から十五歳までだし、この一カ月のおまえの助手ぶりはたいへんりっぱだったからね、じゅうぶんできると思うよ。それにわたしは、いつでもここにいるのだから、何かわからない時はいつでもわたしのところに来ればいいのだし……どうだろう、引き受けてくれんかね」

「まあ、あたしにできるかしら。でも、それで伯父様が助かるなら、やってみるわ」

「そうか、それはうれしいね。一日三人くらいずつみておくれ。そうすれば五日で一回、ちょうどいいだろう。机の引き出しをあけておくれ、その中にノートがはいっている。ああ、その黒い表紙のやつだ。そこに今いった生徒の分がはいってるよ。名まえと年齢のほかに現在の進行状態、性格、注意事項などが書いてある、それを読んでおきなさい。役に立つ。それと今後の進行状態を書いて、わたしに報告しておくれ、そうすれば次に何をするかは、わたしから指示しょう」

「まあ、こんなにくわしく書いてらっしゃるのね、少しも知らなかったわ。それなのに、伯父様のこと、悪く言ったりしてごめんなさい。あたしにできるかしら……」

「まあ、おまえは自分流にやればいい。なにしろ、フランソワ自身が見違えるほどじょうずになったんだから、そのつもりでやればだいじょうぶさ」

「やってみるわ、でも、始めのうちは助けてくださいね」

「もちろんだとも」

[家庭訪問]

 それから数日、ようやくフランソワは、自分の生徒の名まえと顔、そして彼女たちの性格なども覚えました。そして伯父様が言ったとおり、なかには、いやいや来ている娘もあったのです。

 家庭はみな上流で、家に帰ればわがままいっぱいに育っているのでしょう。どうもうまくゆきません。そこで伯父様に相談して、自分の生徒の家を全部回ることにしました。フランソワの家も名家でしたので、一軒ずつ、たいへんに観迎され、全部の家を回るのに一カ月もかかりました。しかし、フランソワが考えていたとおり、彼女は、その生徒の母親ひとりひとりから、全面的な信頼を受けることに成功したのでした。

 それには、フランソワ自身の体験がたいそう役にたちました。そして最後にフランソワのひくバイオリンが、母親たちの心を完全に自分のものにしてしまうのでした。うっとりと聞いていた母親が、やがて曲が終わると立ち上がり、同じようにこう言うのでした。

「フランソワさん、あなたのようなかたに娘をお願いできるなんて、ほんとうによかったわ。なにしろ、あなたは家柄もおよろしいし、それになんといっても女性なんですから。娘の教育にはあなたほどすばらしいかたはありませんわ。それにそのすばらしい演奏を聞かされては、どうしてもお願いしないわけにはゆきません」

 そこですかさずフランソワは、

「でも、今のような甘い気持ちでは、ほんとうのところ、あたくし、お引き受けしかねますの……」と、だめ押しのひと言。

「とんでもございません。どうぞ、娘のことはおまかせします。あなたのよろしいように教育してください。あたしはもういっさい口出しはいたしませんわ」

[ママのお仕置き]

 こうして一ヵ月の間に、すべての生徒たちの母親から、娘たちをまかされたフランソワは、ようやく自分流の……というより、パンテモン流の教育を始めようとしていました。

「ああ、ルイーズ、あなたに頼みたいことがあるの」

「まあ、お嬢様、ずいぶんおそかったんですね。このところ毎日じゃありませんか。お母様も少々ごきげんナナメですよ」

「ほんとう。でももうだいじょうぶよ、きょうでおしまい。あたしもつかれたわ、毎日毎日。……それでは、ちょっと母上のごきげんをうかがってくるわ。あとであたしのお部屋に来て」

「はい、お嬢様」

 フランソワは階段のところの鏡で、手早く髪の乱れを直して上がって行った。今ではママとほとんど対等になんでも話し合い、ときにはフランソワのほうが主導権を取ります。そしてフランソワの後ろには伯父様がついているので、ママは少々押されぎみです。

 夫は世界を飛び回り、むすこもすっかり飛行機にとりつかれ、めったに家に帰っては来ず、たまに帰ってもまたすぐに出て行ってしまうのです。

 ところが、たったひとり自分の手のなかに残っていた娘までが、最近は、鳥がとんでゆくように、もう自分の自由になる者はひとりもいない。いや、いくらでもお金はあった。少なくとも、生活していくうえでは、何一つ不自由はない、ほしい物はなんでも手にはいる。女中だって数をふやそうと思えばいくらでもふやせるが、別に三人いればそれでよかった。少なくとも、この三人の女中たちを支配することはできる。しかし、それとても、親の……母親の力ではない、金の力なのだ。たとえルイーズだって、給料を今の半分に減らせば……それでもここにいるとは言いきれない。つまりは金の力なのだ。

 ……自分ひとりが世間から取り残されてゆくような、自分がこの家ではもう何もすることのない、むだな人間のような気がしてならないのです。夫もむすこも娘も、ママが家にいてくれるから外で思い切りのことができるという、みんな心の底からそう言ってくれる。でも、そのことばすら、ママにはなぐさめのように思えるのです。

 少々、イライラして、神経をとがらせ、ささいなことに腹をたて、気むずかしくなっていきます。だから、フランソワも少々手をやいていたのです。仕事のこと以外で、ママの逆襲に合うこともしばしばだったからです。自然に髪の乱れを直したのもそのためです。

 このごろ、いやにうるさく言うものだから、それで自然にそうなったのです。もっとも、四日ほど前に、そのことでママからちょっびり教育を受けたのでなかったら、そして、ついきのうまでイスにすわるたびにそのことを思い出させられたのでなかったら、そんな細かいところにまで気がつかなかったかも知れません。

 四日前、ママは始めから知っていたのです。軸の食事のあいだじゅう、ずっと知っていたにちがいないのです。きちんとピンでとめたはずの髪が、ぶざまに後ろに下がっているのを。そして、そのことをルイーズが気がついて目で合い図したのに、フランソワは、それすらも気がつかなかったのです。そして、たったいま気がついたというふうに、ママは大げさに驚いて見せたのです。

 そして、たとえふたりだけの食事でも、作法は作法、そのくらいのことが自分でできなようでは、あたしが世間の物笑いになると、たいそうふきげんになり、はじめのうちはフランソワもなるべくしたてに出てママをおこらせないようにしていたのですが、少々ママのお小言が長すぎたので、つい、

「わかったわ、ママ、もういいわ。それに、ママははじめから知ってたんでしょ。お食事の前に言ってくだされば直しに行ったのに」

 ママの眉がキリッと上がり、しまった、と思ったときは、もうママの叱声がとんでいました。

「おだまり! フランソワ、おまえが降りて来た時、ママはもう席に着いていたのよ。もし仮にお客様がいたとしたら、どう。それでもママが注意できると思って。人に言われてから直しに行くのなら、五歳の子供にだってできますよ。このごろ外でお仕事をしていると思って、ママをバカにしているんだね、いいや、そうに違いない。おまえは伯父様の手伝いをしているだけなんだよ、それくらいのことでもう一人まえになれたと思ったら大まちがいだよ」

「そんなこと思わないわ、あたしはただ……ママが知っていたのなら……」

「もう、おやめ。そうやってママに口答えすることが、そもそもすなおでない証拠じゃないか。そういう生意気な態度は許さないよ。いいね。さあ、あたしの部屋においで」

[恥ずかしい体罰]

 始めの一カ月は何も起こらなかったのですが、次の一カ月のうち、フランソワは三度、不幸に見舞われました。そしてこの日が四度めだったのです。ママは、フランソワがすなおについて行くにもかかわらず、その時には必ずフランソワの耳をつかむのです。

「そんなことしないで。言うことをききますから」

 と何度頼んでも、ママは同じことを繰り返すのでした。

 そしてその時もママは、いやがるフランソワの腕を取り、そして手をのばして耳をつかんだのでした。そしてそのまま、階段を上ってゆくので、フランソワは、知らす知らず大きな声で叫んでしまうのでした。

「ママ、ごめんなさい。言うことききますから--ねえ、やめて」

 その声は家じゅうの者に聞かれてしまいます。そしてママの部屋に引きずり込まれたフランソワは、ベッドの上に上半身を横たえ、スカートはすっかりまくり上げられてピンで止め、そしてパンタロンは合わせ口を押し広げられるか、場合によってはすっかり取り去られ……いずれにしても、最高に恥ずかしいポーズを取らなくてはならないのです。

 すっかり肉づきのよくなったフランソワのからだは、パンテモンで鍛えぬかれ、そして美しく整った丸みを惜しげもなくさらしているのです。それはもうすっかり完成された美しさだと言ってもいいでしょう。

 それなのに、その柔らかくふくらんだ双丘は、ママの痛い痛い笞を、ふるえながら待っているのです。

 フランソワはべッド・カバーの端をしっかりとにぎりしめて、目をつぶり、そして心の中では、あたしはもう子供じゃないんだから、こんな恥ずかしいお仕置きはやめてほしい、と思っていました。

 しかし、それを口に出して言えば、ママに、もっとたくさん打たれるような気がして、とても言う勇気はありませんでした。

 別に、たたかれるのはしかたがないとしても、手のひらか背中のほうならいいのに、パンテモンにいた時はあきらめていたのに、家に帰ってからはすっかり元に戻って、スカートをまくられただけで耳のつけ根までまっかになってしまうのでした。ママとふたりきりなのに、恥ずかしくて涙が出るほどです。

 やがて、細くしなやかな笞が、ピシ、ピシと音をたててまとわりついてきます。一打ちごとの痛さは、パンテモンのものとは比べものにならないくらい軽いものでしたが、ママは、時間をかけてそれを行なうので、とてもつらいことにちがいはなかったのです。

 お仕置きをすませると、ママは満足そうにうなずいて、小さな子供にするような態度で、

「いいね、フランソワちゃん、ママの言うことがきけないと、いつでもこうですよ。まだまだひとり歩きはできないんだってこと、よく覚えておおき」

 フランソワはひと言いい返したいのを、ぐっとこらえて自室に引き上げます。くしゃくしゃになった顔を鏡台の前で直していると、また恥ずかしさがこみ上げ、ちょっびり口惜しくて涙がボロボロとこぼれ落るのです。

[盗癖ある女中]

 この日もあやうく、フランソワにとって五回めの下幸な日になるところでした。生徒の家を尋ねることの重大さと、きょうですべての生徒の家を回ったので、あしたからは早く帰れるということを何度も何度も説明して、ようやく許してもらいました。

 自分の部屋にはいるともうルイーズが待っていました。

「あら、もう来てたの」

「はい、どうしました? ずいぶん長かったですね。またかと思ってましたけど、どうやら、きょうは助かったようですね」

「ようやくよ、もう少しであぶないところ。このごろ、ママったら、いやんなっちゃう、いつもそばに笞が置いてあるのよ」

「そうですね、このところお台所のほうでも、うかうかしていられないんですよ。もっとも被害者はもっぱらあのふたりでね、あたしはだいじょうぶですよ。まだ一度だけ……」

「まあ、たった一回? あたしなんかもう四回もいただいちゃったのよ。あたしがいちばん多いんじゃない」

「そんなことないわ、あの娘たちはほとんど毎日ですもの」

「毎日? ママが?」

「いいえ、奥様はときどき来るだけですから、あとはあたしがね」

「ふ-ん、毎日よく材料があるわね」

「あの娘たちときたら何一つ満足にできやしいんですもの。仕事はおそいし、少しでもひまな時はぺちゃくちゃおしゃべりばかり、ビシビシやらなくちゃとてもとても」

「ルイーズもたいへんね。そういえばこの間、あの新しく来た小さい娘、そうエルシイっていう娘ね、このお部屋のおそうじの時、鏡台のところから香水を取り上げて自分の肌着につけていたわ」

「ほんとう? フランソワ!」

「ええ、あたし見ていたんですもの。あの娘は気がつかなかったんでしょ、あたしが出て行くと、知らん顔してたから」

「どうしてしかってやらなかったんですか。もしご自分で言うのがいやなら、あたしに言ってくださればいいのに」

「だって、たかが香水よ。それに、ほんの一滴……」

「どうして一滴ってわかります。ここに来るたびにそうしているかも知れません。そしてその次はおしろい、そして靴下を片方、そしてまた片方、次は靴下止め、そして……」

「まさか……そんなふうになるなんて信じられないわ」

「いいえ、お嬢様、あなたは知らないのです。あたしたちがどんな生活をしていたか、ここに来てはじめて、こんなぜいたくな暮らしを見るのです。同年輩のあなたの持ち物は、なんでもとてもうらやましく思えるのです、たまらなくほしくなります。のどから手がでるほど。そして香水を……あたしもそうでした。でもあたしは、その時イライザに目が回るほど笞で打たれました。それではっきり覚えるのです。あたしとあなたが違う世界で生活をしているんだということを。はじめのうちは悲しいですよ。でも、そのことをおこたったため、あとで取り返しのつかないようなことが世間ではよくあるのですよ。お嬢様だってある日、とつぜん宝石がなくなったらどうします? 宝石の一つくらいといって許してやりますか?」

「そ、それは、そうはいかないわ」

「そうでしょ。だから、かわいそうでも、今のうちに思い知らせてやるのが、けっきょくは親切というものですよ。あの娘たちを牢屋に入れたくなかったらね」

 そう言ってルイーズは立ち上がり、とびらのところのひもを三度引きました。すぐにとびらがノックされ、エルシイがはいって来ました。

「おはいり、エルシイ」

[へア・ブラシ打ち]

「エルシイ、胸のボタンをはずしてごらん」

 ルイーズに言われて、不思議そうな顔をしてエルシイは二つ三つ胸のボタンをはずしました。すっと近づいて、えりを両手で開き、鼻を近づけたルイーズの顔がサッとかたくなり、

「この香水はどうしたの?」

 もうそれだけでじゅうぶんでした。エルシイは自分がなんのために呼ばれたのかがわかり、下を向いてオロオロしていました。

「ついでにスカートをひざの上までまくってごらん」

 しかし、エルシイの両腕はからだについたまま離れません。ルイーズが手をのばして、さっと持ち上げると、思わずフランソワがあっと叫んでしまいました。その娘の靴下止めは、まさに先週、フランソワがなくしたものだったのです。ルイーズは、エルシイに見えないように回ると、フランソワにウインクを一つして、

「お嬢様、エルシイに盗み癖があるなんて、ちっとも知りませんでした。さっそく親を呼んで帰らせます」

 そのことばを聞くとエルシイはとび上がって、ルイーズとフランソワのふたりに、どうかそんなことをしないでくれと頼みました。もしそんなことになれば、父親に死ぬほどぶたれるだろうし、そのうえきっと感化院に入れられてしまうと言うのです。ルイーズはなかなか許してやりませんでしたが、ころあいを見計らって、フランソワに許可を求めます。

「そうね、それほど言うなら、今度だけは許してやりなさい、ルイーズ」

「わかりました。お嬢様、今度だけは大目に見てやりましょう。そのかわり、この娘の父親に代わって、あたしがうんと叱ってやりましょう。エルシイ、あたしの折檻までい

第12回

やだとは言わないだろうね」

「はい、ルイーズさん……お嬢様、お許しくださってありがとうございます。これからはけっしていたしません」

「二度とそんな気が起きないように折檻しておもらい。ルイーズ、かまわないからここでやりなさい」

「はい、お嬢様、ここでいたします。さあ、ここにおいで」

「ルイーズ、これを使うといいわ」

 そう言ってフランソワは鏡台のところからヘア・ブラシを取り上げてルイーズに渡しました。それを受け取る時、ルイーズはちょっと苦笑して、受け取りました。先週、フランソワがこれでたたかれたのを知っていたからです。

「それはとてもよくきくわよ。なにしろ実験済みですからね」

「エルシイ、聞いたかい。お嬢様だって悪さをすれば折檻されるんだよ。おまえが盗みをすればどんなふうにされるか、ほんとうならとてもこれくらいじゃすまないんだからね。わかったかい、わかったらさっさとこっちにおいで」

 ルイーズは、逃げ腰のエルシイをつかまえて、自分のひざの上にねじふせてしまいました。スカートをまくり上げると、質素ながら娘らしいフリルの二段ほどついたドロワースがむき出しになりました。ルイーズは手早くそのヒモをほどき、エルシイのお尻をすっかり裸にしてしまいました。うっすらと赤みをおび、フランソワはそれが、おそらくけさかきのうの夜にたたかれた跡だろうと思いました。

 ルイーズの折檻はもう始まっていました。ビシ、ビシと音を立ててヘア・ブラシを打ちおろします。からだをふるわせ、泣き叫ぶ工ルシイの声に、耳をかそうとはしませんでした。フランソワが先週たたかれた時は五回くらいでした。今エルシイは、その倍以上もたたかれていました。その痛さを知っているフランソワは、一打ちごとにからだが熱くなって来るようでした。

 十四、十五……もういいんじゃない……そう言おうと思った時、ルイーズもたたくのをやめました。手をはなすと、エルシイは両手で自分のお尻を押えて、床の上をころげ回りました。

 一息ついてからルイーズは、工ルシイに手をかしてやり、身じたくをととのえて、部屋から外に出してやりました。

[お尻の塗り薬] 

「もう二度と香水に手をふれないわ」

「そうね、かなりきいたでしょうよ。あの娘、目を回すんじゃないかって心配したわ」

「平気よ、あのくらい。かわいそうでも、少少こっびどくやらないとね」

「それでも手当だけはちゃんとしてやってちょうだい」

「自分でできるわ。たっぷりラードでも塗るでしようよ」

「あら、それで思い出した、あたしがあなたを呼んだのは、実はそのことなのよ」

「えっ、ラードのこと?」

「ええ、まあ、そうなんだけど、ラードってわけにはいかないから、ちゃんとしたお薬をね。ホラ、ここにある、こんなお薬よ。これをね、あした大量に買っておいてほしいの」

「まあ、フランソワ、お母様はそんなにおこってるんですか?」

「まさか、あたしが使うんじゃないわ。実はあたしの生徒たちにね、あしたから少々パンテモン流にやろうと思って」

「なるほど……お嬢様もたたかれてばかりいないで、たたくほうに回ってみるというわけですね」

「そうよ、なにしろ効果があるんですもの。それに、たたかれるより、たたくほうがいいわ。おまえだってそうでしょ、隠さなくてもいいわ。さっきエルシイをたたいてる時のあなた、満足そうな顔をしてたわよ。あたしも……ルイーズに代わってエルシイのお尻たたいてやりたかったわ。からだじゅうが熱くなっちやった。あたしもおまえのようにうまくやれるかしら」

「さあ、どうですかね。なにしろあたしはこの一カ月、毎日たたいているんですから、うまくもなりますよ。そこへいくと、お嬢様はたたかれるだけ……ハッハッハハ」

「ルイーズ! ちょっと言いすぎじゃない。それにエルシイのことだって、けっきょくは、おまえの監督不行き届きじゃない。ママに話せば、ただじゃすまないわよ」

「フランソワ……いえ、お嬢様……そんな、ひどいわ……」

「ねえ、練習台になって。そうすれば、ママにはないしょにしといてあげる……」

「練習台って? あたしの……お尻をたたくの……」

「そうよ、そんなにきつくたたかないから、ね、いいでしょ、ルイーズ」

「ひどい人、人の弱みにつけ込むなんて。どうせ、はじめからそのつもりなんでしょ、いいわ」

「きっと、そう言ってくれると思ってたわ。さて、どうすればいいかしら、そう、そう、あの本を持って来るわ」

「本? なに、その本?」

「これはね、伯父様の家にあったのよ。中は英語で書いてあるの、イギリスで出版されたものね。ホラ、あなただってこれくらいなら読めるでしょ、家庭と学校におけろ笞打ちの方法、中はほとんど絵なのよ。男の子の学佼の本らしいけど、後ろのほうをごらんなさい、ほんの少しだけど女の子のことも書いてあるわ。女の子の場合はとくにこういうことに注意して、って書いてあるでしょ。たたき方は男の子とほとんど同じですって、ちゃんと絵までついてるでしょ。それと、いちばん最後のページ、見てごらんなさい。ね、青キップのこと思い出したでしょ、そこにはこんなふうに書いてあるのよ。えーと、女の子には、笞でお尻を懲らしめるほか、浣腸も、完全無害なお仕置きで、その効果は大である。みんな知ってるのよ、おとなたちは。でも、ママには見せたくないわね」

「驚いた、こんな本があるのね。アングロサクソンは残酷なのよ。この絵見て、きっと士官学校よ、みんなの前で、かわいそうに。こんなに太い笞よ、やっぱりフランソワ、あなたの場合は相手がお嬢様がたなんですもの、これか……これ、じゃない」

「そうね、やっぱりそうでしょうね。あたし、からだが小さいほうだから、生徒には年下なのに同じくらいのからだの子がいるのよ。その場合はひざにのせるよりこっちのほうがいいわ」

「このスタイルはいつもお台所であたしがやってるのと同じよ。これはいいわ、簡単で、手早くできるし……」

「そう、ちょっとやってみるわ」

「え-っ、やっぱりやるんですか。こんないい本があるんですもの、やってみなくたってわかるじゃありませんか………それに……そんなにむずかしいことじゃないわ……」

「ぶつぶつ言ってないでいらっしゃい」

[ お手本を参考に] 

 いやがるルイーズの腰に手を回し、イスに足をかけて、その上にルイーズのからだをのせ、立ったまま、スカートをまくり上げ、ドロワースの合わせ目を開きます。

「まあ、憎らしい、こんなにつやつやして。あたしのお尻なんかアザだらけだというのに、おまえは少々のんびりしすぎたようね。やっぱりこのへんで、少したたく必要がありそうよ」

「そんなのひどすぎるわ、あんまりきつくしないでくださいね」

 フランソワは笑いながらピシャピシャたたきはじめました。ルイーズは腰をよじってそれでも泣き声はたてません。

「もういいわ、フランソワ。もうじゅうぶんよ。あなたじょうずよ、あたしよりじょうずだわ」

「さあ、もういいわ。あたしの手のほうが痛くなっちゃう。やっぱり笞を使うことにするわ」

「おう、痛い。久しぶりにたたかれたもんだから、ヒリヒリするわ。その結果が、平手打ちは手が痛くなるということだけなの」

「まあ、そういうこと。さっき頼んだお薬のことお願いね。もういいわ」

「お嬢様、パンテモンであたしとした約束のこと忘れたんですか、あたしがそそうした時でも、お嬢様が代わって罰を受けてくれるはずでしたわ、少なくとも二回は。それなのに、お嬢様は理由もなしにあたしを叩いたんですね。あたしは女中、あなたはお嬢様。でも、約束は約束、あんまりひどいことなさると、あたしにも覚悟があります。それに……アデールだって、あたしの味方をしてくれるはずですわ」

 フランソワはドキンとしました。たしかにそんな約束をしました。アデールに話せばあたしが悪いっていうでしょうし。

「そ、そうね……ルイーズ。あたし……少しわがままだったわ、ごめんなさい……」

「あやまってもらわなくてもいいんですよ、お嬢様。お薬はあした買っておきます。それでは下にまいります」

 そしてとびらをしめる前に、

「ご用心あそばせ、フランソワお嬢様」

と言ってニヤリと笑って出て行きました。

ルイーズはきっと何かをたくらんでるわ。

聖女の行進 13

最終章 人気者 

[ルイーズの作戦] 

 日がたつにつれ、フランソワの権力範囲は広がってゆきます。伯父様の家でも、もうひとりでやってゆけます。もっとも始めからパンテモンと同じようにゆくとは考えていませんでした。けれど、少しずつ、少しずつ、一日ごとにフランソワの教授法は、パンテモン式になってゆきました。

 フランソワが心配したよりは、生徒たちはすなおについて来るのでした。そして一カ月もしないうちに、ほとんど目的の八割まで到達したのでした。

 もっとも、あとの二割を、フランソワはムリに進めようとはしませんでした。なんと言っても、ここは僧院ではないのだし、生徒たちが来なくなっては元も子もありませんから……

 毎日のフランソワの態度は自信に満ちて、何ものも恐れないかのように見えました。しかし、この世界でたったふたりだけ、フランソワの自由にならない人がいました。ママとルイーズです。

 ママは、しかたがないとしても、ルイーズは女中です。それに言いつけはよく守るし、いつもフランソワのことを、お嬢様と呼んで慕っているのです。はた目には申し分のない女中ですが、フランソワの良心がルイーズの目の中にチラッと妖しい光を見てしまうのです。

 それは、パンテモンであんなに世話になったのに、日がたつにつれ、昔のことは忘れ、そして以前のようにただの女中として使っている、それだけでなく、わがままを言って困らせたり、この間のように、たとえ冗談にせよたたいたりして、パンテモンでルイーズに約束したことを、フランソワはけっして忘れたわけではないのですが、毎日の生活がつい、主従の関係として出てしまうのです。

 二回だけルイーズの身代わりになって罰を受けるということを、フランソワは借金のように考えて、できるなら早く返してしまいたい、と思っていたのです。

 ところが、いっこうにその催促がないのです。そのチャンスはもう何回かあったはずです。

 ほんの二、三日前にも、ルイーズはテーブルの上のローソクをたおして、テーブルクロスを焦がしてしまいました。あの時だって、ルイーズはそれをフランソワのせいにすることだってできたはずなのに、ルイーズはそのテーブルクロスを持ってママの部屋にはいって行きました。そして、出て来た時は目をまっかに泣きはらしていました。

 どうしてあの時、ルイーズはフランソワを身代わりにしょうとしなかったのでしょう。それとも、あのことをもう忘れてしまったのでしょうか?

 そのことを考え始めると、フランソワはいつもイライラしてしまいます。そう……きょうこそは、ルイーズの本心を聞いてみよう……。

 フランソワはルイーズの作戦にすっかりのせられていました。始めのうちルイーズは、もうあの約束のことなどどうでもいいと思っていました。一度か二度、代わってもらったところで、これから先ずっと女中であるルイーズにしてみれば、そんなことはどうでもよかったのです。しかし、次第にフランソワの態度が昔のようにわがままになり、ルイーズにはあまえて、ムリなことはなんでもルイーズに押しつけて来るのでした。

 そしてルイーズがいっしょうけんめいにやっても、結果としてフランソワの言いつけどおりになっていない時など、ほかの女中たちの前でも平気でしかったりするのでした。それは、ルイーズにとってはなはだしくプライドを傷つけられることだったのです。

 そんな時ルイーズは、あの約束のことを思い出したりするのでした。あの二回の約束を、なるべく効果的に利用してやろうと思ったりするのです。

 フランソワの部屋で、ふたりは向かい合ってすわっていました。フランソワの右手はイスのひじかけのところで、イライラと小刻みにふるえていました。

「ねえ、ルイーズ、あたし、あなたに早く借りを返したいと思ってるのよ」

「借り? ってなんのことです?」

「忘れたわけじゃないでしょ、あなたの身代

わりをひきうけること、早くすませてしまいたいわ」

「まあ、そんなことでしたの。あれはもういいんですよ。どっちみち、あたしは女中ですからね。一回や二回お嬢様に代わってもらったって、それが何になります……奥様が、あたしの代わりにお嬢様をたたく……お嬢様!それでさっぱりします? パンテモンにいた時のように、すなおな気持ちで罰を受けられます? もうすっかり前に戻ってしまったみたいに思えますわ。だから、早く済ましてしまいたいの、とりあえず約束した分だけはね。そしてそれさえ終われば、もう何も気にすることはなくなってしまうのですね。そして次にあたしが少しでも気に入らないことをすれば、お母様に言い付けてあたしに罰を与えるのですね。いいえ、それだけではなく、この間のようにお嬢様がご自分でだって、あたしに笞を当てるのですわ。あたしにとって、二度身代わりになってもらうことが、どれほど価値のあることだと思っているの、そんなことあたしにとって、どうでもいいことなんですわ……」

 そこまで話すと、ルイーズはちょっぴり涙ぐんでみせるのでした。フランソワはすっかりめんくらってしまいました。思いがけないルイーズのことばを、すっかりまに受けて、もうなんと言っていいのか、取り乱してしまいました。

「ごめんなさい、ルイーズ。ほんとうにこのごろのあたし、少し思い上がっていたようね、仕事のことで、頭がいっぱいだったものだから、あなたのこと、そんなふうに考えたつもりはないんだけど、でもやっぱりあなたの言うとおりね。まるで物を返すように早く済ませてしまいたいなんて、そんな気持ちがそもそもまちがいってわけね」

「それじゃ、お嬢様、あたしもう部屋に戻ってもよろしいでしょうか? ちょっとからだのぐあいが悪くって……」

「まあ、ルイーズ、病気?」

「いいえ、毎月の、あれですよ」

「そう、それならいいけど、ごめんなさい、早くお部屋に戻って…」

 とびらをしめて階段をおりてゆくルイーズの足どりは軽やかで、とてもからだの調子が悪いようには思えませんでした。

[こわされた飾り壷]

 次の朝、フランソワはママと連れ立って教会に行きました。そして戻ると、あとはゆっくり休日を楽しむはずでした。ところが、玄関のところに香水入れが落ちてこわれていました。それはフランソワがママにもらったものでした。けさ、水で洗って窓のところにほすつもりで置いて出たのです。きっと、風でカーテンがゆれて落ちてしまったのでしょう。

「ママ、ごめんなさい」

「ええ、しかたがないわ、風で落ちたんですもの。でも、もう少したいせつに扱わなくてはだめよ、窓のところに置きっぱなしにするなんて、不注意ですよ。これからは気をつけなさい」

「はい」

 ママは許してくれたものの、ちょっびり不きげんにしてしまいました。少し頭が痛いから部屋で休みます。そう言ってママは部屋に引っ込んでしまいました。

 フランソワは着替えを済ませると、別にすることもなく、これからの一日をどう過ごそうかと考えていました。ルイーズは階段の手すりをふいていました。

「ルイーズ、きょうくらいお休みなさい。ほかの女中たちはどうしたの、みんな外へ出てしまったんでしょ。あなただって、お休みのときぐらい楽しみなさいよ」

「ええ、でもみんな出てしまっては、奥様のことはだれが見ます? ひとりぐらい残っていなくっちゃね」

「でも夕方まではだいじょうぶよ、久しぶりにあたしといっしょに外に出ない。きょうは少し暑いけど、いい気持ちよ」

「ええ、でも、この次にしますわ。やっぱり気分がよくないんです」

「あら、そうだったわね。それじゃほんとうに、お部屋で休んでればいいのに……」

「ええ、そうします、あとこれだけ終わったらね」

 そう言った時、ルイーズは階段を踏みはずし、ぐらっとよろけたとたんに、手すりの最下部にのせてあった飾り壷を落としてしまいました。

 ぱかっと鈍い音をたてて、二つに割れた壷を、ルイーズは青ざめた顔で見ていました。

「どうしましょう、たいへんなことをしてしまったわ。奥さまはおこるわ。とても、とても、いつものようなわけにはいかないわ。覚悟をしなければね。でも……つらいわ……あたし、あれなんですもの、パンテモンでは許してくれたけど、奥様は許してくださらないのよ。あの時でも、前にも一度そんな時があってね、あたしが二、三日罰をのばしてくださいって頼んだけど、奥様は罰はすぐに与えるのがいちばんききめがあるっておっしゃって……許してはくださいませんでしたわ、きょうもだめですわ。とても恥ずかしくって、死んでしまいたいぐらいつらいわ。でもしかたがないわ、奥様に報告しておしおきをいただいて来ますわ」

 ルイーズは手すりにつかまりながら、一歩一歩ゆっくりと上ってゆきました。階段の半ばまで来た時、フランソワが声をかけました。

「ルイーズ、待って! ルイーズ……あたしが……いいわ、あたしが代わってあげる……」

「いいえ、いけません。この壷はとてもたいせつになさっていたのですもの。お嬢様だからって許してはくださいませんよ。きっとたたかれますわ」

「でも、あなたならきっと、ひどくぶたれるわ」

「ええ、そうでしょうね、乗馬鞭かもしれません。でも、あたしがそそうしてしまったんですもの。折檻を受けるのはあたりまえですわ」

「でもからだの調子が悪いんだもの、かわいそうだわ。だから、ね、あたしにまかせなさい。あたしなら……あやまれば少しは軽くしてくれるでしょうから。それに、あたしは今なんでもないわ、ね、ルイーズ、あなたとの約束を果たさせて、一回分だけ……」

「でも、この一回はきびしいんですよ」

「いいわ、そのほうがあたしのご都合主義じゃないってことわかってもらえるでしょ」

「もういいのよ、そんなふうに言わなくってもよくわかってるわ」

「それじゃ、あたしの言うとおりにしなさい。

あたしがママのところに行くわ」

「ありがとう、フランソワ、助かるわ」

[女中の目の前で]

 フランソワが部屋にはいって行くと、しばらくして奥様が出ていらっしゃいました。

「もうだめなのかい。えっ、どうれ、見せてごらん。おお、ルイーズ、おまえが持っているのがあの壷なの。まあ、どうしましょう」

「ママ、ごめんなさい。あたし、階段を踏みはずしちゃって、それでよろけたものだから、ほんとうにごめんなさい、これから気をつけます。だから、許してください。これからはきっとそそうしないように気をつけますから。

「階段もゆっくり、レディーらしくゆっくり降りるわ。もう、駆けたりしないわ」

「ああ、今度パパが帰ってらした時に、なんて言えばいいの、娘がおてんばでこわしちゃったなんて言えませんよ。おまえはほんとうにおてんばになってしまって、教会では聖書を落としたり、窓に香水びんを置いてこわしたり、今度は壷を……ああ、どうするの。口ではなんとでも言えますよ。ついさっき、気をつけるって言ったばかりじゃないか。舌の根もかわかないうちにまたこんなことをしでかしてそれでよく許してなんて言えたもんだね。どうしてもっとすなおに罰を受けようとする態度ができないのだね。このごろ、ママのことをバカにしているよ。なんでも口先でごまかすことばかり考えているわ。壷をこわしたことはもちろん悪いことさ。でもだれにだって過失はあるよ。ママだって物をこわすこともあるだろうさ。そのとき、ほんとうに後悔して自分のしてしまったことを反省できれば、やってしまったことはしかたがないさ。それよりも、わたしはおまえの態度が気にいらないね、自分の反省よりも先に、どうやって罰をのがれようかと考えてる、ママはそんな娘は大きらい。きょうは許さないよ。笞だよ。笞でたたいてやる。生意気で高慢にはれ上がったお尻をたたいてやるよ。このごろ外でよく話を聞くのさ、フランソワ先生はとてもきびしくて、生徒が少しでもまちがえると、お尻をたたくんだってね。その先生がお家ではおてんばでママにお尻をたたかれなければならないのかい、惰けない話だね。さあ、わたしといっしょに来るんだよ。ルイーズ、そこをかたづけたら、薬を持ってわたしの部屋に来るんだよ。いいかい、すぐにだよ、さあ、フランソワおいで」

 いつものように、ママはフランソワの耳をひっぱって連れて行きました。ルイーズは大急ぎで壷をかたづけ、フランソワの部屋から傷薬を取って、奥様の部屋に持って行きます。

罰はまだ始まっていませんでした。奥様はすその長いガウンから、そでやすその短いガウンに着替えていました。

「ルイーズ、おまえ、ここにいなさい。どうせおまえたちふたりは何度もいっしょに罰を受けたんだろうけど、このごろは別々だからね。久しぶりにこの娘のおしおきを見ていておやり。フランソワも女中に見られていれば、少しは恥ずかしいと思うだろうよ」

「お願い……ママ……そんな……恥ずかしいわ。ママどうしてもルイーズがいなければいけないの?」

「ああ、そうだよ、ママにたたかれるくらい、おまえは平気なんだ。十七にもなった娘が、少しは恥ずかしいと思わないかい。お尻を丸出しにして、ピシャピシャされるなんて、ルイーズにいてもらえば少しは恥ずかしいだろう、どうだね」

「ママにだって……恥ずかしいわ……」

「わたしにはそう思えないね、さあ、ルイーズ、笞を取ってちょうだい、そこよ、鏡台の右側に下がってるでしょ、そう、それを持って来ておくれ」

[ものすごいお仕置き]

 ママは、フランソワの背中をポンとたたいて、ベッドのほうにうながしました。フランソワはひざをついて顔をベッドにうずめました。ママの手がスカートを割ってはいって来ます。慣れた手つきで下着のひもをほどきはじめました。下着をかかとのところまで下ろし、じゃまなものをどけるように、スカートを背中の上まではね上げました。

 その下には、すばらしくぜいたくな縮緬のシュミーズが現われました。ルイーズはその下でフランソワのお尻が小刻みにふるえるのを見ていました。そのシュミーズをゆっくりとまくり上げて、したくがすっかりととのいました。

 しばらくぶりに見たフランソワのお尻は、すっかり発育し切って、丸々としていました。そしてあのころとちがって、フランソワの肌は、つやつやとして、笞跡など一つもないのでした。

〃やっぱり、奥様はお嬢様には甘いのね、笞などめったに使わないんだわ。でも、きょうは残念でした……〃

 悲しそうな顔をしながら、ルイーズは心の中でペロリと舌を出しました。

 たちまちすごい平手打ちが始まりました。あまりにも激しいお尻打ちに、フランンワも足をぱたぱたさせ、なんとかママにもう少し軽くしてもらおうとしました。しかし、ルイーズが見ていることが、もう一つの……ママのほうにもほんの少し、変化を与えたようです。

 ルイーズのてまえ、手心を加えることもできないので、つい激しくなってしまいます。

 平

第13回

手打ちが終わると、次はいよいよ笞打ちです。笞は容赦なくお尻に打ちおろされ、フランソワは苦しさにもだえながら、泣き叫んでいました。恥ずかしさなどとうの昔に忘れてしまったかのように足をぱたぱたさせ、からだをよじり、悲鳴をあげました。そしてママに何度も何度も許しを願いましたが、ママは相変わらず打ちつづけました。

 ルイーズも少々フランソワがかわいそうににりました。

「奥様、もういいんじゃありません。もう、じゅうぶんですわ。お嬢様も後悔していらっしゃいますわ」

 ようやく笞を下に置くと、ルイーズに、

「さあ、薬をつけてやっておくれ、これでこの娘も少しは懲りたろ

うからね」

[思いがけない告白]

 ルイーズは、フランソワに肩をかしてようやくフランソワの部屋まで連れて来ました。ベッドの上にうつぶせに寝かせて薬をつけてあげました。フランソワはまた泣いていました。よほどこたえたのでしょう。まだ顔が青ざめていました。自分から引き受けたことなので、ルイーズに文句を言う訳にもいきませんでしたが、ちょっびりうらめしそうな目でルイーズを見るだけでした。

「ごめんなさい、フランソワ。奥様がこんなにひどくなさるなんて思いませんでしたわ。ほんとにきょうはひどかったですね。痛いでしょう。ほら、こんなにはれてしまって、もう少しで血が出るところでしたわ」

「お願い、そうっとしてね、とても痛いのよ。がまんできないわ。でも、よかったわ、これで少しでもあなたにお返しができたんですもの」

「まあ、フランソワ……」

 それだけ言うと、ルイーズはべッドの上に泣きくずれてしまいました。

「どうしたの? ルイーズ、ねえ、どうしたの」

「ああ、お嬢様……あたしって悪い女ですわ。うそなんです。みんな、うそなんです……」

「うそ? 何が? 何がうそなの。どうして泣くの。あたしには何もわからないわ、ルイーズ、話しなさい」

「みんなうそなんです、あたしのからだのぐあいが悪いのも、階段のできごとも、みんな、お嬢様のことを困らせてやろうと思ってしたことなんです」

「どういうこと? まだよくわからないわ」

「お許しください。お嬢様、何もかもあたしがたくらんだことなんです。お嬢様が奥様にたたかれるように仕向けたんです。ああすればきっとお嬢様が、あたしの代わりを引き受けてくださると思ったんです。そして、そのとおりになりました。でも、あんなにひどくなさるとは思いませんでした。申し訳ございません。どうかあたしをクビにしないでください」

「ふ-うっ……あなたってすごいのね、驚いたわ。あんまりびっくりしたんで、お尻の痛いの忘れてしまったわ。急にそんなこと言われたって、おこる気にもなれないわ。でも、だんだんその気になってきているってことを忘れないでね……と、すると、あの香水びんもおまえがやったことね。ふ-ん、なるほど、あたしにもだんだんのみこめて来たわ、うーむ、許せないぞ……これは」

「お願い、奥様には言わないでください」

「……」

「その代わり、お嬢様の言うことはなんでもききますから……」

「そうね、まあ、自分から白状したんだし、ママに言いつけるのだけは許してあげるわ、とりあえず……からだのぐあいが悪いんじゃなかったら、お湯を持って来てくれない、マッサージしてほしいわ」

「はい! お嬢様、すぐに用意します」

[マッサージレスビ]

 ルイーズは部屋を出ると、すぐにお湯を持って戻って来ました。そしていっしょうけんめいにマッサージをはじめました。

「お嬢様、もう二度としませんから、許してくださいね。おおこりになるのはあたりまえですわ、あたしが悪いんですから。でも、どうかこのことで、あたしをあまりひどいめにあわせないでください。あたし、とても後悔しています……」

「何度もやられちゃたまらないわ、これっきりにしてほしいものね。でも、こんなひどいいたずらをしておいて、許してちょうだいなんて、少し虫がいいんじゃない。いたづら娘にはおしおきが与えられるべきでしょ」

「ああ、やっぱりなさるんですね、しかたありませんわ、でも、ひどくなさらないでくださいね。このごろのお嬢様は、とてもあのほうがじょうずになられたとか……」

「そんなことないわ……ああいい気持ち、もう少しやってね、あたし眠くなってきたわ……」

 なんとかフランソワのきげんを直そうと、ルイーズは、けんめいにマッサージをしました。はれ上がったお尻をそっともみほぐして、ついでに足や背中や……。

「だめよ、ルイーズ、およしなさいったら、あたしどうかなっちゃうわ、わるい人ね。そんなことしたって、許してあげないわよ、ああっ、ルイーズ、おねがい……」

 一時間余りのルイーズの猛烈なマッサージに、フランソワはすっかり骨ぬきにされてしまいました。そして、あげくのはて、ルイーズにしたおしおきといえば、ほんの型どおり、二つ三つ、ピシャピシャとお尻をたたいただけで許してしまいました。それも、べッドの中で……。

[見直された躾]

 あのことがあって以来、時々ルイーズがフランソワの部屋に長居をすることがあったのですが、ママはすこしも気がつきませんでした。そして、ちょうどそのころ、フランソワが教えていた娘が、バイオリンの腕前を認められたり、またその良家の娘が社交界で不行跡があったり、アデールたちがはじめた教育研究会が世間で認められたり、それやこれやで、急にパンテモンの名が有名になって来ました。

 とくに上流家庭の間で、娘の教育はパンテモンで、というのが合いことばになって来ました。しかし、パンテモンはれっきとした僧院で、一般の教育の場とは少しちがうので、そこにはいれる生徒の数も自然と制限されてしまいます。

 今やパンテモンは、パリ有数の狭き門になってしまいました。そしてアデールたちの研究会には、そこにはいれなかった娘たちが、どっとおしかけたのでした。

 今ではフランソワも、そこの一員となって音楽を受け持っていました。なにしろ有数の金持ち連中の娘たちを相手にしているので、はじめはパリ市内にあった教室も、今では郊外に移り、広い庭を持った、まるでホテルのような学佼になってしまいました。

 フランソワはここでバイオリンの初等教育をして、なかでもみどころのある娘はパリの伯父様のところにやることにしました。

 郊外といっても、馬車で三時間くらいのところなので、フランソワたちはいつもパリに戻って来ていました。町の楽しさも、もちろん好きなのですが、フランソワはその職場がたいへん気に入りました。

 そこには三十代の人がひとりと、四十代の人がふたり、いずれも昔、パンテモンで教育を受けた一流の家柄の婦人がいて、いろいろと取りしきってはいましたが、アデールやフランソワの若い力を高く評価してくれていたので、たいへんうまくいっていましたし、それに若い従順な娘たちが大ぜいいて、昔フランソワたちがそうであったように、今ではフランソワの顔色をうかがっているのです。

 でも、フランソワ先生は、たいへん人気があって、生徒からは慕われていました。もちろんちょっびりこわいのですが、この学校でこわくない先生なんていないのですから。

 ここの娘たちはたいへんぜいたくな制服を着ていました。パンテモンとはくらぺものにならないもので、もちろん下着もちゃんとしたものを着ていました。そんなところにも、この学校が人気を得た原因があるのかも知れません。もっともここに来て、始めて娘たちはそのきちんとした服装が、おしおきを受ける時には、ただ単に恥ずかしさを増す小道具に過ぎないということを悟るのです。

 スカートとベティコートをまくり上げられても、まだ腰から下にはひざまでのドロワースと、まっ白なくつ下とくつですっかりおおわれているのです。それだけでもじゅうぶん恥ずかしいのに、ここではドロワースの割れ目を押し広げてお尻をむき出しにされるのです。

 からだの中でお尻だけがみんなの目の前でむき出しにされたことを、娘ははっきりと意識するのです。

 ここにいる娘たちのなかで、フランソワにたたかれたことがない娘は、ひとりもいません。教室や職員室や、そしてある者は先生の個室に呼び出されて、それでも、なお、フランソワに人気があるのは、若さのせいでしょうか。個人的な悩みごと専門の相談役でもあるのです。

[女神の光来]

 そんなある日、フランソワが、先生がたにも制服を作ったら? と提案しました。はじめのうちは、あまり乗り気でなかったのですが、フランソワがあまり熱心なので、とりあえずデザインだけさせてみようということになったのです。フランソワは一流のデザイナーに頼みました。そしてでき上がって来たデザイン画を見て、みんな一目で気に入ってしまいました。

 さっそく制服を作ることになりました。でき上がると、それは絵で見た時よりまた数段よく見えるのでした。格調の中にも新しい流行を取り入れた制服は、ファッション雑誌まで取り上げるほどでした。

 なかでも、若いフランソワやアデールがそれを着てパリの町を歩くと、思わず人々は立ち止まってながめるのでした。

 そのうわさはすぐにパリじゅうの話題になり、今では誰ひとり知らない者はいません。

お東子屋もパン屋も肉屋も、カフェのマダムも、その後ろ姿をながめながら、うっとりとして口々にこう言うのです。

「女神様のご光来だぜ」

「いや、パンテモン出だもの、聖女様さ!」

「そうだ、聖女様の行進だ」

フランソワの歩いて行く道はどこまでもどこまでもまっすぐに延びているようです。

どこまでもどこまでも、フランソワは歩いて行くでしょう。

 ママ、伯父様、ルイーズ、アデール、そのほかの大ぜいの仲間と肩を組んで、どこまでもどこまでも行進するのです。

(おわり)

偶尔看到的,不知道符不符合要求

这个站有不少小说

把链接附上http://pl-fs.kir.jp/kunken/cat9tail/INDEX-2/japan/jwn.htm

不过需要反墙。

发了几篇日文的,兄弟们都说比较重不给翻,这个比较轻吗。

没人翻译一下吗

有适合的,翻译呗。

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THE END
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